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妖怪屋敷のご令嬢がパーティの準備をします
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しおりを挟むそのSteal the Baconとやらのルールを簡単にまとめると、
・二組のチームに分かれ、陣地を作る。
・一定のフィールド用意して、その中央にボールを置く。
・審判がお題を出し、それを満たしている人がフィールドに出て、満たさない人は陣地に残る(例・今日コーヒーを飲んだ人など)。
・フィールドに出た人が中央のボールを奪い合い、それを自分の陣地の誰かに渡せれば一点。
・ただし、ボールを持っている人はパスはできるが移動はできない。
・パスをしたボールがバウンドした場合、その地点から相手チームの所持でやりなおし。
・陣地でボールをバウンドさせた場合は1失点。
と、言ったところか。
そう聞かされて思った感想を私はそのまま述べた。
「要所は違うけど、フルーツバスケットとハンドボールを混ぜたみたいなゲームね」
「フルーツバスケット?」
「日本にも同じような遊びがあるの」
「へえ」
日本の小学生なら皆、一度はやったことのあるゲーム。反対に言えば小学校を卒業したら、大よその日本人は触れる機会はなくなる。
けどSteal the Baconというゲームは、アメリカじゃ高校生がやっても差し支えないほど盛り上がることができるんだろう。内容を聞いて他の寮生達やリリィまでもが爛々とした雰囲気を醸し出しているから。
「せっかくだから今、みんなでやってみようか?」
「いいんですか?」
「ああ。他の寮生はまだこないみたいだし」
「アヤコ様のおかげで使い魔への挨拶が一瞬でしたからね」
「まあね」
皮肉だったかはさておき、私はリーダーとして高らかに宣言した。
「それじゃあ、貴方達。明日の予行演習で今からSteal the Baconをしましょう」
そう言うと一昨日の寮決めの時のように歓声が上がった。
皆は試験以外でようやく魔法を心置きなく使える機会を得た訳だから興奮するのも分かる。私としてもこの寮のメンバーの実力の程や、明日の本番にSteal the Baconの具体的な感触を掴んでおきたいからレオルツフの申し出はこの場の全員がすんなりと受け入れた。
「ほら。さっさと二組に分かれて。誕生月が偶数な奴はこっち、奇数ならこっち」
などと、リリィがちゃっちゃと慣れた様子で仕切り始めた。こういう細やか所で、従者にしてよかったと思わせてくる。
しかもリリィの提案した分かれ方は目から鱗だった。考えてみれば統計的な単純極まりない分け方だが、うまいこと半々になった。
「それじゃ全員、魔法陣に触って」
と言ってくるレオツルフを見ればいつの間にかボールを用意してくれていた。フィールドは簡単にバスケット用のコートを流用することになった。参加する全員がボールから展開される魔法陣に触れると、ゲームための短期魔法契約が執行される。
なるほど。これで全員がルールを犯した際に分かるようになったわけだ。出されたお題に対して嘘はつけないし、ボールを持った瞬間にその場に固定されて動けなくなるから、魔法を使わない時よりも公正なゲームが行える訳だ。
「じゃ始めよう。ちなみに出されたお題に嘘をついたら死ぬから、そこだけは気をつけてね」
「は?」
聞いてないんだけど? ペナルティが重すぎるだろ。
そんな私の胸中が顔に出ていたのか、リリィが追加で教えてくれた。
「大丈夫ですよ。私達のSteal the Baconではこれが普通です。要は嘘をつかなきゃいいんですから」
「けど…」
と、言おうと思ったところで私は悟った。このゲームの裏の目的を。
「…嘘が付けないのを逆手に取って、暴露させたり辱めたりするのが目的か…」
「そうです。中々悪魔的なゲームでしょう?」
「そうね」
少々嫌な気はしたが、リリィの言う通り嘘をつかなければいいだけのこと。この場にいる寮生がわざわざ私に喧嘩を売ったり、恥をかかせたりするような質問をするとも思えない。
とにかく、私はこのゲームを知らなすぎる。一回でも多くのゲームを経験しておきたい。
そして二組に分かれた後、ゲームがスタートするとボールが一人の男子生徒の名前を出した。ホログラムのように掲示された光の文字は『ダンケット』と形作っている。つまりは彼がお題を決める役になるという事だろう。
ダンケットは如何にもクラスのトップになりそうな、ガタイの良い金髪の男子だった。背も大きくて私よりも頭二つ分は高い。それよりも目を引いたのは彼の嗜虐的な目つきだ。どう考えても典型的なイジメの主犯者になりそうな、そんな顔をしていた。そして、その顔に違わぬいやらしい声を出してきた。
「そうだな。見たところこのゲームが初めてのアヤコ様もいることだし、ド定番の質問でいくか」
そういうと何人かの生徒がガラ悪くはやし立てる。あ、これはアメリカの高校っぽい。映画とかで見たことある。
「じゃあ最初のゲームは…童貞と処女で」
ダンケットが宣言した途端、笑い声が巻き起こった。そしてそのお題に如何にも沿っていそうな男子生徒が三人と女子生徒が一人ずつ、うつむき顔でフィールドに出てきた。すると蔑みや嘲りの声が上がって一層盛り上がった。
そりゃそうか。ここは基本的には神を冒涜する連中が集う学校だ。純潔を保つことに何の意味もなく、むしろそれは恥ずかしく忌むべきことであり、嘲笑の対象とされるは当然のことになるという訳だ。周りの反応とダンケットが定番の質問と言っていたことを考えるに、こうして性経験のない奴を炙り出して笑いものにするのが通例だと…。
そうかそうか。
ダンケットの想定した未来はそういった連中を見つけて、私とともに笑い合う事だっただろう。しかしそれは大誤算の上、ご破算だ。
なぜならその質問には他ならぬ私が該当しているから。
「…ふふふふ」
私は自分を笑いながらフィールドに足を踏み入れた。すると氷よりも冷ややかな空気が伝わっていくのが分かった。全員がまさか私が出てくるとは思っていなかったという驚きと、取り返しのつかないことをしてしまったという失意の顔に染まっていく。特にダンケットのそれは録画して保存しておきたいと思えるほどの代物だった。
「お前…あとで覚悟しておけよ」
私がそういうと、ダンケットと一緒になってはやし立てていた連中が一気に他人のふりをし始めたのは少し面白かった。
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