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妖怪屋敷のご令嬢がクラスメイトに出会います
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◇
「だ、大丈夫なのでしょうか?」
集められた部屋に訪れた沈黙を破ったのは、オラツォリスの情けない声だった。
そこには私達【七つの大罪】に選ばれた七人しかおらず、スオキニ先生の姿はない。彼は私がブローチの術式を発動させてしまった後、「大人しく待っていろ」と待機命令を出すと慌ただしく部屋を出ていってしまったのだ。
部屋の片隅に椅子が積み上げられているのを見つけた私達は、仕方なくそれを並べて座る。誰が言ったわけでもないのに円状になっているのは何故だろうか?
そしてウェンズデイが仕方がなさそうにオラツォリスの問いかけに答えてあげていた。
「さあ? どうなのかしらね、私だって聞いたことありませんもの。魔法が使えない人間が試験に合格したことも、【七つの大罪】のブローチを他人に譲渡したことも」
「早速すごいところに出くわしてしまいました。ねえ、イガルーム」
「気安く話しかけんな、クソが」
朗らかで上品な物腰のフィフスドルと粗野で粗悪で喧嘩腰のイガルームがごたごたと口論を始めた。意外な組み合わせだが、旧知の中なのは間違いなさそうだ。二人とも名のある貴族であることはそうなのだから、別に知り合いだったとしても不思議はないけれど。
イガルームは立ち上がってまで口汚くフィフスドルを罵り続けているが、まるで真に受けず微笑みながら話を聞いている。もうそれだけで格の違いが見えてしまっている。やがて、無抵抗の相手とは喧嘩もできないと思い知ったイガルームは面白くなさそうにドサリと椅子に座った。
そして、標的を変えた。
「ところでよ。ナミチと言ったか? 魔法が使えないってマジなのか?」
「おう。全く使えん」
「けど、貴方。先程コルドロン・アクトフォーの名前を出していませんでしたか? 彼女からこの学校の事を聞いたとか」
「そうそう。亜夜子さんが魔法を習い始めたって聞いたから、俺もお供しなきゃと思ってコルドロンさんにお願いしたんだよ」
「そ、それなら多少は魔法が使えるようになったんじゃないんですか?」
「何か月か頑張ったんだけど、才能が全くないらしくて。コルドロンさんが先に匙投げた」
「…伝説の魔女でも無理って事は、魔法的な素質は0ってことね」
「みたいだな」
コイツの事情など毛ほども興味はなかったが、状況が状況だけに少しは気になっていた。だけど私からわざわざ聞くなんてことは死んでもごめんだった。だから他の合格者が色々と質問してくれるのは助かる。
それにしても、直近の数か月は私だって最後の追い込みで毎日と言っていいくらい先生の所に通い詰めていたのに全く気が付かなかった。多分、波路がどうこうではなくてコルドロン先生の立ち回りが上手かったのだろう。人を驚かしたり、からかったりすることが大好きな人だったから、こうやって試験会場で鉢合わせさえることが目的だったのかもしれない。
だとしたら大成功だ。柄にもなく悲鳴を上げて醜態をさらしてしまったのだから。しかもフィフスドルの目の前で。
けど、もしも合格しなかったらどうしてのかな。魔法が使えないとなると、この試験に合格するのは絶望的。そもそも試験会場にすら辿り着かないかもしれないのに。
…。
「「ん?」」
私と他のみんなが、それに気が付いたのは同時の様だった。だからこそ、今声が被ったのだろうから。
気が付いた時には、私は嫌悪感よりも好奇心が勝り不覚にも波路に話しかけてまで真相を知ろうとしていた。
「魔法が全く使えないなら、アンタはどうやってこの試験に合格できたの?」
「それはホラ、気合いです」
プチッと、私の中の何かが怒りで切れた様な音が聞こえた気がした。言うに事を欠いてコイツは…。
「き、気合いで私たち全員を差し置いて一位で合格できたと…?」
「はい」
「はい、じゃない!」
いつもこうだ。要領も得ず、的を射ない返事しかしてこないせいで気が付けば声が大きくなってしまう。やっぱり話すべきじゃなかった。
そっぽを向いて視界からこの男の姿を消す。
すると、それと入れ替わりでオラツォリスが話し相手を買って出た。波路の言葉を真に受けて、驚いたように問いただしている。
「と、いう事はカツトシさんはかなりお強いって事ですか? 悪魔なら魔法に頼らずとも自分の身体能力だけ辿り着く事も考えられますが…」
「そりゃあもう。亜夜子さんを守るために、日々の鍛練は積んでるから」
「聞きまして? オラツォリス、あなたも少しは見習ってみてはどうですか? 前に会った時よりも細くなってませんこと」
「そ、そうでしょうか? 僕もお肉とか食べて頑張ってるんですけど」
「面白そうだ。ちょっと戦おうや」
「イガルーム。ダメだよ、大人しく待ってろと言われただろう」
「馴れ馴れしく名前を呼ぶなってつってんだろ」
「いやあ和気藹々で楽しい学校生活になりそうですね、亜夜子さん」
これのどこが和気藹々なんだよ。
お嬢様に半泣きにさせられてるショタと、イケメンに喧嘩打ってる半グレと、ここまで一切無言で佇んでる不気味な頭巾男しかいないだろ。眼科に行くか日本語の勉強をし直して来い。
するとその時。
けたたましい音と共に部屋のドアが乱暴に開かれた。見ればスオキニ先生が如何にも不機嫌な顔をしながら入ってきたところだった。
「だ、大丈夫なのでしょうか?」
集められた部屋に訪れた沈黙を破ったのは、オラツォリスの情けない声だった。
そこには私達【七つの大罪】に選ばれた七人しかおらず、スオキニ先生の姿はない。彼は私がブローチの術式を発動させてしまった後、「大人しく待っていろ」と待機命令を出すと慌ただしく部屋を出ていってしまったのだ。
部屋の片隅に椅子が積み上げられているのを見つけた私達は、仕方なくそれを並べて座る。誰が言ったわけでもないのに円状になっているのは何故だろうか?
そしてウェンズデイが仕方がなさそうにオラツォリスの問いかけに答えてあげていた。
「さあ? どうなのかしらね、私だって聞いたことありませんもの。魔法が使えない人間が試験に合格したことも、【七つの大罪】のブローチを他人に譲渡したことも」
「早速すごいところに出くわしてしまいました。ねえ、イガルーム」
「気安く話しかけんな、クソが」
朗らかで上品な物腰のフィフスドルと粗野で粗悪で喧嘩腰のイガルームがごたごたと口論を始めた。意外な組み合わせだが、旧知の中なのは間違いなさそうだ。二人とも名のある貴族であることはそうなのだから、別に知り合いだったとしても不思議はないけれど。
イガルームは立ち上がってまで口汚くフィフスドルを罵り続けているが、まるで真に受けず微笑みながら話を聞いている。もうそれだけで格の違いが見えてしまっている。やがて、無抵抗の相手とは喧嘩もできないと思い知ったイガルームは面白くなさそうにドサリと椅子に座った。
そして、標的を変えた。
「ところでよ。ナミチと言ったか? 魔法が使えないってマジなのか?」
「おう。全く使えん」
「けど、貴方。先程コルドロン・アクトフォーの名前を出していませんでしたか? 彼女からこの学校の事を聞いたとか」
「そうそう。亜夜子さんが魔法を習い始めたって聞いたから、俺もお供しなきゃと思ってコルドロンさんにお願いしたんだよ」
「そ、それなら多少は魔法が使えるようになったんじゃないんですか?」
「何か月か頑張ったんだけど、才能が全くないらしくて。コルドロンさんが先に匙投げた」
「…伝説の魔女でも無理って事は、魔法的な素質は0ってことね」
「みたいだな」
コイツの事情など毛ほども興味はなかったが、状況が状況だけに少しは気になっていた。だけど私からわざわざ聞くなんてことは死んでもごめんだった。だから他の合格者が色々と質問してくれるのは助かる。
それにしても、直近の数か月は私だって最後の追い込みで毎日と言っていいくらい先生の所に通い詰めていたのに全く気が付かなかった。多分、波路がどうこうではなくてコルドロン先生の立ち回りが上手かったのだろう。人を驚かしたり、からかったりすることが大好きな人だったから、こうやって試験会場で鉢合わせさえることが目的だったのかもしれない。
だとしたら大成功だ。柄にもなく悲鳴を上げて醜態をさらしてしまったのだから。しかもフィフスドルの目の前で。
けど、もしも合格しなかったらどうしてのかな。魔法が使えないとなると、この試験に合格するのは絶望的。そもそも試験会場にすら辿り着かないかもしれないのに。
…。
「「ん?」」
私と他のみんなが、それに気が付いたのは同時の様だった。だからこそ、今声が被ったのだろうから。
気が付いた時には、私は嫌悪感よりも好奇心が勝り不覚にも波路に話しかけてまで真相を知ろうとしていた。
「魔法が全く使えないなら、アンタはどうやってこの試験に合格できたの?」
「それはホラ、気合いです」
プチッと、私の中の何かが怒りで切れた様な音が聞こえた気がした。言うに事を欠いてコイツは…。
「き、気合いで私たち全員を差し置いて一位で合格できたと…?」
「はい」
「はい、じゃない!」
いつもこうだ。要領も得ず、的を射ない返事しかしてこないせいで気が付けば声が大きくなってしまう。やっぱり話すべきじゃなかった。
そっぽを向いて視界からこの男の姿を消す。
すると、それと入れ替わりでオラツォリスが話し相手を買って出た。波路の言葉を真に受けて、驚いたように問いただしている。
「と、いう事はカツトシさんはかなりお強いって事ですか? 悪魔なら魔法に頼らずとも自分の身体能力だけ辿り着く事も考えられますが…」
「そりゃあもう。亜夜子さんを守るために、日々の鍛練は積んでるから」
「聞きまして? オラツォリス、あなたも少しは見習ってみてはどうですか? 前に会った時よりも細くなってませんこと」
「そ、そうでしょうか? 僕もお肉とか食べて頑張ってるんですけど」
「面白そうだ。ちょっと戦おうや」
「イガルーム。ダメだよ、大人しく待ってろと言われただろう」
「馴れ馴れしく名前を呼ぶなってつってんだろ」
「いやあ和気藹々で楽しい学校生活になりそうですね、亜夜子さん」
これのどこが和気藹々なんだよ。
お嬢様に半泣きにさせられてるショタと、イケメンに喧嘩打ってる半グレと、ここまで一切無言で佇んでる不気味な頭巾男しかいないだろ。眼科に行くか日本語の勉強をし直して来い。
するとその時。
けたたましい音と共に部屋のドアが乱暴に開かれた。見ればスオキニ先生が如何にも不機嫌な顔をしながら入ってきたところだった。
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