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妖怪屋敷のご令嬢がクラスメイトに出会います
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「こちらです」
しばしの沈黙が終わったのは、到着の合図があったからだ。
手で指図された扉は木製だが時代のかかったもので、その上趣向の凝った飾り細工を施してあったので重厚に感じる。
「選出された男子生徒たちは既に中で待っているはずです」
ということは、この中に私を負かした三人がいるということか。
私はウェンズデイに断ることもなく、先陣を切って扉を押し開けた。見た目に反して軽い手ごたえを感じさせながら扉は古い木の音を出しながら少しずつ私に中の様子を解放してくる。
部屋の中には確かに男しかいなかった。
中央にいるのは生徒じゃない。まあ、普通に考えて男子生徒を引率してきた先生だろう。
その先生の前に立ち尽くしている生徒がまず二人。壁を背もたれに座り込んでいる生徒が一人。その間でオロオロと不安げにしている生徒が一人。
この四人のうちの三人が私よりも早く合格した…。
…。
…四人?
話を聞く限り【七つの大罪】は文字通り七人の成績優秀者を募って集められたはず。女子の該当者が二人という事は、男子は五人いなければ計算が合わない。もう一人はどこ…?
そんな私の疑問は部屋の中央にいた教師と思しき男が解答を述べてくれた。
「女子の合格者だな? 今、【七つの大罪】に選ばれた男子の一人がトイレに行ってしまった。彼が戻り次第説明をするから、少し待っていたまえ」
…トイレ?
緊張感のない奴もいたものだ。誰が私よりも上なのか、特定しにくいじゃないか。
ギリっと軽い歯噛みをする。すると教師の傍にいたウチの一人が私の方へとスタスタ歩み寄ってきた。そして程よき位置まで辿り着くと、しなやかな動作でお辞儀をし、挨拶をしてきた。
「初めましてお嬢様方。僭越ながらご挨拶をさせて頂いてもよろしいですか?」
そう言ってきた男子生徒に思わず見とれてしまった。
動作の一つ一つが優雅というか気品に溢れており、親切丁寧な口調で礼節も感じ取ることができ、おまけに声も私の好みにクリティカルヒットだった。四位という現実を最初に突き付けられていなかったら危うく好きになるところだったかも知れない。
「ええ。お願いします」
そしてニコリと男子生徒は笑った。
「ありがとうございます。私はアンチェントパプル家の三男でフィフスドルと申します。今日から同じ学び舎の学徒同士。お見知りおきください」
…!!
私とすぐ隣にいたウェンズデイはお互いに肩がピクリと動いたのが分かった。
今、間違いなくアンチェントパプルと名乗った。という事はこの人が噂に聞こえてきていた吸血鬼の名門の子息…確かにそう言われてから改めて見れば、それも納得する。
漂わせてくる気品や潜在的な魔力が名刺代わりとなっていた。
「お名前を伺えますか?」
やはり見惚れてしまっていた私とウェンズデイはハッとして、挨拶をし返した。
「失礼いたしました。私はウェットグレイヴ家の三女でウェンズデイと申します」
「よろしく」
「私はアヤコ・サンモトと言います。庶民の生まれで礼節には詳しくありませんの。知らず知らずの失礼はお許しください、フィフスドル様」
「フィフスドルでいいですよ。今日から学友ですし、主従の関係という訳でもありませんしね。よろしくお願いします、アヤコ」
これまた爽やかな笑顔で吸血鬼特有の牙を一瞬だけ覗かせた。それだけの事なのに、妙に艶かしくて変な気分にさせられる。
・・・ダメ。もっとしっかりしないと。むしろこっちが魅了して惚れさせるくらいの気持ちでいないと・・・でも本当にカッコいいな、この吸血鬼。お淑やかさも力強さも兼ね揃えているって反則でしょ。
そんな心地よい気分に浸っていたのに、不意に乱暴な声で現実に引き戻された。
「おい」
「え?」
それは遠く離れた壁に寄りかかっている粗暴そうな男が 出した声だった。手を頭の後ろで組み、だらしなく着た服は胸元がはだけてしまっている。髪もよくみれば何年も切ってないようなボサボサとしたものを木の蔓かなにかでくくっているだけ。
フィフスドルと話したあとだと、余計に粗野で粗暴なやつに見えた。
遠くにいるというのにはっきりとここまで聞こえるのが不思議だ。
「女子の合格者にコルドロン・アクトフォーの弟子がいるんだろ? あんたらのどっちがそうなんだ?」
「・・・私です」
「アンタか。わかった」
ソレだけ言うとそいつは一気に興味を失ったような態度になってそっぽを向いた。何なんだ、こいつ・・・と思っているとウェンズデイがそっと耳打ちしてくれた。
「イガルーム=スソムルガ。没落寸前の貴族の家の嫡男ですわ。暴力こそが最も悪魔に相応しいと思い込んでいる、時代についてこれなかった悪魔の典型ですね」
そう言えばコルドロン先生からも聞いたことがある。悪魔の美徳は時代とともに変容してきていると。人間を堕落させ、罪を犯させるという根幹は変わらずとも、暴力的に人間を支配するのはもう流行らないのだそうだ。近年では悪魔は表に出ることはなく、秘密裏に、悟られることなく人間に取り入って罪を犯させることが最大の美徳となっているらしい。
暴力による恐怖的な支配しかしないとするならば、確かに今の悪魔からすれば時代遅れ。没落も頷けるところだ。本人の態度も相まって面倒臭そうな気がするし。
一応は気を付けるとしても、あいつも【七つの大罪】には違いない。もしかして利用できる機会があるかもしれないから、表面上だけでも仲良くはしておこう。
私に耳打ちをしたウェンズデイは次に、
「さてと」
と、呟いて一点を見据えた。
しばしの沈黙が終わったのは、到着の合図があったからだ。
手で指図された扉は木製だが時代のかかったもので、その上趣向の凝った飾り細工を施してあったので重厚に感じる。
「選出された男子生徒たちは既に中で待っているはずです」
ということは、この中に私を負かした三人がいるということか。
私はウェンズデイに断ることもなく、先陣を切って扉を押し開けた。見た目に反して軽い手ごたえを感じさせながら扉は古い木の音を出しながら少しずつ私に中の様子を解放してくる。
部屋の中には確かに男しかいなかった。
中央にいるのは生徒じゃない。まあ、普通に考えて男子生徒を引率してきた先生だろう。
その先生の前に立ち尽くしている生徒がまず二人。壁を背もたれに座り込んでいる生徒が一人。その間でオロオロと不安げにしている生徒が一人。
この四人のうちの三人が私よりも早く合格した…。
…。
…四人?
話を聞く限り【七つの大罪】は文字通り七人の成績優秀者を募って集められたはず。女子の該当者が二人という事は、男子は五人いなければ計算が合わない。もう一人はどこ…?
そんな私の疑問は部屋の中央にいた教師と思しき男が解答を述べてくれた。
「女子の合格者だな? 今、【七つの大罪】に選ばれた男子の一人がトイレに行ってしまった。彼が戻り次第説明をするから、少し待っていたまえ」
…トイレ?
緊張感のない奴もいたものだ。誰が私よりも上なのか、特定しにくいじゃないか。
ギリっと軽い歯噛みをする。すると教師の傍にいたウチの一人が私の方へとスタスタ歩み寄ってきた。そして程よき位置まで辿り着くと、しなやかな動作でお辞儀をし、挨拶をしてきた。
「初めましてお嬢様方。僭越ながらご挨拶をさせて頂いてもよろしいですか?」
そう言ってきた男子生徒に思わず見とれてしまった。
動作の一つ一つが優雅というか気品に溢れており、親切丁寧な口調で礼節も感じ取ることができ、おまけに声も私の好みにクリティカルヒットだった。四位という現実を最初に突き付けられていなかったら危うく好きになるところだったかも知れない。
「ええ。お願いします」
そしてニコリと男子生徒は笑った。
「ありがとうございます。私はアンチェントパプル家の三男でフィフスドルと申します。今日から同じ学び舎の学徒同士。お見知りおきください」
…!!
私とすぐ隣にいたウェンズデイはお互いに肩がピクリと動いたのが分かった。
今、間違いなくアンチェントパプルと名乗った。という事はこの人が噂に聞こえてきていた吸血鬼の名門の子息…確かにそう言われてから改めて見れば、それも納得する。
漂わせてくる気品や潜在的な魔力が名刺代わりとなっていた。
「お名前を伺えますか?」
やはり見惚れてしまっていた私とウェンズデイはハッとして、挨拶をし返した。
「失礼いたしました。私はウェットグレイヴ家の三女でウェンズデイと申します」
「よろしく」
「私はアヤコ・サンモトと言います。庶民の生まれで礼節には詳しくありませんの。知らず知らずの失礼はお許しください、フィフスドル様」
「フィフスドルでいいですよ。今日から学友ですし、主従の関係という訳でもありませんしね。よろしくお願いします、アヤコ」
これまた爽やかな笑顔で吸血鬼特有の牙を一瞬だけ覗かせた。それだけの事なのに、妙に艶かしくて変な気分にさせられる。
・・・ダメ。もっとしっかりしないと。むしろこっちが魅了して惚れさせるくらいの気持ちでいないと・・・でも本当にカッコいいな、この吸血鬼。お淑やかさも力強さも兼ね揃えているって反則でしょ。
そんな心地よい気分に浸っていたのに、不意に乱暴な声で現実に引き戻された。
「おい」
「え?」
それは遠く離れた壁に寄りかかっている粗暴そうな男が 出した声だった。手を頭の後ろで組み、だらしなく着た服は胸元がはだけてしまっている。髪もよくみれば何年も切ってないようなボサボサとしたものを木の蔓かなにかでくくっているだけ。
フィフスドルと話したあとだと、余計に粗野で粗暴なやつに見えた。
遠くにいるというのにはっきりとここまで聞こえるのが不思議だ。
「女子の合格者にコルドロン・アクトフォーの弟子がいるんだろ? あんたらのどっちがそうなんだ?」
「・・・私です」
「アンタか。わかった」
ソレだけ言うとそいつは一気に興味を失ったような態度になってそっぽを向いた。何なんだ、こいつ・・・と思っているとウェンズデイがそっと耳打ちしてくれた。
「イガルーム=スソムルガ。没落寸前の貴族の家の嫡男ですわ。暴力こそが最も悪魔に相応しいと思い込んでいる、時代についてこれなかった悪魔の典型ですね」
そう言えばコルドロン先生からも聞いたことがある。悪魔の美徳は時代とともに変容してきていると。人間を堕落させ、罪を犯させるという根幹は変わらずとも、暴力的に人間を支配するのはもう流行らないのだそうだ。近年では悪魔は表に出ることはなく、秘密裏に、悟られることなく人間に取り入って罪を犯させることが最大の美徳となっているらしい。
暴力による恐怖的な支配しかしないとするならば、確かに今の悪魔からすれば時代遅れ。没落も頷けるところだ。本人の態度も相まって面倒臭そうな気がするし。
一応は気を付けるとしても、あいつも【七つの大罪】には違いない。もしかして利用できる機会があるかもしれないから、表面上だけでも仲良くはしておこう。
私に耳打ちをしたウェンズデイは次に、
「さてと」
と、呟いて一点を見据えた。
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