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妖怪屋敷のご令嬢が…
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しおりを挟む血気に満ちた眼差しと猛りを必死にこらえているような息遣いが八方から聞こえてきている。流石にこの人数差を目の当たりにしたら、寮生たちも自分たちに勝ちの目があるかもしれないと思っているようだ。
もし仮に本気でそう思っているようなら、彼らの目は節穴だ。これだけの不利を押し付けられても尚、私達七人の瞳が自信と興奮とで光っているのに気が付いていないのだから。まあ若干一名、オラツォリスだけが本気で怯えて恐怖に顔をこわばらせているが…一体何なんだ。七つの大罪に選ばれる実力者の癖に未だにコイツだけは凄みを感じない。もしからするとデメリットが大きい代わりに強大な魔法を使ったりするタイプとかなのかな?
ま、仮にオラツォリス一人が使い物にならないとしても後のメンバーは醸し出すオーラに違わぬ程に自信に満ち足りた顔をしている。後れを取ることはないだろう。
そして全ての準備が整う。
この会場の視線を放棄に跨るトルグイー先生が独占している。いい加減に首が痛くなってきた。
そして、皆の期待にこたえるかのようにトルグイー先生は真っすぐに右手を突き上げた。ついで今、私達が一番望んでいる言葉を高らかに宣言してそれを振り下ろす。
「Game Start!!」
トルグイー先生の合図とともにすり鉢状の縁に当たる部分にいた数十名の生徒たちが、鬨の声をあげては恐れも知らずに飛びかかってきた。下るというよりも落下に近い速度で迫ってくる奴もいる。我先にと飛びかかりたい気持ちは分からないではないが、自ら多勢の利を放棄するのは愚の骨頂すぎる。その程度の奴の魔法なんかまるで怖くはない。
私は右手をピストルに模すと、指先に魔力を込めた。そして一番乗りを決め込もうとしていたバカに向かってそれを撃ち込んだ。まさかここまで正確な射撃で魔法を撃ち込まれると思っていなかったその男子生徒は防御の素振りをみせることすらなく心臓の上に着弾を許していた。
「へ?」
と言う間抜けな声を出したのは表情で分かった。その声がここまで聞こえなかったことは悔やまれる。それくらいにアホな顔だった。
すると次の瞬間、付着したインクが放射状に広がりその男子の事を一瞬で拘束してしまった。なるほど、失格者はこうやって自由を奪われるという事か。正直不正がしやすいルールだと思っていたが、やっぱり対策されていたようだ。
ただ、その拘束する一瞬のシーンが蜘蛛の足のように見えて頂けない。何の嫌がらせだ。
「す、すごい」
と、早速私を賛辞する言葉が届いた。見れば隣にいたオラツォリスが真っ先に私の魔法の精度に気が付いたようだ。というかいつの間にかゲームをほとんど放棄したも同然のオラツォリスを中心に、みんながこいつを守るように取り囲んで迎撃態勢を取っている。なんでじゃ。
私は気を取り直して前に向き直った。とりあえず全員で全方向をカバーして戦っているのは安心感をとなった。ここの実力が勝っているとはいえ、不利な事には変わりない。こうやって全員で担当を決めて戦うのがベターなはずだ。
とは言え、相手だって魔力は少なけれどもバカじゃない。
今の私の攻撃を見て、何人かは前方に魔法を放ち土煙を起こした。視界を遮られると確かに困る。使ってみて分かったがインクの魔法式は有限だ、無駄撃ちはできない。
だけど、それ以外の魔法はその限りじゃない。土煙を出したならそれを吹き払ってしまえばいいだけだ。
私はすぐさま箒を出し、それを掃った。途端に箒の先から大風が巻き起こり砂塵を晴らす。本当ならもっと高威力が出せるのだが、相手に怪我を負わせるとルールに引っかかってしまうので泣く泣く手加減をする。とは言え風の魔法を使えることくらいは向こうだって分かっていた。
土煙が晴れた後には誰の姿もない。各々が姿を消したり、地形を変えたり、植物を成長させたりとヴァラエティーに富んだ身の守り方を披露している。そのうちの一つを見て妙案が浮かんだ。不利を押し付けられているからと言って、甘んじてそれを受け入れる必要はないのだ。それを改善してしまえばいい。妙案を二つばかり思いついた瞬間、私は他の六人に提案していた。
「ねえ、考えがあるんだけど聞いてくれない?」
それに真っ先に乗っかってきたのはフィフスドルだった。こんな時でも柔和で優しい笑顔と声とで私に尋ね返してくれる。
「どうしたんですか?」
「地形変化の魔法を作っている奴を見て思いついたの。一カ所だけ入り口を張ったバリケードを張ってそこからインクを飛ばせない? この七人が別々で戦うのはもったいないでしょう? 協力し」
「なるほど。僕は協力しますよ」
「ぼ、僕も断る理由はない、です」
すぐにフィフスドルとオラツォリスの二人は乗ってくれた。が、残りの四人は思うところがあるのか返事はない。ひょっとしたら「協力」という単語が悪魔の癇に障ったのかも知れない。
だったら言い換えよう。
「なら言い換えて、学年主席で傲慢の寮長であるアヤコ・サンモトの命令としてもいいですよ」
「っけ。お前の順位だって怪しいものだろ」
イガルームが憎まれ口を叩いてきた。その隣では頭にクエスチョンマークを浮かべたトゥザンドナイルがいる。コイツは私の順位が繰り上がった事実を知らないのだから、その反応も納得だ。けれど…。
「私の元々の順位だって貴方よりは上でしたよ。意見なら私よりも好成績だったフィフスドルとヒドゥンが言うのが筋じゃない?」
「ぐっ」
押し黙ったな。はい、私の勝ちという事で。
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