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ご令嬢のストーカーが因縁を吹っ掛けられます
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翌日。
二人は食事の後に指導室に呼び出されていた。正確には波路だけが呼ばれたのだが、デキマはさも当然のようにぴったりと後ろにくっついていたのだ。
そうして滾々と怒気を放つスオキニ先生を眺めていた。
「ここに呼ばれた理由は分かっているな?」
「…いえ?」
「昨夜、使い魔の丘で暴れたせいだ!」
机に拳を叩き付けながらスオキニ先生は叫んだ。
それでも波路はピンと来ていない。昨晩の出来事を思うと暴れたというのは誤解だし曲解だ。あくまで正当防衛の域は出ていないはず。
二人の腑に落ちない顔を見て、白を切るつもりと思ったスオキニ先生は言い逃れを許さぬような気迫を持ち一枚の紙を取り出しながら告げた。
「暴食の寮の使い魔であるダームとスナッフォが手傷を負った。貴様が暴れまわったという証言がある」
「お待ちください。それならば処罰されるべきは暴食の寮生では? カツトシ君は彼らがけしかけてきた使い魔を制しただけで、正当防衛です」
「それで言えば過剰防衛だろう」
「なら一年生如きに返り討ちにされる使い魔側に問題があるのでは?」
学園の暗黙のルールとしてはデキマの方が正論だ。だからスオキニ先生も反論を失いため息を溢しながら一旦話題を変えた。
「そもそも呼び出したのはナミチだけだ。何故お前がここにいる」
「私はカツトシ君の従者ですので」
「なぜよりもよってコイツなんだ…」
「スオキニさん…失礼。スオキニ先生こそ、なぜこちらに? 校長補佐役ともあろう方が一介の新入生のトラブルに駆り出されるほど人手不足なのですか?」
「…」
スオキニ先生は言い淀んだ。しかし一瞬だけ腹に据えかねている何かを抱えているような表情を浮かべた事を二人は見逃さなかった。
それよりも波路はふと出来た話の切れ目に、二人の会話の流れで気が付いた疑問の解決を優先した。
「ところで知り合いなの?」
「ええ。親戚とでも思っていただければ」
親戚…親戚ねえ。と波路は何か引っかかったが、それ以上の言及は控えておいた。
そして今度はデキマが自分の疑問の解決を急いだ。
「それで校長補佐は…まさか降格でもしましたか?」
「…その校長に、」
「え?」
「カツトシ・ナミチの個別教育指導を言い渡された」
…。
大きくはない指導室の中を沈黙が蔓延った。
そして波路とデキマは知り合って間もないことを感じさせないくらいに、ピッタリと息を合わせて呟く。
「「えぇ…やだ」」
「それは私のセリフだ! あぁ、なぜこんなことに」
スオキニ先生は頭を抱えて机に突っ伏し、お手本のように苦悩を表現し始めた。
二人は言葉を発することもできずに一度互いの顔を見合わせた後、スオキニ先生が落ち着きを取り戻すまで棒立ちするしかできないでいた。やがて先生は大きなため息と吐き、代わりに鬱憤と理不尽とを飲み込んだ。
「とにかく、お前が問題を起こした場合、今後は私にも責任の一端が課せられる。以後勝手な真似は許さんから、そのつもりで」
「まぁ…はい」
「なんだ、その気の抜けた返事は」
「要件がお済なら失礼しましょう。そろそろ使い魔への挨拶に向かう時間です」
壁に掛かった時計を一瞥したデキマはそう催促した。使い魔への挨拶には寮長が必ず出席する。そしてアヤコ・サンモトがいるところには、当然の如く波路がいるのだから。こうしたところできちんと媚びを売っておいて、役に立つ奴だという印象を濃くしておきたい。
と、色々な思いを巡らせはしたが少しでも早くこの部屋から抜け出したというのが本心だった。
「いや、ナミチはこの後は部屋に戻れ。謹慎を命じる」
「えぇ!? ならアヤコさんのお供は?」
「知るか。今お前が使い魔の丘に行けば事態は更に混乱する。ほとぼりが冷めるまであの丘には近づくな、わかったな」
デキマはふうっと短いため息を吐いた。
その一点に関して言えばスオキニ先生の言い分は正しい。使い魔と言えども実力は並大抵の生徒よりも上で総じて自尊心も高い。その上今回は寮長であるアヤコ・サンモトも一緒にいる。トラブルが起こらない方がおかしいレベルで材料が揃っている。
「仕方ありません。命令通り、お部屋に戻りましょう。あまり騒ぎが大きくなると『高慢の寮』の品位に関わるかもしれません」
「そうするか。あんまり好き勝手にやって亜夜子さんの立場を危なくするのも不本意だ」
そう言って二人は大人しく命令に従う事にした。
