49 / 52
ご令嬢のストーカーが…
9-4
しおりを挟む
「テメエが主犯か?」
波路から先ほどよりも濃いオーラが滲み出した。黒よりも黒い闇に包まれているような錯覚さえ覚えるほどに。
すると仮面の魔術師はそれとは正反対に極めて明るい声を出した。
「素晴らしい!」
「あ?」
「七つの大罪の一人が豹変しての暴走、謎の拘束魔法、そして事件が解決して安心しきったところを狙い撃ったというのに全員を庇ってからの応戦。全てが不測の事態だったはず。それなのにあなたは動揺を見せず、今もさも当然と言う態度で応じている。これを称賛せずにいられましょうか」
称賛の言葉は裏を返せば、一連の騒動は自分が企てた自白したも同然だ。魔術師がそう言い終わった瞬間、波路は脇突きと共に前進し斬りかかった。それは命中することは叶わなかったが、そこから目まぐるしい技の応酬が始まった。けれど私の目には半分以上も映っていない。速過ぎて分からなかった。
何となく理解できたのは魔術師は距離を取ろうと奮戦しており、波路がそれを許さないように応戦しているという事だ。
魔術師は武装解除の魔法を駆使して波路の武器を弾き飛ばして応戦しているが、その都度新しい武器を取り出してくるので手が付けらない。
私の頭の中にはかつてコルドロン先生から聞いた教えが反復されていた。
『戦士とはテーブルを挟まない限り戦ってはいけない』
テーブルというのは交渉や誘惑を含めた心理戦の事。私達魔術師は当然魔法を使って生活をし、いざという時は魔法を使って戦う。魔法を発動させる方法は呪文、薬品、ステップなど数多く存在するが、戦闘を本職としている者達からすれば、それは大きな隙になる。
正直、私はその話を半分バカにしていた。日本にいる時に街のチンピラやヤクザ崩れのような男を相手にして数回ほど魔法を使って喧嘩をした事がある。確かにただのパンチやキックに比べれば隙はあるかもしれないが、それは事前の準備と慣れでカバーできる程度の事でしかなかった。
けれど、目の前で繰り広げられている戦いを見て、私は無知だったと思い知らされている。仮面の魔術師が私だったら既に何度切り殺されていただろうか。
昨日食堂でフィフスドルが言っていた言葉の意味も今ならとてもよくわかる。コルドロン先生から譲り受けたペンダントに付与された空間収納魔法と、波路が本来持っている武器の扱いの技とが融合して手が付けられない程の暴れっぷりだ。
すると、あれほど激しかった波路に猛攻が横薙ぎの一閃を境にピタリと止んだ。急に訪れた静寂は仮面の魔術師よりも私達の方が混乱を覚えるほどだった。
波路は決して警戒や構えを解くことはせずに、毅然とした態度で言い放つ。
「アンタ…コォムバッチ校長か、もしくはスオキニ先生だな?」
「え!?」
驚きと猜疑心を孕んだ私達全員の視線が仮面の魔術師に集中する。するとどこからともなく一人分の拍手の音が聞こえてきた。
「素晴らしい。正解です」
すると仮面の魔術師の影から他ならぬコォムバッチ校長が現れた。途端に魔術師のマントと仮面は光の粒になって流れ落ち、中からはスオキニ先生が姿を見せた。顔に大粒の汗を垂らしながら、スオキニ先生はコォムバッチ校長に対して跪く。
二人の先生はすっかり敵意を削ぎ落しており、まるで毒気が感じられない。そのせいで波路も構えこそは解かなかったが、警戒心は少し薄らいだように思えた。
「どうして気が付けたのですか?」
「収納魔法を使った初太刀…躱されることは想定内だったが、反射や経験で避けた風じゃなかったからな。明らかに俺がそう言う戦法を取ると知っている奴の動きだった。俺がアメリカについてからこの魔法を使ったのは、入学試験の前と、あの『七つの大罪』の儀式の時と使い魔の丘での三回だけ。そのいずれかの現場にいて尚且つあそこまでの戦いができる実力がある奴ってのは、アンタとスオキニ先生の二人に自然と絞られる。だから鎌をかけた」
「感服ですよ。カツトシ・ナミチ」
するとその時、周りの生徒たちを縛り付けていた金色の鎖が次々と壊れ始めた。今度こそこの一連の事件は終わりを告げたのだった。ほとんどの生徒たちが放心状態で事の成り行きを見守る中、リリィ達は一心不乱にこちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。
「まずは唐突にこのような事をしてしまった、その非礼をお詫びします。叶うならば武器を納めてください。もうこの場での安全はお約束しますから」
コォムバッチ校長は波路に向かって深々と頭を下げて言った。学園の長たる者が波路に向かって頭を下げたことに、皆は並々ならぬものを感じ取っていた。
