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妖怪屋敷のご令嬢がパーティの準備をします

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「えッと…じゃあ。これから校内を案内しようか」

 レオルツフはあまりにも予想外すぎることが起こったせいで若干混乱しているようだった。しかし使い魔たちに会った丘から離れるほどに平静を取り戻し、普段の調子へと戻っていく。

 そして寮の前を通り過ぎる頃には、すっかり最初のテンションとなっていた。

「そろそろ全員が気になったり、疑問に思っているだろうけどそれに答えようか」
「先輩以外の上級生がほとんど見当たらないという事ですか?」
「That’s Right!」

 人差し指を大げさに差し向けて、レオツルフはしたり顔で声を出す。絵に描いたようなアメリカ人のリアクションが返ってきた。

 とは言え、寮での生活や食堂で上級生の姿が見えなかったのは気にしていたところだ。校舎がいくら広いとは言え、明らかに生徒の数が少なすぎる。なんなら校庭を闊歩している各寮の使い魔の方がよほど目に入るくらいだ。

 それに続けてリリィが聞いてくる。

「しかもどこの建物も二階以上あるのに階段がなくないですかぁ?」
「それは…みんな飛べるからじゃないの? 魔法で」
「いやいや、階段はあるよ。君たちには見えていないだけで」
「見えていないだけで?」

 したり顔を更に進化させて、不敵な笑みを見せたレオツルフは乱立する校舎群の一つを指さした。一つの階層毎の天井が高いので4、5階建ての校舎もとても高く見える。

「この学校は学年に応じて使えるスペースが決まっているんだ。二年生は二階まで、三年生は三階までって感じでね」
「なら一年生の私達は一階しか立ち入ることができないと?」
「そういうことだね。僕も三階に行く階段を見つける魔法は教えてもらっていない」

 流石は魔法の学校と行ったところか。一年のうちはかなり行動が制限されるみたいだ。飛び級でもすれば話は別なんだろうけど、上級生の実力が今一つ把握しきれていない現状では憶測すら立てることができない。

 だけど、先ほどレオツルフはロサスとダン・シングストに向かって、使い魔に喧嘩を売るような上級生はいないと言っていた。単純に考えれば実力差があり過ぎて勝負にならないという意味に捉えられる。仮にそうだとした場合、二年生も案外たいしたことはないのかもしれない。

 二年生の主席たるレオツルフが、初歩魔法で使い魔を吹っ飛ばした私を唖然として見ていたのだ。という事は彼にはそれほどまでの実力がないという証。

「食堂や寮は元より、図書館や教室も君たちは一階しか使えない。勿論、飛べば二階以上にはいけるけど、許可がないのにそんなことをすれば当然罰則があるからね。四階以上なんて入っただけで死ぬかもしれない」
「じゃあ反対に先輩方は下の階には行けるんですね」
「うん。自分の学年の数字より下の階には問題なく行ける。それに全学年が共同で使う施設もある」
「例えば?」
「えっと…魔技訓練場とか厩とか園庭とか、あとは温室とかだね。『新入生の祭りウェルカム・パーティ』をする体育館とかだね。講堂は音楽室としても使ってるし」

 なるほど、共同スペースもあるのか。他にも上級生と接触ができる機械や場所なんかは把握しておきたい。戦力は多いに超したことはないし、その為の選択肢もあればあるだけ嬉しい。尤もレオツルフの様子を鑑みるに上級生でも大したのは数えるくらいかもしれないけど…。

 そんなことを思っていると、いつの間にか件の体育館とやらへ着いた。

 話を聞くに使い魔たちは普段は別の場所を根城にしているらしく、先ほど使い魔たちと会った丘はあくまで儀式的に用いられる場所だそうだ。つまりは他の寮生達も時間をずらしてあの丘で使い魔たちに挨拶を交わすという。終われば今の私達みたいに校内案内に繰り出すという段取りになっている。

 明日の『新入生の祭りウェルカム・パーティ』を行う下調べも時間制限があるという事だ。何をするかは知らないが、勝負事なら勝ちに行きたい。

 体育館は外見はおどろおどろしい石造りの廃墟の様な装いだったが、内部はとても近代化されていた。ワックスで光が反射するコート、バスケットやハンドボール用のゴール、二階には観客用のギャラリーまで備わっている。映画やドラマで垣間見えるアメリカの体育館のイメージがそのまま表れたかのようだった。

「ところで新入生の祭りウェルカム・パーティってどんなことをするんですか?」
「まずクジを引いて、」

またクジか。ホントに好きだな。

「二組の寮を決める。それでお互いこの講堂の中で戦う」
「戦う?」
「そう。【Steal the Bacon】をするんだ。魔法を使ってね」
「Steal the Bacon?」

 聞いた事がない。そう思ってチラリとリリィを見ると、それだけで私が何も知らない事を察したようで私にそのゲームの概要を教えてくれた。
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