39 / 52
ご令嬢のストーカーが魔術アカデミーに入学します
7-3
しおりを挟む
無事に従者の契約を終えたデキマは波路に同じ部屋になるように魔法を使ってクジを操作すると言うと、立ち上がってレオツルフのところへ行った。クジを引く権利の放棄を撤回してそれを引くと、紙に記された部屋へと先に向かってしまう。
特にトラブルがないことを見るに、くじ引きに際して変な細工はしなかったらしい。それとも亜夜子の施した術を掻い潜ったのだろうか。波路は従者として同じ部屋になってお世話をすると言ってのけたデキマを思い、少し不安になってしまった。だが一先ず腕が吹き飛んだり、頭が燃え盛ったりしなかったのは安心だった。
学年で最下位に降格したという事は、当然この寮でも最下位の成績なので最後にくじを引くことになる。というかレオツルフも波路の前の寮生にクジを引かせると、
「じゃ、後は君だけだから」
などと言い残し乱暴にクジの入った箱を放り投げると部屋を出て行ってしまった。
そうして一人取り残された集会所で、波路は残った最後のクジを引いて割り当てられた部屋へと向かったのである。
◆
「お待ちしておりました。カツトシ様」
恐る恐る部屋の扉を開けた波路は、デキマの声に出迎えられた。部屋の中は今しがた掃除をし終えた時の独特の空気感に満ち溢れている。もしかしなくてもデキマが大急ぎで部屋を整理整頓してくれたことは知れた。
「ホントに同じ部屋だな」
「はい。そこは悪魔ですから魔法で」
「けど、亜夜子さんが箱に魔法をかけていただろ? 現に一人、腕が溶けて髪が燃えてたぞ」
「ええ。ですから予め細工を施したクジを私が引くときに箱に入れました。カツトシ様が引くように」
「なるほど。頭いいな」
「恐れ入ります」
そこで一度会話が続かなくなった。男と分かっていても、見た目が女だから波路は妙にそわそわしてしまっている。
なので部屋の中を軽く物色した後、分かり切っていることをわざとらしく言ってお茶を濁した。
「にしても中々こざっぱりしてるな。もっとオンボロ屋敷を想像してたんだけど」
「僭越ながらカツトシ様がいらっしゃる前に簡単にお掃除をしておきました。どうやら上級生が去年までこの部屋を使っていて、禄に片付けもせずに出て行ったようなので来たときは中々の有様でしたよ。恐らくですが上級生の嫌がらせでしょう。きっとほかの部屋も似たようなものだと思います。」
「本当かよ。悪かったな」
「いえ魔法を使えば問題ない散らかり方でしたので。それはそうとお着替えになりませんか? もうお寛ぎになってもよろしいようです」
「そっか、どうしよっかな…」
どちらかと言うと寛ぐよりも空腹をどうにかしたいところだと思った矢先、デキマがタイミング良く告げてきた。
「もしくはお食事かご入浴をお済ませになる手もありますが、如何なさいますか?」
「先にご飯を食べるか? 確か食堂があるってレオツルフ先輩は言ってたけど」
「集会所に簡単な地図がございました。ご案内します」
「そっか、助かるよ。ありがとう」
「ではカツトシ様のお着替えが終わったら参りましょう」
「デキマさん…その前に二つばかりいいかな?」
「はい。なんでしょうか?」
波路はこのタイミングどうしても気になっている事を言った。この機を逃すとなあなあのうちに定着してしまいそうだったからだ。
「まず、勝利様ってのは止めてもらいたいんだけど」
「おや。傅かれるのはお嫌いですか?」
「嫌いと言うか、むずむずする」
「私としては少々遺憾ですが、お嫌とあれば仕方ありません。しかし何とお呼びしましょうか?」
「呼び捨てでいいよ」
「…せめて君付けでも?」
「まあ、そのくらいなら」
「それともう一つと言うのは?」
そう聞かれ、波路はもう一度彼女の格好を見た。もう一つ言おうと思っていたのがデキマの格好だからだ。
「なんでメイド服?」
「動きやすいからです。あと可愛い」
きりっとしたポーカーフェイスというモノを初めて見た。少なくとも似合っているのは否定しないが…。
それでもそんな格好をした奴と傍にいたんでは、嫌でも目立ってしまう。
「ご安心ください、これは部屋着ですから。部屋の掃除をするために着ただけです」
「ああ、そう」
「では着替えてお食事に行きましょう」
デキマはそう言って一切の躊躇いなく服を脱ぎ始めた。見た目はアレだが本人が男と言っている以上、こういう格好をするという事は女装が好きという事なのだろう。そしてデキマはかなりの凝り性という事も波路には伝わった。惜し気もなく脱いだメイド服の下は、女性物の下着で揃えられていたからだ。
動きやすい格好に着替えようと思っていた波路だが、デキマの着替えのシーンに耐え切れずそそくさと部屋を出てしまった。そしてこの学園に来てから一番の疲労感を感じて、ため息を一つ漏らした。
特にトラブルがないことを見るに、くじ引きに際して変な細工はしなかったらしい。それとも亜夜子の施した術を掻い潜ったのだろうか。波路は従者として同じ部屋になってお世話をすると言ってのけたデキマを思い、少し不安になってしまった。だが一先ず腕が吹き飛んだり、頭が燃え盛ったりしなかったのは安心だった。
学年で最下位に降格したという事は、当然この寮でも最下位の成績なので最後にくじを引くことになる。というかレオツルフも波路の前の寮生にクジを引かせると、
「じゃ、後は君だけだから」
などと言い残し乱暴にクジの入った箱を放り投げると部屋を出て行ってしまった。
そうして一人取り残された集会所で、波路は残った最後のクジを引いて割り当てられた部屋へと向かったのである。
◆
「お待ちしておりました。カツトシ様」
恐る恐る部屋の扉を開けた波路は、デキマの声に出迎えられた。部屋の中は今しがた掃除をし終えた時の独特の空気感に満ち溢れている。もしかしなくてもデキマが大急ぎで部屋を整理整頓してくれたことは知れた。
「ホントに同じ部屋だな」
「はい。そこは悪魔ですから魔法で」
「けど、亜夜子さんが箱に魔法をかけていただろ? 現に一人、腕が溶けて髪が燃えてたぞ」
「ええ。ですから予め細工を施したクジを私が引くときに箱に入れました。カツトシ様が引くように」
「なるほど。頭いいな」
「恐れ入ります」
そこで一度会話が続かなくなった。男と分かっていても、見た目が女だから波路は妙にそわそわしてしまっている。
なので部屋の中を軽く物色した後、分かり切っていることをわざとらしく言ってお茶を濁した。
「にしても中々こざっぱりしてるな。もっとオンボロ屋敷を想像してたんだけど」
「僭越ながらカツトシ様がいらっしゃる前に簡単にお掃除をしておきました。どうやら上級生が去年までこの部屋を使っていて、禄に片付けもせずに出て行ったようなので来たときは中々の有様でしたよ。恐らくですが上級生の嫌がらせでしょう。きっとほかの部屋も似たようなものだと思います。」
「本当かよ。悪かったな」
「いえ魔法を使えば問題ない散らかり方でしたので。それはそうとお着替えになりませんか? もうお寛ぎになってもよろしいようです」
「そっか、どうしよっかな…」
どちらかと言うと寛ぐよりも空腹をどうにかしたいところだと思った矢先、デキマがタイミング良く告げてきた。
「もしくはお食事かご入浴をお済ませになる手もありますが、如何なさいますか?」
「先にご飯を食べるか? 確か食堂があるってレオツルフ先輩は言ってたけど」
「集会所に簡単な地図がございました。ご案内します」
「そっか、助かるよ。ありがとう」
「ではカツトシ様のお着替えが終わったら参りましょう」
「デキマさん…その前に二つばかりいいかな?」
「はい。なんでしょうか?」
波路はこのタイミングどうしても気になっている事を言った。この機を逃すとなあなあのうちに定着してしまいそうだったからだ。
「まず、勝利様ってのは止めてもらいたいんだけど」
「おや。傅かれるのはお嫌いですか?」
「嫌いと言うか、むずむずする」
「私としては少々遺憾ですが、お嫌とあれば仕方ありません。しかし何とお呼びしましょうか?」
「呼び捨てでいいよ」
「…せめて君付けでも?」
「まあ、そのくらいなら」
「それともう一つと言うのは?」
そう聞かれ、波路はもう一度彼女の格好を見た。もう一つ言おうと思っていたのがデキマの格好だからだ。
「なんでメイド服?」
「動きやすいからです。あと可愛い」
きりっとしたポーカーフェイスというモノを初めて見た。少なくとも似合っているのは否定しないが…。
それでもそんな格好をした奴と傍にいたんでは、嫌でも目立ってしまう。
「ご安心ください、これは部屋着ですから。部屋の掃除をするために着ただけです」
「ああ、そう」
「では着替えてお食事に行きましょう」
デキマはそう言って一切の躊躇いなく服を脱ぎ始めた。見た目はアレだが本人が男と言っている以上、こういう格好をするという事は女装が好きという事なのだろう。そしてデキマはかなりの凝り性という事も波路には伝わった。惜し気もなく脱いだメイド服の下は、女性物の下着で揃えられていたからだ。
動きやすい格好に着替えようと思っていた波路だが、デキマの着替えのシーンに耐え切れずそそくさと部屋を出てしまった。そしてこの学園に来てから一番の疲労感を感じて、ため息を一つ漏らした。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
あやかし学園
盛平
キャラ文芸
十三歳になった亜子は親元を離れ、学園に通う事になった。その学園はあやかしと人間の子供が通うあやかし学園だった。亜子は天狗の父親と人間の母親との間に生まれた半妖だ。亜子の通うあやかし学園は、亜子と同じ半妖の子供たちがいた。猫またの半妖の美少女に人魚の半妖の美少女、狼になる獣人と、個性的なクラスメートばかり。学園に襲い来る陰陽師と戦ったりと、毎日忙しい。亜子は無事学園生活を送る事ができるだろうか。
後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~
絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。
※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
私が異世界物を書く理由
京衛武百十
キャラ文芸
女流ラノベ作家<蒼井霧雨>は、非常に好き嫌いの分かれる作品を書くことで『知る人ぞ知る』作家だった。
そんな彼女の作品は、基本的には年上の女性と少年のラブロマンス物が多かったものの、時流に乗っていわゆる<異世界物>も多く生み出してきた。
これは、彼女、蒼井霧雨が異世界物を書く理由である。
筆者より
「ショタパパ ミハエルくん」が当初想定していた内容からそれまくった挙句、いろいろとっ散らかって収拾つかなくなってしまったので、あちらはあちらでこのまま好き放題するとして、こちらは改めて少しテーマを絞って書こうと思います。
基本的には<創作者の本音>をメインにしていく予定です。
もっとも、また暴走する可能性が高いですが。
なろうとカクヨムでも同時連載します。
【第一章完】四国?五国で良いんじゃね?
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
これは遠い未来にあり得るかもしれない世界。
四国地方は文字通りーーかつての時代のようにーー四つの国に分かたれてしまった。
『人』、『獣』、『妖』、『機』という四つの勢力がそれぞれ国を治め、長年に渡って激しい争いを繰り広げ、土地はすっかり荒廃してしまった。
そんな土地に自らを『タイヘイ』と名乗る謎の青年が現れる。その体にある秘密を秘めているタイヘイは自らの存在に運命めいたものを感じる……。
異なる種族間での激しいバイオレンスバトルが今ここに始まる!
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー
三坂しほ
キャラ文芸
両親を亡くし、たった一人の兄と二人暮らしをしている椎名巫寿(15)は、高校受験の日、兄・祝寿が何者かに襲われて意識不明の重体になったことを知らされる。
病院へ駆け付けた帰り道、巫寿も背後から迫り来る何かに気がつく。
二人を狙ったのは、妖と呼ばれる異形であった。
「私の娘に、近付くな。」
妖に襲われた巫寿を助けたのは、後見人を名乗る男。
「もし巫寿が本当に、自分の身に何が起きたのか知りたいと思うのなら、神役修詞高等学校へ行くべきだ。巫寿の兄さんや父さん母さんが学んだ場所だ」
神役修詞高等学校、そこは神役────神社に仕える巫女神主を育てる学校だった。
「ここはね、ちょっと不思議な力がある子供たちを、神主と巫女に育てるちょっと不思議な学校だよ。あはは、面白いよね〜」
そこで出会う新しい仲間たち。
そして巫寿は自分の運命について知ることとなる────。
学園ファンタジーいざ開幕。
▼参考文献
菅田正昭『面白いほどよくわかる 神道のすべて』日本文芸社
大宮司郎『古神道行法秘伝』ビイングネットプレス
櫻井治男『神社入門』幻冬舎
仙岳坊那沙『呪い完全マニュアル』国書刊行会
豊嶋泰國『憑物呪法全書』原書房
豊嶋泰國『日本呪術全書』原書房
西牟田崇生『平成新編 祝詞事典 (増補改訂版)』戎光祥出版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる