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堕ちた竜騎士
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しおりを挟むガラガラと屋台の車輪の音が夜の王都に響いている。
やがてメロディアは屋台ごと外壁の門を通り、草原へと出た。本来であれば面倒くさい手続きや通行税を払わないと出入りはできないが、守衛たちは労いの言葉を掛けこそすれ引き留めることはしない。もはや顔パス状態だ。
メロディアの家は外壁と騎士たちに守られている王都の外、昼間でもうっそうとして獣や魔物の出る森の中にあった。
初めのうちは城下町で暮らしていたのだが、勇者とその家族を目当てに連日訪れる旅行者や野次馬たちに嫌気がさし、父が郊外に居を移したのだ。その甲斐あってわざわざ襲われるリスクを背負ってまで物見遊山に来る輩は少なくなった。
確かに凶暴な動物や魔物は多いが、メロディアにとっては何の問題もない。父の剣の才能を受け継いでいるし、幼少から武魔両道の英才教育を施されてきたからだ。並大抵の者では相手にならない。強いて言えば毎度屋台を引いて往来するのが少々面倒という欠点もあるが、この屋台はメロディアの夢の一つだから決して苦には感じていなかった。
料理人、それも移動式の店舗で世界を周って色々な人々に料理を振るまう料理人になるのがメロディアの夢だった。
メロディアが料理人になる夢を抱いたきっかけは父の冒険譚にある。魔王が住まう魔界までの道中に勇者スコアは、様々な国を練り歩いて仲間を募り、困窮する人たちを大勢救ってきた。
『その道中で一番つらかったのは空腹だ。だからお前にはお腹いっぱいにご飯を食べてもらいたいし、お腹が空いている人を助けるような男になってもらいたいんだ』
スコアはメロディアにせがまれて語った冒険譚を、いつもそう言って結んでいた。スコアとしてはそういう気概を持って育ってほしいと言ったつもりだったが、メロディアはとても素直に父の言葉を受け取っていたのだ。
そうしてひた向きに料理の腕を磨き、移動式店舗のたたき台として始めた屋台も好評を頂いている。そろそろクラッシコ王国を出て他の国々を周りたいという欲求を抑えるのも難しくなってきていた。
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