妖怪屋敷のご令嬢が魔術アカデミーに入学します

音喜多子平

文字の大きさ
上 下
44 / 52
ご令嬢のストーカーが因縁を吹っ掛けられます

8-5

しおりを挟む
 翌日。

 二人は食事の後に指導室に呼び出されていた。正確には波路だけが呼ばれたのだが、デキマはさも当然のようにぴったりと後ろにくっついていたのだ。

 そうして滾々と怒気を放つスオキニ先生を眺めていた。

「ここに呼ばれた理由は分かっているな?」
「…いえ?」
「昨夜、使い魔の丘で暴れたせいだ!」

 机に拳を叩き付けながらスオキニ先生は叫んだ。

 それでも波路はピンと来ていない。昨晩の出来事を思うと暴れたというのは誤解だし曲解だ。あくまで正当防衛の域は出ていないはず。

 二人の腑に落ちない顔を見て、白を切るつもりと思ったスオキニ先生は言い逃れを許さぬような気迫を持ち一枚の紙を取り出しながら告げた。

「暴食の寮の使い魔であるダームとスナッフォが手傷を負った。貴様が暴れまわったという証言がある」
「お待ちください。それならば処罰されるべきは暴食の寮生では? カツトシ君は彼らがけしかけてきた使い魔を制しただけで、正当防衛です」
「それで言えば過剰防衛だろう」
「なら一年生如きに返り討ちにされる使い魔側に問題があるのでは?」

 学園の暗黙のルールとしてはデキマの方が正論だ。だからスオキニ先生も反論を失いため息を溢しながら一旦話題を変えた。

「そもそも呼び出したのはナミチだけだ。何故お前がここにいる」
「私はカツトシ君の従者ですので」
「なぜよりもよってコイツなんだ…」
「スオキニさん…失礼。スオキニ先生こそ、なぜこちらに? 校長補佐役ともあろう方が一介の新入生のトラブルに駆り出されるほど人手不足なのですか?」
「…」

 スオキニ先生は言い淀んだ。しかし一瞬だけ腹に据えかねている何かを抱えているような表情を浮かべた事を二人は見逃さなかった。

 それよりも波路はふと出来た話の切れ目に、二人の会話の流れで気が付いた疑問の解決を優先した。

「ところで知り合いなの?」
「ええ。親戚とでも思っていただければ」

 親戚…親戚ねえ。と波路は何か引っかかったが、それ以上の言及は控えておいた。

 そして今度はデキマが自分の疑問の解決を急いだ。

「それで校長補佐は…まさか降格でもしましたか?」
「…その校長に、」
「え?」
「カツトシ・ナミチの個別教育指導を言い渡された」

 …。

 大きくはない指導室の中を沈黙が蔓延った。

 そして波路とデキマは知り合って間もないことを感じさせないくらいに、ピッタリと息を合わせて呟く。

「「えぇ…やだ」」
「それは私のセリフだ! あぁ、なぜこんなことに」

 スオキニ先生は頭を抱えて机に突っ伏し、お手本のように苦悩を表現し始めた。

 二人は言葉を発することもできずに一度互いの顔を見合わせた後、スオキニ先生が落ち着きを取り戻すまで棒立ちするしかできないでいた。やがて先生は大きなため息と吐き、代わりに鬱憤と理不尽とを飲み込んだ。

「とにかく、お前が問題を起こした場合、今後は私にも責任の一端が課せられる。以後勝手な真似は許さんから、そのつもりで」
「まぁ…はい」
「なんだ、その気の抜けた返事は」
「要件がお済なら失礼しましょう。そろそろ使い魔への挨拶に向かう時間です」

 壁に掛かった時計を一瞥したデキマはそう催促した。使い魔への挨拶には寮長が必ず出席する。そしてアヤコ・サンモトがいるところには、当然の如く波路がいるのだから。こうしたところできちんと媚びを売っておいて、役に立つ奴だという印象を濃くしておきたい。

 と、色々な思いを巡らせはしたが少しでも早くこの部屋から抜け出したというのが本心だった。

「いや、ナミチはこの後は部屋に戻れ。謹慎を命じる」
「えぇ!? ならアヤコさんのお供は?」
「知るか。今お前が使い魔の丘に行けば事態は更に混乱する。ほとぼりが冷めるまであの丘には近づくな、わかったな」

 デキマはふうっと短いため息を吐いた。

 その一点に関して言えばスオキニ先生の言い分は正しい。使い魔と言えども実力は並大抵の生徒よりも上で総じて自尊心も高い。その上今回は寮長であるアヤコ・サンモトも一緒にいる。トラブルが起こらない方がおかしいレベルで材料が揃っている。

「仕方ありません。命令通り、お部屋に戻りましょう。あまり騒ぎが大きくなると『高慢の寮』の品位に関わるかもしれません」
「そうするか。あんまり好き勝手にやって亜夜子さんの立場を危なくするのも不本意だ」

 そう言って二人は大人しく命令に従う事にした。

 人知れず胸をなでおろしたスオキニ先生に見送られると、波路とデキマは自室に向かって歩き始めた。

 ◇
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

これもなにかの縁ですし 〜あやかし縁結びカフェとほっこり焼き物めぐり

枢 呂紅
キャラ文芸
★第5回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました!応援いただきありがとうございます★ 大学一年生の春。夢の一人暮らしを始めた鈴だが、毎日謎の不幸が続いていた。 悪運を祓うべく通称:縁結び神社にお参りした鈴は、そこで不思議なイケメンに衝撃の一言を放たれてしまう。 「だって君。悪い縁(えにし)に取り憑かれているもの」 彼に連れて行かれたのは、妖怪だけが集うノスタルジックなカフェ、縁結びカフェ。 そこで鈴は、妖狐と陰陽師を先祖に持つという不思議なイケメン店長・狐月により、自分と縁を結んだ『貧乏神』と対峙するけども……? 人とあやかしの世が別れた時代に、ひとと妖怪、そして店主の趣味のほっこり焼き物が交錯する。 これは、偶然に出会い結ばれたひととあやかしを繋ぐ、優しくあたたかな『縁結び』の物語。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...