上 下
8 / 52
妖怪屋敷のご令嬢が入学試験に挑戦します

2-5

しおりを挟む
 さっさと試験に戻らないと…。

 そう思ったのも束の間。

 私は考え得る中で最も短絡的で力と暴力にだけモノを言わせるような事をしてしまった。

 さっき蜘蛛男に放った『冒涜の行動』のせいで少々地形が変わってしまったのだ。当然、頭上の枝葉も焼き払ってしまっており、ぽっかりと焦げ落ちた枝の隙間から行き場を無くした奴らがボタボタと落ちてきたのだ。

 しかも軽いパニックを起こしているように思える。つまり気持ち悪い動きに拍車がかかってカサカサと縦横無尽に這いまわっているのだ。蜘蛛が。

「―――――ッ!!」

 声にならない声が出た。

 私は頭で考えるよりも先に箒に跨り、飛び出していた。だが森は進むほどに木と木の感覚が狭くなってきているのでどんどんと飛びにくい状況になって行く。

 大中小様々な蜘蛛は反射的に近くで動いた私を執拗に狙って追いかけてくる。蜘蛛が蜘蛛を呼び、その呼ばれた蜘蛛がまた別の蜘蛛を呼ぶ。蜘蛛がねずみ講式に増えてくる。

 もう形振り構っている暇はない。

『これは滅びに至るまで、これは灰に至るまで。根こそぎ私を焼くであろう』

 そう唱えると私の掌からアパート一棟くらいの大きさの火炎球が飛び出した。

 火球をゴールがあるアカデミーの玄関の方角に向けて発射すると、それは森を飲み込み真っ赤な道筋を記しながら飛んでいく。私はそれを追いかけて箒をかっ飛ばす。

 炎のせいで一帯の森は昼と見紛うほどの明るさになっていた。

 火球は勢いを衰えずに進んでいった。

 こうなるとドミノをボーリング球で吹っ飛ばすような爽快感があって、他の事はどうでもよくなっていた。けどテンションが上がっていたのは私だけじゃなかったようだ。

 蜘蛛たちもすでに我を失って焼け跡を進むだけの波になっている。

 埒が明かない…。

 アカデミーの玄関に辿り着いて合格を貰えても、蜘蛛に追われているという問題は解決しない。むしろゴールしたら逃げ場がなくなって蜘蛛に追いつかれる。

 その事実を再認識して万が一そうなった時の未来を夢想したら、背筋が一気に寒くなった。こうなったら蜘蛛をまとめて焼き払うしか残された手はないよね。

 後ろに向かって魔法を飛ばそうとした時、私の目にゴールであるアカデミーの校舎が映った。時代掛かった壁で丸ごと覆われており、それにはしっかりと強固な対魔法用の魔術が施されている事にも気が付けた。

 瞬間的に妙案が浮かぶと、私はほくそ笑んだ。

「だったらこっちでいいや」

 私はアカデミーまでのと自分のいる位置を逆算して、一つ魔法薬の入った小瓶を道端に投げ捨てた。

 タイミングを見計らって私は箒ごと右に大きく旋回して逸れた。

 あのアカデミーの壁に施されていたのは俗に言う反射魔法。文字通り当たった魔法を跳ね返す。それに私の放った火球がぶち当たれば…。

 予想と結果の答え合わせは5秒後に叶った。

 アカデミーの魔法壁にぶつかった私の魔法はバラバラに砕けた。そして例に漏れず火球の破片の一つ残らずが反射魔法に作用されて、跳ね返されてしまう。無数の放射線となって反射された火の魔法は、ちゃんと計算した通りに私の投げ捨てた小瓶に当たってくれる。

 魔法薬、といえばかっこいいけど、中身は要するに火薬だ。だから当然、火が付けば…。

 燃えているのが蜘蛛って事に目をつぶればとても綺麗な花火だった。自分で自分をお祝いする花火を打ち上げるのも、まあ乙なことかもしれない。けど、正確にはまだゴールしていないから急がないと。

 正門には教師が数名待機して記録係をしていた。

 打ちあがった花火の事は勿論見ているし、それが私の仕業であることも完全にばれている。けど、この試験はどんな方法を使ってでもゴールすればいいと明言されている。私が怒られる筋合いはない。

 それでも後始末の事でも考えているのか、私の事を唖然としたまま一瞥するとため息と一緒にこめかみを軽く押さえていた。

 何はともあれ、ルール通り生きたままアカデミーの玄関に辿り着いた。

 晴れて一番乗りで合格させてもらいましょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...