それは波路も同じだったようで、収納空間から鞘を取り出すと持っていた刀を納刀し腰のベルトに差した。それでも柄から手を離さず戦闘態勢を完全には解かなかった。
「悪戯にしては随分と手の込んだことをするんだな。これがアメリカ式か? それとも魔女や悪魔の歓迎ってのはこんな感じなのか?」
「この十数年、思うところがあったのです」
コォムバッチ校長は神妙な面持ちに変わる。そして波路の質問に答えているような、答えていないような返事をし始めた。
「今の悪魔や魔術師たちは、人間の怖さを忘れている、とね」
波路から先ほどよりも濃いオーラが滲み出した。黒よりも黒い闇に包まれているような錯覚さえ覚えるほどに。
すると仮面の魔術師はそれとは正反対に極めて明るい声を出した。
「素晴らしい!」
「あ?」
「七つの大罪の一人が豹変しての暴走、謎の拘束魔法、そして事件が解決して安心しきったところを狙い撃ったというのに全員を庇ってからの応戦。全てが不測の事態だったはず。それなのにあなたは動揺を見せず、今もさも当然と言う態度で応じている。これを称賛せずにいられましょうか」
称賛の言葉は裏を返せば、一連の騒動は自分が企てた自白したも同然だ。魔術師がそう言い終わった瞬間、波路は脇突きと共に前進し斬りかかった。それは命中することは叶わなかったが、そこから目まぐるしい技の応酬が始まった。けれど私の目には半分以上も映っていない。速過ぎて分からなかった。
何となく理解できたのは魔術師は距離を取ろうと奮戦しており、波路がそれを許さないように応戦しているという事だ。
魔術師は武装解除の魔法を駆使して波路の武器を弾き飛ばして応戦しているが、その都度新しい武器を取り出してくるので手が付けらない。
私の頭の中にはかつてコルドロン先生から聞いた教えが反復されていた。
『戦士とはテーブルを挟まない限り戦ってはいけない』
テーブルというのは交渉や誘惑を含めた心理戦の事。私達魔術師は当然魔法を使って生活をし、いざという時は魔法を使って戦う。魔法を発動させる方法は呪文、薬品、ステップなど数多く存在するが、戦闘を本職としている者達からすれば、それは大きな隙になる。
正直、私はその話を半分バカにしていた。日本にいる時に街のチンピラやヤクザ崩れのような男を相手にして数回ほど魔法を使って喧嘩をした事がある。確かにただのパンチやキックに比べれば隙はあるかもしれないが、それは事前の準備と慣れでカバーできる程度の事でしかなかった。
けれど、目の前で繰り広げられている戦いを見て、私は無知だったと思い知らされている。仮面の魔術師が私だったら既に何度切り殺されていただろうか。
昨日食堂でフィフスドルが言っていた言葉の意味も今ならとてもよくわかる。コルドロン先生から譲り受けたペンダントに付与された空間収納魔法と、波路が本来持っている武器の扱いの技とが融合して手が付けられない程の暴れっぷりだ。
すると、あれほど激しかった波路に猛攻が横薙ぎの一閃を境にピタリと止んだ。急に訪れた静寂は仮面の魔術師よりも私達の方が混乱を覚えるほどだった。
波路は決して警戒や構えを解くことはせずに、毅然とした態度で言い放つ。
「アンタ…コォムバッチ校長か、もしくはスオキニ先生だな?」
「え!?」
驚きと猜疑心を孕んだ私達全員の視線が仮面の魔術師に集中する。するとどこからともなく一人分の拍手の音が聞こえてきた。
「素晴らしい。正解です」
すると仮面の魔術師の影から他ならぬコォムバッチ校長が現れた。途端に魔術師のマントと仮面は光の粒になって流れ落ち、中からはスオキニ先生が姿を見せた。顔に大粒の汗を垂らしながら、スオキニ先生はコォムバッチ校長に対して跪く。
二人の先生はすっかり敵意を削ぎ落しており、まるで毒気が感じられない。そのせいで波路も構えこそは解かなかったが、警戒心は少し薄らいだように思えた。
「どうして気が付けたのですか?」
「収納魔法を使った初太刀…躱されることは想定内だったが、反射や経験で避けた風じゃなかったからな。明らかに俺がそう言う戦法を取ると知っている奴の動きだった。俺がアメリカについてからこの魔法を使ったのは、入学試験の前と、あの『七つの大罪』の儀式の時と使い魔の丘での三回だけ。そのいずれかの現場にいて尚且つあそこまでの戦いができる実力がある奴ってのは、アンタとスオキニ先生の二人に自然と絞られる。だから鎌をかけた」
「感服ですよ。カツトシ・ナミチ」
