24 / 52
妖怪屋敷のご令嬢が寮の代表生徒に選ばれます
4-8
しおりを挟む
それからしばらくして全員の食事が終わった頃合いで校内放送のようなものがあった。魔法で声を拡散しているらしく、声の主はどうやらスオキニ先生のようだ。
『食事を終えた者は再び寮に戻り、集会所にて待機。全員が揃い次第、寮の使い魔への紹介と挨拶を行うからそのつもりで』
今日のスケジュールはつつがなく進行されるらしい。
私は平静を装って食後の紅茶を飲んでいたが、内心は子供のようにワクワクいている。使い魔の挨拶なんてテンションが上がらない訳がない。
一番初めに食堂についていたウェンズデイとサドニーズが最初に席を立った。私は見送る意味も込めて声をかけることにした。
「次に会えるのは明朝でしょうか?」
「ええ、そうですわね。皆さん、使い魔への挨拶頑張ってくださいね」
そんな優雅な一言を残し、ウェンズデイ達は食堂を出て行った。仕草や口調は私なんかよりもよっぽどご令嬢だ。今後も参考にさせてもらう機会は多いだろう。同性の友人としては一番仲良くしておきたいところだ。
などと打算的な事を考えつつも、自分なりに優雅で可憐な私を想像してみた。が、それはすぐに粉々にぶっ壊された。
イガムールがこれ以上ないくらいに下品なゲップをしながら、食事を終えたのだ。彼の周りのテーブルは汚らしく散らかっており、粗野な外見に違わぬほどの有様だった。
しかも隣を見れば、再び頭巾と一緒に最大限の陰気で自分を覆い尽くしたヒドゥンの姿が目に入る。ウェンズデイとサドニーズがいなくなったせいで、一気に華やかさが失せた。
リリィはともかくとしてアーネは特に期待外れだ。スプーンを持って、これ見よがしにオラツォリスにモノを食べさそうとしている。主従の関係を通り越して、まるで姉と幼い弟の様な有様だ。品や体制や周りの目などはまるで気にしていない。完全に二人だけの世界を作ろうとしていた。救いなのは、オラツォリスが弱々しくも抵抗の色を示しているくらいか。尤も彼女の押しの強さと、彼の討たれ弱さでは対抗にはなっていなかったが…。
私はここで虚勢を張ることの虚しさと、周りの弁えなさに憤りを感じて早々に部屋を出ることにした。ある意味でだが、やはり悪魔や魔術師たちは一筋縄では関係を作れないと実感した瞬間でもあった。
食堂を出て人波を掻い潜り、道行く者も疎らになった頃。リリィの方から話しかけてきた。
「アヤコ様、先ほどの沈黙はご立派でした」
「ああ…吸血鬼の話?」
「ええ。本当はウェンズデイ様の言葉の意味が分かりかねてましたでしょう?」
「うん。アレどういう事だったの?」
「吸血鬼は私達と扱いが違うんですよ。数ある悪魔たちの中でも別格の種族ですからね。没落したとしても吸血鬼と言うだけで、その他の上流よりも特別な扱いを受けるんです。下々の者達と食卓を囲う事はありません。吸血鬼は吸血鬼のコミュニティで過ごすんです。多分、寮の部屋も別で用意されていると思いますよ」
「なるほどね」
肌で感じていた通り、やっぱり吸血鬼は扱いが違う。潜在的にあれだけの魔力を秘めているのだから当然と言えば当然だけど。正直、内包されている魔力の量を思えば、私はフィフスドルには遠く及ばない。勿論、それだけが魔法の実力という訳じゃないから、私が彼に劣っている事と直結はしない。
吸血鬼は魔力を体に内包してそれを力として振るうのが種族としての習性だと聞いた事がある。超人的な怪力や回復能力、霧や蝙蝠への変化、隷属化や魅了など肉体を駆使する能力が多いのはその為だ。
それでも齢を重ねた吸血鬼の中には、私達が使うような体外に魔力を作用させる、いわゆる「魔術」をも使いこなす者もいるが、大抵の吸血鬼はそれを苦手とする。若い吸血鬼ほどその特徴は顕著だというから、恐らくはフィフスドルもそうなのだろう。
などと、色々御託を並べてはみたが吸血鬼が悪魔の中でも一目置かれている存在であることは事実だ。吸血鬼を丸め込めれば、魔界の中核に触れたと言っても過言ではない。
という事は…。
「はい。吸血鬼を取り込むのがアヤコ様の夢の実現の一番の近道かも知れません。特にあの…」
「フィフスドル・アンチェントパプル、ね」
「「ふふふふふ」」
私達は笑った。
目的がより明確になったことで、それを掴み取るための一端を捉えられたような気になった。それに加えてリリィの順応さには正直驚いている。まるで十年来の友人のように話が合う。油断しているといつの間にか食い殺されそうな気さえしてくる。
けど、それは気のせいじゃない。
私がリリィが悪魔であることを忘れでもしたら、きっと寝首を掻かれることになる。私は野望を叶えるために、悪魔の巣窟にいるのだから。そう思うとリリィのこの笑顔に一瞬だけ背筋がゾクリと震えた。
◇
『食事を終えた者は再び寮に戻り、集会所にて待機。全員が揃い次第、寮の使い魔への紹介と挨拶を行うからそのつもりで』
今日のスケジュールはつつがなく進行されるらしい。
私は平静を装って食後の紅茶を飲んでいたが、内心は子供のようにワクワクいている。使い魔の挨拶なんてテンションが上がらない訳がない。
一番初めに食堂についていたウェンズデイとサドニーズが最初に席を立った。私は見送る意味も込めて声をかけることにした。
「次に会えるのは明朝でしょうか?」
「ええ、そうですわね。皆さん、使い魔への挨拶頑張ってくださいね」
そんな優雅な一言を残し、ウェンズデイ達は食堂を出て行った。仕草や口調は私なんかよりもよっぽどご令嬢だ。今後も参考にさせてもらう機会は多いだろう。同性の友人としては一番仲良くしておきたいところだ。
などと打算的な事を考えつつも、自分なりに優雅で可憐な私を想像してみた。が、それはすぐに粉々にぶっ壊された。
イガムールがこれ以上ないくらいに下品なゲップをしながら、食事を終えたのだ。彼の周りのテーブルは汚らしく散らかっており、粗野な外見に違わぬほどの有様だった。
しかも隣を見れば、再び頭巾と一緒に最大限の陰気で自分を覆い尽くしたヒドゥンの姿が目に入る。ウェンズデイとサドニーズがいなくなったせいで、一気に華やかさが失せた。
リリィはともかくとしてアーネは特に期待外れだ。スプーンを持って、これ見よがしにオラツォリスにモノを食べさそうとしている。主従の関係を通り越して、まるで姉と幼い弟の様な有様だ。品や体制や周りの目などはまるで気にしていない。完全に二人だけの世界を作ろうとしていた。救いなのは、オラツォリスが弱々しくも抵抗の色を示しているくらいか。尤も彼女の押しの強さと、彼の討たれ弱さでは対抗にはなっていなかったが…。
私はここで虚勢を張ることの虚しさと、周りの弁えなさに憤りを感じて早々に部屋を出ることにした。ある意味でだが、やはり悪魔や魔術師たちは一筋縄では関係を作れないと実感した瞬間でもあった。
食堂を出て人波を掻い潜り、道行く者も疎らになった頃。リリィの方から話しかけてきた。
「アヤコ様、先ほどの沈黙はご立派でした」
「ああ…吸血鬼の話?」
「ええ。本当はウェンズデイ様の言葉の意味が分かりかねてましたでしょう?」
「うん。アレどういう事だったの?」
「吸血鬼は私達と扱いが違うんですよ。数ある悪魔たちの中でも別格の種族ですからね。没落したとしても吸血鬼と言うだけで、その他の上流よりも特別な扱いを受けるんです。下々の者達と食卓を囲う事はありません。吸血鬼は吸血鬼のコミュニティで過ごすんです。多分、寮の部屋も別で用意されていると思いますよ」
「なるほどね」
肌で感じていた通り、やっぱり吸血鬼は扱いが違う。潜在的にあれだけの魔力を秘めているのだから当然と言えば当然だけど。正直、内包されている魔力の量を思えば、私はフィフスドルには遠く及ばない。勿論、それだけが魔法の実力という訳じゃないから、私が彼に劣っている事と直結はしない。
吸血鬼は魔力を体に内包してそれを力として振るうのが種族としての習性だと聞いた事がある。超人的な怪力や回復能力、霧や蝙蝠への変化、隷属化や魅了など肉体を駆使する能力が多いのはその為だ。
それでも齢を重ねた吸血鬼の中には、私達が使うような体外に魔力を作用させる、いわゆる「魔術」をも使いこなす者もいるが、大抵の吸血鬼はそれを苦手とする。若い吸血鬼ほどその特徴は顕著だというから、恐らくはフィフスドルもそうなのだろう。
などと、色々御託を並べてはみたが吸血鬼が悪魔の中でも一目置かれている存在であることは事実だ。吸血鬼を丸め込めれば、魔界の中核に触れたと言っても過言ではない。
という事は…。
「はい。吸血鬼を取り込むのがアヤコ様の夢の実現の一番の近道かも知れません。特にあの…」
「フィフスドル・アンチェントパプル、ね」
「「ふふふふふ」」
私達は笑った。
目的がより明確になったことで、それを掴み取るための一端を捉えられたような気になった。それに加えてリリィの順応さには正直驚いている。まるで十年来の友人のように話が合う。油断しているといつの間にか食い殺されそうな気さえしてくる。
けど、それは気のせいじゃない。
私がリリィが悪魔であることを忘れでもしたら、きっと寝首を掻かれることになる。私は野望を叶えるために、悪魔の巣窟にいるのだから。そう思うとリリィのこの笑顔に一瞬だけ背筋がゾクリと震えた。
◇
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
八天閣奇談〜大正時代の異能デスゲーム
Tempp
キャラ文芸
大正8年秋の夜長。
常磐青嵐は気がつけば、高層展望塔八天閣の屋上にいた。突然声が響く。
ここには自らを『唯一人』と認識する者たちが集められ、これから新月のたびに相互に戦い、最後に残った1人が神へと至る。そのための力がそれぞれに与えられる。
翌朝目がさめ、夢かと思ったが、手の甲に奇妙な紋様が刻みつけられていた。
今6章の30話くらいまでできてるんだけど、修正しながらぽちぽちする。
そういえば表紙まだ書いてないな。去年の年賀状がこの話の浜比嘉アルネというキャラだったので、仮においておきます。プロローグに出てくるから丁度いい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる