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妖怪屋敷のご令嬢がクラスメイトに出会います
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「…411番。合格」
引きつった試験官にそう言われた私は試験が終わるまでここで待機するようにと言われて、部屋に通された。大学の講義でつかうような教室には、先客は誰もいない。合格者が通される部屋って事は、やっぱり一番乗りだったらしい。
「蜘蛛はヤバかったけど、まあ合格したんだから何でもいいか」
コルドロン先生のいう通り大した試験ではなかったけど、それでも合格が決まれば嬉しいことは嬉しい。不本意だけど目立ってアピールもできたし、上々の出来栄えと言い切ろう。
ここから私の野望が始まると思うと、武者震いが起こってしまう。椅子になんか座ってられないほど、試験の余韻とこれからの展望とで血が沸いている。子供っぽいかと思ったが、次の合格者が来るまでは一人、シャドーボクシングに酔いしれていたって罰は当たらないはず。
実際、次に誰かがこの部屋に通されるまで十分ほど一人ぼっちだった。200人くらいは収容できる教室を一人で使うのは、少し空しかったけど。
◇
いい加減はしゃぐのも疲れて机に突っ伏していると、教室の扉が開いた。自然と私の目はそちらを向き、向こうも誰かいると様子を伺ってきたから必然的に目が合った。
「あら。やはりあなたはおりますよね」
何とも上品な口調と顔をした金髪の少女が入ってきた。同い年くらいなのは当たり前だけど、かなり小柄で童顔だから私よりもずっと年下に見える。さらさらとした金髪を赤いリボンテープでツインテールにしているのが、尚更幼さを強調していた。
けど漂わす雰囲気はかなり大人びている。なんというか、こう…育ちが良さそうっていうのはこんな感じなのかな?
黒を基調とした服はドレス風に仕立てられていて、こういう試験とはいえ品格を保ちたいという念が表れていた。
出で立ちから察するに、魔女見習いじゃない。悪魔、それも貴族階級の悪魔に違いないと私は直感した。
「初めまして。コルドロン・アクトフォーの弟子で、アヤコ・サンモトと申します」
先生の名前を出すと、悪魔はハッと驚いた風に口を開け、それを手で隠す仕草を見せた。その時広げた手の中指が下唇に触れ、可愛らしさと色っぽさの両方を出している。
「まあ。やはり皆さまのしていた噂通りでしたのね」
そういうとツカツカとヒールの音を響かせつつ、最前列の机に座っていた私の前にやってきた。そしていかにもお嬢様がするように、スカートを両手の指先でちょこんと摘み上げお辞儀をしてきた。確かカーテシーと言うんだったかな。
「お初にお目にかかります、私はウェットグレイヴ家の三女、ウェンズデイ・ウウェットグレイブと申します。今日から共にアカデミーの生徒、是非学友として仲睦まじくして頂けますと嬉しいですわ」
試験会場では全員に冷たく接していたけど、ここからは違う。なるべく味方を多く作って学生生活を充実させて、キョウダイ達に対抗できるくらいの仲間、できれば下僕を多く作らなきゃならない。
その為には上辺だけでも仲の良い友達はたくさん作っておきたい。相手が悪魔の、それも貴族ならば尚更ね。
「ご丁寧にありがとうございます。見ての通り日本と言うアジアの島国出身で、こちらの礼儀作法には疎いんです。失礼かもしれませんが、このまま挨拶にさせて頂きますわ、ウェットグレイブさん」
「ふふふ。ウェンズデイでよろしくてよ。仲良くしてくださいね、アヤコさん」
ウェンズデイと挨拶をし終えたタイミングで、再びドアが開いた。
「お邪魔しまぁす」
耳にねっとりと絡みつくような艶のある声がした。
ドアを開けて入ってきたのは山羊の悪魔。そう断定できたのは彼女の頭から山羊のねじれた角が生えていたからだ。
所謂モデル体型というようなすごいプロポーションだった。身長も見た感じで175㎝はありそう。胸は零れ落ちそうなくらい大きく、つやつやとした黒い髪が腰くらいまで伸びている。
少し垂れた瞳と整った鼻、瑞々しい唇となよなよとした男が好きそうな顔をしていた。
童貞を殺す悪魔か? と半ば本気で思っていた。
「確か…アーネさん、だったかしら?」
ウェンズデイは顔見知りだったようで、朗らかに声をかけた。
「まあ覚えて頂けているなんて光栄です、ウェンズデイ様。オラツォリス・エデナク様付の侍女で、アーネ・ネア・アンネでございます」
「あら、本当にあのオラツォリス君付きのメイドになったの?」
「はい。どうか主共々仲良くしてくださいませ」
そこまで言ってアーネと名乗った悪魔は私をチラリと見た。彼女も成績三位の悪魔。何人合格するかは分からないけれど、上位成績の合格者とは仲良くしておいて損はないだろう。
「初めまして。アヤコ・サンモトです。よろしくね」
「さっきの魔法、素敵でした。やっぱり噂は本当なのかしら?」
「ええ。アヤコは紛れもなくコルドロン・アクトフォーの愛弟子だそうよ」
何故かウェンズデイが小さい胸を張ってこれ見よがしに言った。するとアーネは如何にも可愛らしく手をポンッと重ねて、驚いた。
「まあ。素晴らしいですわ。今しがた申しましたけれど、エデナク家で侍女をしております、アーネです」
「よろしくね。今日から晴れて学友ですから」
「はい。我が主と共に懇意にしてください」
…?
主と言うのはさっき話に出てたオラツォリスとやらの事だろう。名前からして男の子だとは思うけど…そもそも従者なら一緒に試験を受けただろうに、この子は一人で入ってきた。
どういう事?
「そのオラツォリスという方は?」
「オラツォリス様でしたら別室で同じように待機されています」
「別室?」
「はい。何でも一度、男女で別れて部屋を割り当てられているそうです。こちらが女性の部屋という事ですわね」
男女で部屋が別れている。
そう聞いた瞬間、何となく嫌な予感がした。
男子の合格者が他にいる。という事はつまり、私よりも先に合格した人がいるかも知れないということ。会場の男女比は雑感ながら、男の子の方が多かった気がする。
「誰が合格しているかは聞きました?」
「ええ。ご主人様が合格した時に」
「教えてくださらない?」
「ご主人様の前に三名が合格していると言ってました。アンチェントパプル家の方とシクレットの一族と」
「まあ! そちらの噂も本当でしたのね。アンチェントパプル家の方にはぜひお会いしてみたいわ」
その二人は噂を信じるならば好成績を収めていたとしても不思議じゃない。シクレット家のハンターの実力は未知数だが、アンチェントパプル家に至ってはその名前だけで跪く悪魔がいることを考えると、私よりも先に合格しているかもわからない。
ただこの試験で一番目立つ事ができたのは私だと自負している。この際主席合格も決めておきたい…。
そう思った時、一つ気が付いた。
「今3人が受かったと言いましたよね? もう一人の方は?」
「それが…すみません。ご主人様が合格された事で浮かれてしまいまして、あまり詳しくは聞けてないんです。流石にアンチェントパプルとシクレットよりも名うての家の方ではないと思いますが」
「まあ、そうでしょうね。アンチェントパプル家よりもすごい家の方が少ないでしょうから」
言う通り、私の事を除けばアンチェントパプル家の受験者が最も今年の試験の話題をさらう事だろう。とは言え、この二人の反応を見るにさっきの実技試験で、コルドロン・アクトフォーの弟子というのも中々のインパクトともに印象付けられたはず。少なくとも女子の方で私以上に関心を寄せる受験生はいないと思う。
けど、男女で部屋が分けられていたのは少し誤算だ。できれば私が主席で合格したかったけれど…まあ、アンチェントパプル家とワンツーフィニッシュでも恰好はつくし、ひょっとしたら後々そのお坊ちゃんと近づくための口実にできるかも知れない。
あれこれと思考と感情が胸の中を渦巻く。けれどそれは廊下から響いてきた喧騒に掻き消されてしまった。
雑多な足音から考えれば中の中くらいの実力者たちがようやく校舎に辿り着いたといったところかな。
あの試験にこれほど時間をかけるような輩は正直言ってもう眼中にない。反対に今いるこの二人は仲良くしておけば、色々と役に立ってくれるかも。
◇
引きつった試験官にそう言われた私は試験が終わるまでここで待機するようにと言われて、部屋に通された。大学の講義でつかうような教室には、先客は誰もいない。合格者が通される部屋って事は、やっぱり一番乗りだったらしい。
「蜘蛛はヤバかったけど、まあ合格したんだから何でもいいか」
コルドロン先生のいう通り大した試験ではなかったけど、それでも合格が決まれば嬉しいことは嬉しい。不本意だけど目立ってアピールもできたし、上々の出来栄えと言い切ろう。
ここから私の野望が始まると思うと、武者震いが起こってしまう。椅子になんか座ってられないほど、試験の余韻とこれからの展望とで血が沸いている。子供っぽいかと思ったが、次の合格者が来るまでは一人、シャドーボクシングに酔いしれていたって罰は当たらないはず。
実際、次に誰かがこの部屋に通されるまで十分ほど一人ぼっちだった。200人くらいは収容できる教室を一人で使うのは、少し空しかったけど。
◇
いい加減はしゃぐのも疲れて机に突っ伏していると、教室の扉が開いた。自然と私の目はそちらを向き、向こうも誰かいると様子を伺ってきたから必然的に目が合った。
「あら。やはりあなたはおりますよね」
何とも上品な口調と顔をした金髪の少女が入ってきた。同い年くらいなのは当たり前だけど、かなり小柄で童顔だから私よりもずっと年下に見える。さらさらとした金髪を赤いリボンテープでツインテールにしているのが、尚更幼さを強調していた。
けど漂わす雰囲気はかなり大人びている。なんというか、こう…育ちが良さそうっていうのはこんな感じなのかな?
黒を基調とした服はドレス風に仕立てられていて、こういう試験とはいえ品格を保ちたいという念が表れていた。
出で立ちから察するに、魔女見習いじゃない。悪魔、それも貴族階級の悪魔に違いないと私は直感した。
「初めまして。コルドロン・アクトフォーの弟子で、アヤコ・サンモトと申します」
先生の名前を出すと、悪魔はハッと驚いた風に口を開け、それを手で隠す仕草を見せた。その時広げた手の中指が下唇に触れ、可愛らしさと色っぽさの両方を出している。
「まあ。やはり皆さまのしていた噂通りでしたのね」
そういうとツカツカとヒールの音を響かせつつ、最前列の机に座っていた私の前にやってきた。そしていかにもお嬢様がするように、スカートを両手の指先でちょこんと摘み上げお辞儀をしてきた。確かカーテシーと言うんだったかな。
「お初にお目にかかります、私はウェットグレイヴ家の三女、ウェンズデイ・ウウェットグレイブと申します。今日から共にアカデミーの生徒、是非学友として仲睦まじくして頂けますと嬉しいですわ」
試験会場では全員に冷たく接していたけど、ここからは違う。なるべく味方を多く作って学生生活を充実させて、キョウダイ達に対抗できるくらいの仲間、できれば下僕を多く作らなきゃならない。
その為には上辺だけでも仲の良い友達はたくさん作っておきたい。相手が悪魔の、それも貴族ならば尚更ね。
「ご丁寧にありがとうございます。見ての通り日本と言うアジアの島国出身で、こちらの礼儀作法には疎いんです。失礼かもしれませんが、このまま挨拶にさせて頂きますわ、ウェットグレイブさん」
「ふふふ。ウェンズデイでよろしくてよ。仲良くしてくださいね、アヤコさん」
ウェンズデイと挨拶をし終えたタイミングで、再びドアが開いた。
「お邪魔しまぁす」
耳にねっとりと絡みつくような艶のある声がした。
ドアを開けて入ってきたのは山羊の悪魔。そう断定できたのは彼女の頭から山羊のねじれた角が生えていたからだ。
所謂モデル体型というようなすごいプロポーションだった。身長も見た感じで175㎝はありそう。胸は零れ落ちそうなくらい大きく、つやつやとした黒い髪が腰くらいまで伸びている。
少し垂れた瞳と整った鼻、瑞々しい唇となよなよとした男が好きそうな顔をしていた。
童貞を殺す悪魔か? と半ば本気で思っていた。
「確か…アーネさん、だったかしら?」
ウェンズデイは顔見知りだったようで、朗らかに声をかけた。
「まあ覚えて頂けているなんて光栄です、ウェンズデイ様。オラツォリス・エデナク様付の侍女で、アーネ・ネア・アンネでございます」
「あら、本当にあのオラツォリス君付きのメイドになったの?」
「はい。どうか主共々仲良くしてくださいませ」
そこまで言ってアーネと名乗った悪魔は私をチラリと見た。彼女も成績三位の悪魔。何人合格するかは分からないけれど、上位成績の合格者とは仲良くしておいて損はないだろう。
「初めまして。アヤコ・サンモトです。よろしくね」
「さっきの魔法、素敵でした。やっぱり噂は本当なのかしら?」
「ええ。アヤコは紛れもなくコルドロン・アクトフォーの愛弟子だそうよ」
何故かウェンズデイが小さい胸を張ってこれ見よがしに言った。するとアーネは如何にも可愛らしく手をポンッと重ねて、驚いた。
「まあ。素晴らしいですわ。今しがた申しましたけれど、エデナク家で侍女をしております、アーネです」
「よろしくね。今日から晴れて学友ですから」
「はい。我が主と共に懇意にしてください」
…?
主と言うのはさっき話に出てたオラツォリスとやらの事だろう。名前からして男の子だとは思うけど…そもそも従者なら一緒に試験を受けただろうに、この子は一人で入ってきた。
どういう事?
「そのオラツォリスという方は?」
「オラツォリス様でしたら別室で同じように待機されています」
「別室?」
「はい。何でも一度、男女で別れて部屋を割り当てられているそうです。こちらが女性の部屋という事ですわね」
男女で部屋が別れている。
そう聞いた瞬間、何となく嫌な予感がした。
男子の合格者が他にいる。という事はつまり、私よりも先に合格した人がいるかも知れないということ。会場の男女比は雑感ながら、男の子の方が多かった気がする。
「誰が合格しているかは聞きました?」
「ええ。ご主人様が合格した時に」
「教えてくださらない?」
「ご主人様の前に三名が合格していると言ってました。アンチェントパプル家の方とシクレットの一族と」
「まあ! そちらの噂も本当でしたのね。アンチェントパプル家の方にはぜひお会いしてみたいわ」
その二人は噂を信じるならば好成績を収めていたとしても不思議じゃない。シクレット家のハンターの実力は未知数だが、アンチェントパプル家に至ってはその名前だけで跪く悪魔がいることを考えると、私よりも先に合格しているかもわからない。
ただこの試験で一番目立つ事ができたのは私だと自負している。この際主席合格も決めておきたい…。
そう思った時、一つ気が付いた。
「今3人が受かったと言いましたよね? もう一人の方は?」
「それが…すみません。ご主人様が合格された事で浮かれてしまいまして、あまり詳しくは聞けてないんです。流石にアンチェントパプルとシクレットよりも名うての家の方ではないと思いますが」
「まあ、そうでしょうね。アンチェントパプル家よりもすごい家の方が少ないでしょうから」
言う通り、私の事を除けばアンチェントパプル家の受験者が最も今年の試験の話題をさらう事だろう。とは言え、この二人の反応を見るにさっきの実技試験で、コルドロン・アクトフォーの弟子というのも中々のインパクトともに印象付けられたはず。少なくとも女子の方で私以上に関心を寄せる受験生はいないと思う。
けど、男女で部屋が分けられていたのは少し誤算だ。できれば私が主席で合格したかったけれど…まあ、アンチェントパプル家とワンツーフィニッシュでも恰好はつくし、ひょっとしたら後々そのお坊ちゃんと近づくための口実にできるかも知れない。
あれこれと思考と感情が胸の中を渦巻く。けれどそれは廊下から響いてきた喧騒に掻き消されてしまった。
雑多な足音から考えれば中の中くらいの実力者たちがようやく校舎に辿り着いたといったところかな。
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