するとその時、周りの生徒たちを縛り付けていた金色の鎖が次々と壊れ始めた。今度こそこの一連の事件は終わりを告げたのだった。ほとんどの生徒たちが放心状態で事の成り行きを見守る中、リリィ達は一心不乱にこちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。
「まずは唐突にこのような事をしてしまった、その非礼をお詫びします。叶うならば武器を納めてください。もうこの場での安全はお約束しますから」
コォムバッチ校長は波路に向かって深々と頭を下げて言った。学園の長たる者が波路に向かって頭を下げたことに、皆は並々ならぬものを感じ取っていた。
それは波路も同じだったようで、収納空間から鞘を取り出すと持っていた刀を納刀し腰のベルトに差した。それでも柄から手を離さず戦闘態勢を完全には解かなかった。
「悪戯にしては随分と手の込んだことをするんだな。これがアメリカ式か? それとも魔女や悪魔の歓迎ってのはこんな感じなのか?」
「この十数年、思うところがあったのです」
コォムバッチ校長は神妙な面持ちに変わる。そして波路の質問に答えているような、答えていないような返事をし始めた。
「今の悪魔や魔術師たちは、人間の怖さを忘れている、とね」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ひきこもり瑞祥妃は黒龍帝の寵愛を受ける
緋村燐
キャラ文芸
天に御座す黄龍帝が創りし中つ国には、白、黒、赤、青の四龍が治める国がある。
中でも特に広く豊かな大地を持つ龍湖国は、白黒対の龍が治める国だ。
龍帝と婚姻し地上に恵みをもたらす瑞祥の娘として生まれた李紅玉は、その力を抑えるためまじないを掛けた状態で入宮する。
だが事情を知らぬ白龍帝は呪われていると言い紅玉を下級妃とした。
それから二年が経ちまじないが消えた。
だが、すっかり白龍帝の皇后になる気を無くしてしまった紅玉は他の方法で使命を果たそうと行動を起こす。
そう、この国には白龍帝の対となる黒龍帝もいるのだ――。
『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります!
ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。
稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。
もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作の主人公は「夏子」?
淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。
ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!
古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。
もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦!
アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!
では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!
職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました
飼猫タマ
ファンタジー
幕末最強の人斬りが、異世界転移。
令和日本人なら、誰しも知ってる異世界お約束を何も知らなくて、毎度、悪戦苦闘。
しかし、並々ならぬ人斬りスキルで、逆境を力技で捩じ伏せちゃう物語。
『骨から始まる異世界転生』の続き。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
14 Glück【フィアツェーン グリュック】
隼
キャラ文芸
ドイツ、ベルリンはテンペルホーフ=シェーネベルク区。
『森』を意味する一軒のカフェ。
そこで働くアニエルカ・スピラは、紅茶を愛するトラブルメーカー。
気の合う仲間と、今日も労働に汗を流す。
しかし、そこへ面接希望でやってきた美少女、ユリアーネ・クロイツァーの存在が『森』の行く末を大きく捻じ曲げて行く。
勢い全振りの紅茶談義を、熱いうちに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる