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閑話 メロディアの仕事
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そうしてローナ家始まって以来の事となる、庶民的な料理での当主の誕生を祝う席が設けられた。もっとも五人の子供たちにはキチンと準備した懐石料理も振る舞ったのだが、むしろ五人の方から自分たちにも焼きうどんを出してもらえるよう請願があったのだ。
子どもたちは何とも神妙な面持ちで料理を口にしていた。あれほど口やかましかったのに、今となっては黙々と味わいつつかつての厳格さとはかけ離れて笑顔を見せる父親の顔を見ていた。
やがて食事が終わると、長兄のゴローイが意を決したよう言う。
なんとヤタムをギタ村のローナ家に正式招き、シャニスの面倒を見てもらいたいというのだ。弟妹達は驚きこそしたが、全員が心のどこかでそれが叶えばという期待があったのも事実。反射的に異論を唱えようとしたが、十分な理由が見つけられない。むしろ決定権はヤタムの方にあるのだから。
彼女も彼女でまさかそんな申し出を得られるとは思っていなかったようで、目を丸くしていた。嬉しくはあったが同時に複雑な心境でもあった。目の前にいる五人の事は長年憎々しく思っていたし、その反動から没落を企てていたのだから無理からぬことである。調度品の数々は返却売却ができるにしても、並々ならない損害をこの家に与えてしまっている。素直に受け入れられないのだった。
だから彼女はずうずうしい提案をし返した。それは自分の当初の目的だ。
「母が一緒でもいいのでしたら」
きっと断られるとヤタムは思っていた。いくらなんでも不貞を働いた自分と、その母親…しかも当主の不倫相手を堂々と迎え入れるなんてことは起こりえないと思っていたのだ。しかしヤタムの予感は当たることはなかった。
ゴローイが毅然として断言したからだ。
「勿論。私はそのつもりでしたよ」
「う」
ジョーカーを失ってしまったヤタムは少々困惑した。しかし何故かまた黙してしまっている父の笑顔を見るとその隣に母の姿がちらついた。そうすうと心のつかえが取れ、自然と五人の子供たちに向かって頭を下げていた。
「これまでの不貞をお詫びいたします。それでも私を許していただけるのでしたら、是非お願いいたします」
「こちらこそ」
そんな約束が交わされた後、ヤタムは改めてメロディア達を見た。そして軽やかな心持を必死に抑えて飽くまでも気品を保ちながら近寄ってくる。そして三人に向かって恭しくお礼の言葉を述べた。
「レイディアント様、ドロマー様、そしてメロディア様。ありがとうございました」
礼を言われて参ったのはドロマーとレイディアントだ。二人とも名実ともに何もしていないという自負があったから当然と言えば当然だが。困ったように視線を右往左往させ、最終的には一番の功労者たるメロディアに行きつく。
メロディアは朗らかに笑み、
「なんてことないですよ」
といった。
そんな彼を見た途端、ドロマーとレイディアントは少々胸にチクリとした痛みを感じたのだ。
メロディアの横顔にかつて憧憬や羨望や恋愛感情にも似た気持ちを抱いていたスコアを連想してしまったからだった。すると呼び寄せられるように、かつてのパーティでの出来事が思い返された。
記憶の中の勇者スコアの笑顔と、今隣にいるメロディアの笑顔は堕ちてしまった今の自分が直視してはいけないもののように思えてならない。そんな気がしていた。
子どもたちは何とも神妙な面持ちで料理を口にしていた。あれほど口やかましかったのに、今となっては黙々と味わいつつかつての厳格さとはかけ離れて笑顔を見せる父親の顔を見ていた。
やがて食事が終わると、長兄のゴローイが意を決したよう言う。
なんとヤタムをギタ村のローナ家に正式招き、シャニスの面倒を見てもらいたいというのだ。弟妹達は驚きこそしたが、全員が心のどこかでそれが叶えばという期待があったのも事実。反射的に異論を唱えようとしたが、十分な理由が見つけられない。むしろ決定権はヤタムの方にあるのだから。
彼女も彼女でまさかそんな申し出を得られるとは思っていなかったようで、目を丸くしていた。嬉しくはあったが同時に複雑な心境でもあった。目の前にいる五人の事は長年憎々しく思っていたし、その反動から没落を企てていたのだから無理からぬことである。調度品の数々は返却売却ができるにしても、並々ならない損害をこの家に与えてしまっている。素直に受け入れられないのだった。
だから彼女はずうずうしい提案をし返した。それは自分の当初の目的だ。
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ゴローイが毅然として断言したからだ。
「勿論。私はそのつもりでしたよ」
「う」
ジョーカーを失ってしまったヤタムは少々困惑した。しかし何故かまた黙してしまっている父の笑顔を見るとその隣に母の姿がちらついた。そうすうと心のつかえが取れ、自然と五人の子供たちに向かって頭を下げていた。
「これまでの不貞をお詫びいたします。それでも私を許していただけるのでしたら、是非お願いいたします」
「こちらこそ」
そんな約束が交わされた後、ヤタムは改めてメロディア達を見た。そして軽やかな心持を必死に抑えて飽くまでも気品を保ちながら近寄ってくる。そして三人に向かって恭しくお礼の言葉を述べた。
「レイディアント様、ドロマー様、そしてメロディア様。ありがとうございました」
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メロディアは朗らかに笑み、
「なんてことないですよ」
といった。
そんな彼を見た途端、ドロマーとレイディアントは少々胸にチクリとした痛みを感じたのだ。
メロディアの横顔にかつて憧憬や羨望や恋愛感情にも似た気持ちを抱いていたスコアを連想してしまったからだった。すると呼び寄せられるように、かつてのパーティでの出来事が思い返された。
記憶の中の勇者スコアの笑顔と、今隣にいるメロディアの笑顔は堕ちてしまった今の自分が直視してはいけないもののように思えてならない。そんな気がしていた。
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