人知れず胸をなでおろしたスオキニ先生に見送られると、波路とデキマは自室に向かって歩き始めた。
◇
二人は食事の後に指導室に呼び出されていた。正確には波路だけが呼ばれたのだが、デキマはさも当然のようにぴったりと後ろにくっついていたのだ。
そうして滾々と怒気を放つスオキニ先生を眺めていた。
「ここに呼ばれた理由は分かっているな?」
「…いえ?」
「昨夜、使い魔の丘で暴れたせいだ!」
机に拳を叩き付けながらスオキニ先生は叫んだ。
それでも波路はピンと来ていない。昨晩の出来事を思うと暴れたというのは誤解だし曲解だ。あくまで正当防衛の域は出ていないはず。
二人の腑に落ちない顔を見て、白を切るつもりと思ったスオキニ先生は言い逃れを許さぬような気迫を持ち一枚の紙を取り出しながら告げた。
「暴食の寮の使い魔であるダームとスナッフォが手傷を負った。貴様が暴れまわったという証言がある」
「お待ちください。それならば処罰されるべきは暴食の寮生では? カツトシ君は彼らがけしかけてきた使い魔を制しただけで、正当防衛です」
「それで言えば過剰防衛だろう」
「なら一年生如きに返り討ちにされる使い魔側に問題があるのでは?」
学園の暗黙のルールとしてはデキマの方が正論だ。だからスオキニ先生も反論を失いため息を溢しながら一旦話題を変えた。
「そもそも呼び出したのはナミチだけだ。何故お前がここにいる」
「私はカツトシ君の従者ですので」
「なぜよりもよってコイツなんだ…」
「スオキニさん…失礼。スオキニ先生こそ、なぜこちらに? 校長補佐役ともあろう方が一介の新入生のトラブルに駆り出されるほど人手不足なのですか?」
「…」
スオキニ先生は言い淀んだ。しかし一瞬だけ腹に据えかねている何かを抱えているような表情を浮かべた事を二人は見逃さなかった。
それよりも波路はふと出来た話の切れ目に、二人の会話の流れで気が付いた疑問の解決を優先した。
「ところで知り合いなの?」
「ええ。親戚とでも思っていただければ」
親戚…親戚ねえ。と波路は何か引っかかったが、それ以上の言及は控えておいた。
そして今度はデキマが自分の疑問の解決を急いだ。
「それで校長補佐は…まさか降格でもしましたか?」
「…その校長に、」
「え?」
「カツトシ・ナミチの個別教育指導を言い渡された」
…。
大きくはない指導室の中を沈黙が蔓延った。
そして波路とデキマは知り合って間もないことを感じさせないくらいに、ピッタリと息を合わせて呟く。
「「えぇ…やだ」」
「それは私のセリフだ! あぁ、なぜこんなことに」
スオキニ先生は頭を抱えて机に突っ伏し、お手本のように苦悩を表現し始めた。
二人は言葉を発することもできずに一度互いの顔を見合わせた後、スオキニ先生が落ち着きを取り戻すまで棒立ちするしかできないでいた。やがて先生は大きなため息と吐き、代わりに鬱憤と理不尽とを飲み込んだ。
「とにかく、お前が問題を起こした場合、今後は私にも責任の一端が課せられる。以後勝手な真似は許さんから、そのつもりで」
「まぁ…はい」
「なんだ、その気の抜けた返事は」
「要件がお済なら失礼しましょう。そろそろ使い魔への挨拶に向かう時間です」
壁に掛かった時計を一瞥したデキマはそう催促した。使い魔への挨拶には寮長が必ず出席する。そしてアヤコ・サンモトがいるところには、当然の如く波路がいるのだから。こうしたところできちんと媚びを売っておいて、役に立つ奴だという印象を濃くしておきたい。
と、色々な思いを巡らせはしたが少しでも早くこの部屋から抜け出したというのが本心だった。
「いや、ナミチはこの後は部屋に戻れ。謹慎を命じる」
「えぇ!? ならアヤコさんのお供は?」
「知るか。今お前が使い魔の丘に行けば事態は更に混乱する。ほとぼりが冷めるまであの丘には近づくな、わかったな」
デキマはふうっと短いため息を吐いた。
その一点に関して言えばスオキニ先生の言い分は正しい。使い魔と言えども実力は並大抵の生徒よりも上で総じて自尊心も高い。その上今回は寮長であるアヤコ・サンモトも一緒にいる。トラブルが起こらない方がおかしいレベルで材料が揃っている。
「仕方ありません。命令通り、お部屋に戻りましょう。あまり騒ぎが大きくなると『高慢の寮』の品位に関わるかもしれません」
「そうするか。あんまり好き勝手にやって亜夜子さんの立場を危なくするのも不本意だ」
そう言って二人は大人しく命令に従う事にした。
人知れず胸をなでおろしたスオキニ先生に見送られると、波路とデキマは自室に向かって歩き始めた。
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