93 / 163
堕ちた魔法拳闘士
4ー2
しおりを挟む例によって民衆の混乱を避けるためにクラッシコ王国からほどよく離れた場所にドロマーは降りた。人の形になると、そのタイミングでレイディアントが隣に舞い降りた。そして彼女は胸壁に囲まれた町を見て懐かしそうに呟いたのだ。
「クラッシコ王国か…」
ドロマーはてっきり城下町から外れた森の中にある壊れた自宅に向かうのだろうと予想を立てていた。
だからこそ、それを裏切って街に向かったメロディアにどこに行くつもりなのかと素直な疑問をぶつけた。
「あれ? お家ではなくて街に行くんですか?」
「ええ。あの家はしばらくは住めないんで、昔に使っていた家に行きます。騎士団への報告もありますからね」
メロディアはそう言って二人をかつての自宅に案内する。森の中に構えた住居は勇者スコアを一目みたいとか、武者修行目当ての野次馬達を避けるための家だ。正式な来客や友人の来訪に備えて街中にも家は残してあった。
そしてその住居にはもう一つ秘密があった。
やがて三人はクラッシコ王国の城下町にある主要地区の中でも、大通りに面した中々に良い立地に建った一軒の家にたどり着く。その家こそが世界を救った後に勇者が立てた家であり、メロディアの生家でもあった。
ただし、世界を救った勇者の家として見ると少々みすぼらしくも思える。だが勇者スコアの性格を知っている八英女の二人からすれば、きっと様々な特権や報酬を断ったり、貧しい人に施したりしているのだろうと確信めいた予想はできていた。
二人はメロディアに続いて家の中に入っていく。途端に淀んだ空気が鼻孔をかすめた。定期的に掃除はしていることは見てとれたが、しばらく空気が佇んでいたようで湿った埃の匂いがした。
それはメロディアも自覚していたので何はなくとも先に窓を全開にして新鮮な風と光を部屋の中に取り込んだ。たったそれだけのことでも家が息を吹き返したかのように生き生きとし出した気がした。
◇
そうして荷物を下ろすとメロディアは更に二人を家の奥へ連れていった。奥には下に続く階段があり、それを降りると更に広々とした空間が広がっていた。
並べられた机と椅子。
綺麗に掃除された厨房。
「もしかしなくても…ここは食堂ですか?」
「はい。両親がほぼ道楽でやっていた食堂です。ここを営業再開させてしばらくの生活費を稼ごうかと思ってます。僕一人ではどうしようもなくて屋台を引いていたんですが、お二人という人手が確保できましたので」
「なるほど。ここで給仕係りでもして借金を返せと」
「ええ。料理は僕が担当しますので、お二人に店の事をお願いしたいと考えています」
メロディアが自分の考えを打ち明けるとドロマーがふふふと愉快そうに笑いだした。
「なんだ、その笑いは?」
「いえ、実は密かに憧れていたんです」
「給仕にか?」
「給仕係というか、こうして町で働くことに対してですね。剣を持って戦うばかりの日々でしたから」
「そう言うことか…確かに分からなくはない」
「ふふ。メロディア君の料理を食べて満たされた人を私が食べて満たされる。素晴らしいお店です」
「そんないかがわしい飲食店にするつもりはない」
「ダメですよ、そのような時代遅れなことを言っては。フードポルノという言葉もあるくらいですから」
「意味が違えよ」
メロディアは隅から箒などの掃除道具を取り出すと、それを二人に渡した。一応はこの店舗の事も気にかけてはいたが、営業を再開するとなると掃除は必要不可欠だ。それに加えて鍋釜包丁などの調理器具は使わないと錆びるので、屋台や普段使い用に森の自宅に粗方持っていってしまっている。野ざらしになっているであろうそれらもこちらに持ってこなければならない。
それに材料の定期購入をするために業者に連絡をしたり、屋台をやめて再び食堂を再開することを告知したりと、ただ店を開けるだけでもやることは山積みだった。
「で、僕は森の方の家に行って必要なものや無事な家具なんかを持って帰ってきます。お二人は店の掃除をしててください。終わったら今日は自由にしてもらって構いません。二階と三階には部屋も沢山あるので、お好きな部屋を自室にしていいので」
「承知した。借金を返しきるまで大人しく従おう」
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる