7 / 11
将棋仲間との会話
しおりを挟む
あくる日。今日は午後から教職員の全体会議があるせいで授業が午前中しかなかった。長田くんも折角だから早く帰りたいといい、僕も僕で午後に色々と予定を作っていたので部活は休みになった。
学校が終わると一目散に懇意に利用している将棋サロンへ向かった。中学生の頃、将棋仲間が欲しくてあれこれと思案した末、子どもの頃よく家族で来ていた複合型スーパーの一角にあったこのサロンを思い出して通い始めた。未だに気が向いたときに、こうして顔を出して将棋を指している。
ここは最初に「将棋サロン」というものをイメージした時に思い描いた通り、年寄りが利用客の大半を占めている。もう少し都会の方には十代の客もいる将棋サロンもあるらしいが、ここしか知らない僕にとっては都市伝説のようなものだった。だが、最年少という訳でもなく、近隣の中学生や小学生がルールを習う程度のレベルで通ってきている。尤もそれも三、四人の話だ。
学校の教室を三つ繋げたくらいの広さがあるサロンには長机が均等に並べられており、その上にはまたも均等に将棋盤が配置されている。
昔を知っている人の話では、僕の住むこの市もどんどん少子化のあおりを受けているらしい。そうなるとどうしたって人が足りなくなるので、ここのサロンでは将棋の他に囲碁、チェス、オセロなどのボードゲームなら取りあえず良しという感覚で人集めをしている。入り口にはボケ防止に効果的、だとか友達を増やしてみませんか、といったような文句を並べたポスターが張られ、集客に必死なのが見て取れる。事実、いつ来ても三分の一が埋まるのが精々だった。それでも元々は将棋一本で営業していた時からの常連もそこそこ数が多く、一先ず将棋を指す分には相手に困ることはなかった。
入り口のガラス戸を押して入ってすぐ右側、観葉植物を背にして壁に寄り掛かるように座っているお爺さんが一人いた。その人は笹川九兵衛さんといって、ここの古参常連の一人で、僕が一番お世話になっている人だった。
受付で料金を前払いすると、真っ先に九兵衛さんの真向いの席へ向かった。
「明けましておめでとうございます、九兵衛さん」
声に反応した九兵衛さんは、よう、と右手を挙げて応えてくれた。
「おめでとさん。元気にしてたか」
「ええ、何とか」
九兵衛さんは八十を過ぎているとは思えないほど活力のある人で、言葉使いは少々乱暴に感じる時もあるが、時折同年代と思うこともある。それくらい闊達な性格をしている。
「学校は始まったのか?」
「はい今週から」
「そうか。どうだ、調子は?」
「可もなく不可もなくって感じです」
「不可じゃないなら良しだ」
そう言って九兵衛さんはにかりと笑った。
その流れで対局を申し出ると、約束もないからと了してくれた。
「九兵衛さん、今日は角落ちだけでお願いします」
「お、どうした? 冬休みに修行でもしたか?」
「そんなところです」
普段九兵衛さんと指す時は二枚落ちで戦う事が多いが、それでもまず勝てない。とは言っても六枚落ちで手も足も出なかった時期に比べれば成長は実感できる。こう言っては何だが、この人は本当に化け物染みた強さがある。
僕が強気に出たのは単純で先日、古川先輩と一局交えた時、負けはしたが思った以上に善戦できたのが理由だった。
「じゃあまず、お手並み拝見」
「お願いします」
パチン、という音が耳に入ると、少し離れたグループの話声がシャットアウトされた。
いつもは黙々と将棋を指し、喋ることはあまりない。だから九兵衛さんが話しかけてきたのは意外だった。
「そう言えば、名前が変わると変わらないとか言う話はどうなったんだ? もう変わったのか?」
「いえ、まだです。でも来月には変わっちゃいますね」
「今の名前、何て言ったっけ?」
「仁ですよ。乙川仁です」
「そうそう。いつも坊主としか呼ばねえから忘れちまってた。で、新しい名前は何て言うんだ?」
「今、悩んでます。というか、候補が三つあるんですけれど、あと一つは来週にならないと分からないんです」
「来週に教えられて、来月まで決めろってのも酷な話だな」
「まあ、仕方ないですよ。生まれた日付次第ですから」
「そもそも、学校は言ったヤツ全員の名前を変えるってのが無理矢理な話なんだよな。ま、国のやることに無理矢理じゃないものなんてないか」
そこで会話が一度終わった。今日の九兵衛さんは喋っても問題ないだろうと思い、僕も話を切り出してみた。
「九兵衛さん。僕に個性ってありますか?」
「どした? いきなり」
「いえ、友達とか周りの人間がやたら羨ましく見えてしまって」
「例えば?」
「そうですね。勉強ができたり、スポーツで全国大会に行ってたり、恋人が居たり、将棋が強かったりとかですけね」
「羨ましく見えるのと、個性とは別の様な気もするがな」
九兵衛さんは首の後ろあたりを掻きながら言った。
「それはそうかも知れないですけど」
「例えば個性ってのはさ、同じ字を書かせてそれぞれ特徴が出るようなもんだろう。書いてみて読めないのは論外だし、上手い下手は別の問題だ。字が上手くなりたいなら練習するしかないし、最初から上手いのはそいつのセンスとかであって個性じゃない」
「はい」
九兵衛さんは一度打つのを止め、腕を組んで考え始めた。小さい唸り声がこちらにも聞こえてきた。やがて、「そういえば」と前振りをしてまた喋り始める。
「名前の話で言えば最近は個性的と称して、とんでもない題名の映画とか小説とかが増えてるだろう?」
「そうですね」
「ああいう妙ちくりんな名前は、個人的には好ましいとは思わないけど、付ける側の気持ちは分からなくはないんだ。世の中色々なものが溢れてきてるから、一々中身まで確認してる余裕なんてのはない。なら題名でもって注目を引こうとする。目立たない事には評価はされないから」
「人間の名前だってそうですよ」
クラスメイトの名前が頭に浮かんだ。昨日の垣さんとの話でも、昨今の名付けの一番の関心点は個性的かどうかという点であると言っていた。
けれども九兵衛さんは「それは違うぞ」と、首を振って僕の言葉を否定した。
「ああいうのは、中身がはっきりしてるから個性的の一言で済むんだよ。人間みたいに中身が分からんものに奇抜な名前を付けたって無駄さ。奇抜は奇抜であって個性じゃない。それに人間の中身だって結局はあやふやで分からないものだ。そういう連中がいう個性ってのは要するに『目立ちたい』を別の言い方にしているだけだからな」
「目立ちたいか…」
それは的確な表現だと思った。僕が友人たちに距離を置いてしまうのも、結局は比較され、自分の程度の低さが露呈してしまうのが嫌だからなのかもしれない。
「ただな、坊主くらいの年の頃はそう思うくらいがちょうどいいのかも知れないよ。他人と同じは嫌だってのは、俺も通ってきた道だ。そう思うから得意な事を見つけようと勉強したり何かを練習したりしたもんだ。だから個性を求めること自体は悪い事じゃないのさ―――それに、個性がないと落ち込んでるみたいだけど、少なくとも将棋の指し筋は個性的だよ」
「悪手かどうかが分からないだけですよ」
「そうだな、悪手かどうか分からないのが一番厄介だ。場合によっちゃ好手を打たれるより不安になる」
九兵衛さんは僕が何手か前に打った桂馬を指差して言った。
「例えばさっきのこれは、こうなる事を見据えて打った手か?」
「いえ。こっちの銀をけん制しようと思って打ったんですけど、角のこと忘れてて失敗だったかなと。今となっては銀と飛車が止められているんで、結果オーライかと思いますけど」
「つまりさ、これがお前の個性じゃねえのか?」
「どういうことですか?」
「さっきまでは、確かに悪手だなと思ってたんだよ。けど坊主が言った通り、今となってはこいつのせいで少々攻めにくくなってる。もしこれが人生だったらどうだ? あの時失敗したと思ったものが、今振り返って見れば意外な役に立っている」
「でも…それは偶然じゃ」
ペットボトルのお茶を一口飲むと、九兵衛さんはキャップを固く絞った。ぎゅうぎゅうに蓋を閉めるのは久兵衛さんの手癖だ。
「偶然じゃないよ。偶然ってのは将棋指してて一番言っちゃいけない言葉だよ。俺は精一杯考えて打っているし、坊主も考えて打っている。この桂が活きるように打ったってだけだ、偶然も必然もねえよ。そりゃあプロ棋士だったら、有る程度は予め考えて打っていたかもしれないけどな」
「…」
「俺が思うに個性っていうのには初めっから個性だった個性と、後から個性に仕立て上げた個性の二種類あるんだ、きっと」
「個性に仕立て上げた個性、ですか」
「型に嵌りたくない、なんてのは若い奴なら尚更思うことかもしれないけど、それでも型ってのは大事なんだよ。そもそも、日本人ていうのは型に嵌るのが大好きな人種だろう? やれマニュアルだ、常識だ、暗黙のルールだと言って、みんな同じ、出る杭は打たれるってそう言う国じゃないか日本ってのは」
九兵衛さんは腕組みをすると何かを思い出したようで、空を見ながらつぶやき始めた。
「『型の出来ていない奴が芝居をするとカタナシになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになる。そしてその型を作るのは稽古しかないんだ』って言ってた落語家が昔いてな。俺はそいつの事は嫌いだったんだけど、言動は破天荒で好きだったんだ。この言葉も言葉だけなら言い得て妙だと感心してるし。坊主の場合の型破りは、この桂だな」
僕は桂馬を見た。
何となくだけれど、ほっとした。
「ところで、そんなことを考えるのは、やっぱり名前が変わるってのが原因か?」
「そうですね。他にもありますけど、結局はそこです」
「他っていうのは?」
「名前を変えることに対する姿勢が、何ていうか…しっかりしている人が多いんですよね。それに比べて自分は何なんだって思ってはいます。親に言われるがままに名前を変えるのが、何も考えていないようで恥ずかしくて」
「坊主が行っているような学校が出来た経緯ってのは、ニュースとか新聞で聞きかじったくらいの理由なら知っているよ。無茶苦茶な名前で苦労する奴を減らすってのが目的なんだろ?」
「簡単に言うとそうですね」
そこで僕は垣さんとの話を思い出して、少々得意げに言った。
「あ、でも、無茶苦茶な名前でも親はキチンと意味や理由を考えているんですよ」
「そんなのは当たり前だろう。何の意味もなしに人の名前を考えられねえよ」
「そうですよね」
あっさりと返されてしまって、少し恥ずかしくなった。
「けどな、どんなに深い意味を考えて、どんなに良い名前を付けたって、タダで素晴らしい人間にはならねえよ。こんな人間になってほしいんなら、名前じゃなくて育て方に頭悩ませなけりゃどうにもならねえじゃねえか。勝って名前を付けたら、勝負ごとに全部勝てるようになって生きて行くんなら誰も苦労はしねえよ。育て方がモノを言うんだ、名前じゃなくてな」
「親次第なんですかね」
頭に母の顔が過ぎった。その結論が正しいならば僕は既にダメなような気がする。けれども、九兵衛さんは再び首を横に振った。
「ただ、それもまた違う」
「え?」
「立派な人間になるには『育て方』だけじゃなくて、『育ち方』も大事なんだよ」
「育ち方?」
「どんな人間になるか、子どもにだって責任はあるってことだ」
「けど、子どもは何も知らないじゃないですか。それを教える親や先生の方が重要じゃないですか」
「まあ、言うほど簡単な話じゃないしな、ここで答えがはっきりするんなら今頃日本は平和だろうよ。でもな教える側の…例えば親や先生だって人間だ、生意気な奴より教えてくださいって素直な姿勢の奴の方が教えていて気分が言いに決まってる」
「そりゃあ、そうでしょうけど」
「ならそういう人間に育てろって話になるから、やっぱり簡単じゃないな。けどやっぱり、親や先生だけの問題ってのは違う気がするんだよなぁ。人を殺しちゃいけないと教えたって殺す人間はいるし、人を殺さない人間はどんな状況になってもの人を殺さないもんさ。詰みまで指したって、一度も相手の駒を取らねえ駒があるみたいにさ……人間てのは、神様が打ってる将棋の駒なのかも知れねえな」
九兵衛さんは頭を掻いた。
少し気落ちした九兵衛さんを見て、この話を振ったことを謝った。
「すみません。なんか変な話題でした」
「いや、いいよ。坊主が悩みを打ち明けてくれたんだ、悪い気はしねえさ。ついでに言っておくけどな、坊主は育ち方のいい奴だと思うぞ」
「僕がですか?」
九兵衛さんは笑いがら頷いた。
「本気で研究してくるからこっちも本気で将棋を指すし、悩みを打ち明けてくれるから俺も考えられる。欲しい答えとは違うかもしれねえが、少なくとも俺は、坊主の力になってやりたいって気が起きるんだ」
それからは二人で将棋に集中した。劣勢はついに覆らず結局は負けてしまったが、自分でも驚くくらい詰みまで粘れたのが嬉しかった。
九兵衛さんが飲み物を奢ってくれると言ってきたので、甘んじてご馳走になることにした。受付にコーヒーと緑茶を注文して、席に戻ると今の対局の感想戦をしてくれた。九兵衛さんが感想戦を申し出てくれるのは初めての事だった。棋譜は残していなかったが、九兵衛さんは直前の局面くらいなら覚えていると言って容易く再現してくれた。普段から凄い人だとは思っていたが、また一つ遠い人になってしまった。
「ありがとうございます」
「今度からは二枚落ちじゃ厳しいかもなあ」
感想戦が終わるとただの世間話になった。僕は学校の事や冬休みの事を話し、九兵衛さんは正月に里帰りしてきた子供夫婦の事や、仕事の事を話してきた。年が明けてから息子夫婦に新しく子供が生まれたそうで、命名に頭を悩ましているそうだ。
「名前と言えば、九兵衛さんは自分の名前の由来って知ってますか?」
「知ってるよ。俺が九番目に生まれた子供だったからだ」
「へえ」
「拍子抜けしたか? けど、昔の名付けなんてそんなものさ。そもそも名前ってのは、それが何なのかの説明だろう。名前に意味を付けるなんて人間だけだし、みんながみんなそうするようになったのは最近だ。けど自分の名前が適当だと思ったことはないし、親の愛情は十分に感じてた。あれだけの大人数を育ててくれたんだ、生きてるうちはこの野郎と思ったことはあるけど、今となっては尊敬の念しか湧いてこねえなぁ」
やっぱり育て方と育ち方だよ、とさっきの言葉を反復して結論付けた。
九兵衛さんは、チラリと腕時計を見ると、
「さてと、〆切もあるから帰るかな」
と言って立ち上がった。
九兵衛さんは現役の小説家をやっている。このサロンで将棋を指すようになってから周りの人達に教えられて知った。知り合いが書いている本ならと思い立って読んでみると、ことのほか面白い内容で今では愛読者の一人になっている。
「まずいんですか?」
「まずくはないが、美味しくもないな」
僕もこの後にまた約束があったので帰り支度を始めた。本当は少し早いのだが、九兵衛さんに合わせることにした。
途中までは帰り道が同じなので、そこでも少し二人で話しをした。
「そう言えば、九兵衛さんが小説書くときのペンネーム、笹川雪でしたっけ?それってどうやってつけたんですか?」
「どうもこうもねえよ、単に自分で付けた」
「謂れはあるんですか?」
「笹川は名字そのまま。雪ってのはむか~しに親から聞かされた名前でな、もしも俺が女だったら雪って名前にしようと思ってたんだと。今と違って、生まれる前に性別なんてわかりはしないからよ、男だったら九番目に生まれるから九兵衛、女だったら雪が積もった日だから雪にしようと決めてたんだってよ、大分いい加減だろ? だから笹川雪って名前は、もしかしたら居たかもしれないもう一人の自分って意味で付けたんだ」
「へえ」
「もし新しい名前で迷っているなら、もう少し簡単に考えてもいいんじゃねえか? よっぽど変な名前でもない限り、名前で人生や人間が決まる何てことは起こらねえよ」
「そうですね。ちょっとは気が楽になりました」
「そんなら良かった」
やがて駅に着くと、そこで九兵衛さんと別れた。
サロンの最寄りの駅は少し登った高いところにあり、改札を通り抜けホームに出ると帰り足の九兵衛さんの後ろ姿が見えた。角を曲がりいよいよ姿が見えなくなるのと、電車が到着するアナウンスがほぼ同時であった。
自宅に向かうのとは逆の電車に乗り込み、街へと向かう。
電車の中では九兵衛さんと垣さんの話を踏まえて、グワングワンに考えを巡らせていた。
学校が終わると一目散に懇意に利用している将棋サロンへ向かった。中学生の頃、将棋仲間が欲しくてあれこれと思案した末、子どもの頃よく家族で来ていた複合型スーパーの一角にあったこのサロンを思い出して通い始めた。未だに気が向いたときに、こうして顔を出して将棋を指している。
ここは最初に「将棋サロン」というものをイメージした時に思い描いた通り、年寄りが利用客の大半を占めている。もう少し都会の方には十代の客もいる将棋サロンもあるらしいが、ここしか知らない僕にとっては都市伝説のようなものだった。だが、最年少という訳でもなく、近隣の中学生や小学生がルールを習う程度のレベルで通ってきている。尤もそれも三、四人の話だ。
学校の教室を三つ繋げたくらいの広さがあるサロンには長机が均等に並べられており、その上にはまたも均等に将棋盤が配置されている。
昔を知っている人の話では、僕の住むこの市もどんどん少子化のあおりを受けているらしい。そうなるとどうしたって人が足りなくなるので、ここのサロンでは将棋の他に囲碁、チェス、オセロなどのボードゲームなら取りあえず良しという感覚で人集めをしている。入り口にはボケ防止に効果的、だとか友達を増やしてみませんか、といったような文句を並べたポスターが張られ、集客に必死なのが見て取れる。事実、いつ来ても三分の一が埋まるのが精々だった。それでも元々は将棋一本で営業していた時からの常連もそこそこ数が多く、一先ず将棋を指す分には相手に困ることはなかった。
入り口のガラス戸を押して入ってすぐ右側、観葉植物を背にして壁に寄り掛かるように座っているお爺さんが一人いた。その人は笹川九兵衛さんといって、ここの古参常連の一人で、僕が一番お世話になっている人だった。
受付で料金を前払いすると、真っ先に九兵衛さんの真向いの席へ向かった。
「明けましておめでとうございます、九兵衛さん」
声に反応した九兵衛さんは、よう、と右手を挙げて応えてくれた。
「おめでとさん。元気にしてたか」
「ええ、何とか」
九兵衛さんは八十を過ぎているとは思えないほど活力のある人で、言葉使いは少々乱暴に感じる時もあるが、時折同年代と思うこともある。それくらい闊達な性格をしている。
「学校は始まったのか?」
「はい今週から」
「そうか。どうだ、調子は?」
「可もなく不可もなくって感じです」
「不可じゃないなら良しだ」
そう言って九兵衛さんはにかりと笑った。
その流れで対局を申し出ると、約束もないからと了してくれた。
「九兵衛さん、今日は角落ちだけでお願いします」
「お、どうした? 冬休みに修行でもしたか?」
「そんなところです」
普段九兵衛さんと指す時は二枚落ちで戦う事が多いが、それでもまず勝てない。とは言っても六枚落ちで手も足も出なかった時期に比べれば成長は実感できる。こう言っては何だが、この人は本当に化け物染みた強さがある。
僕が強気に出たのは単純で先日、古川先輩と一局交えた時、負けはしたが思った以上に善戦できたのが理由だった。
「じゃあまず、お手並み拝見」
「お願いします」
パチン、という音が耳に入ると、少し離れたグループの話声がシャットアウトされた。
いつもは黙々と将棋を指し、喋ることはあまりない。だから九兵衛さんが話しかけてきたのは意外だった。
「そう言えば、名前が変わると変わらないとか言う話はどうなったんだ? もう変わったのか?」
「いえ、まだです。でも来月には変わっちゃいますね」
「今の名前、何て言ったっけ?」
「仁ですよ。乙川仁です」
「そうそう。いつも坊主としか呼ばねえから忘れちまってた。で、新しい名前は何て言うんだ?」
「今、悩んでます。というか、候補が三つあるんですけれど、あと一つは来週にならないと分からないんです」
「来週に教えられて、来月まで決めろってのも酷な話だな」
「まあ、仕方ないですよ。生まれた日付次第ですから」
「そもそも、学校は言ったヤツ全員の名前を変えるってのが無理矢理な話なんだよな。ま、国のやることに無理矢理じゃないものなんてないか」
そこで会話が一度終わった。今日の九兵衛さんは喋っても問題ないだろうと思い、僕も話を切り出してみた。
「九兵衛さん。僕に個性ってありますか?」
「どした? いきなり」
「いえ、友達とか周りの人間がやたら羨ましく見えてしまって」
「例えば?」
「そうですね。勉強ができたり、スポーツで全国大会に行ってたり、恋人が居たり、将棋が強かったりとかですけね」
「羨ましく見えるのと、個性とは別の様な気もするがな」
九兵衛さんは首の後ろあたりを掻きながら言った。
「それはそうかも知れないですけど」
「例えば個性ってのはさ、同じ字を書かせてそれぞれ特徴が出るようなもんだろう。書いてみて読めないのは論外だし、上手い下手は別の問題だ。字が上手くなりたいなら練習するしかないし、最初から上手いのはそいつのセンスとかであって個性じゃない」
「はい」
九兵衛さんは一度打つのを止め、腕を組んで考え始めた。小さい唸り声がこちらにも聞こえてきた。やがて、「そういえば」と前振りをしてまた喋り始める。
「名前の話で言えば最近は個性的と称して、とんでもない題名の映画とか小説とかが増えてるだろう?」
「そうですね」
「ああいう妙ちくりんな名前は、個人的には好ましいとは思わないけど、付ける側の気持ちは分からなくはないんだ。世の中色々なものが溢れてきてるから、一々中身まで確認してる余裕なんてのはない。なら題名でもって注目を引こうとする。目立たない事には評価はされないから」
「人間の名前だってそうですよ」
クラスメイトの名前が頭に浮かんだ。昨日の垣さんとの話でも、昨今の名付けの一番の関心点は個性的かどうかという点であると言っていた。
けれども九兵衛さんは「それは違うぞ」と、首を振って僕の言葉を否定した。
「ああいうのは、中身がはっきりしてるから個性的の一言で済むんだよ。人間みたいに中身が分からんものに奇抜な名前を付けたって無駄さ。奇抜は奇抜であって個性じゃない。それに人間の中身だって結局はあやふやで分からないものだ。そういう連中がいう個性ってのは要するに『目立ちたい』を別の言い方にしているだけだからな」
「目立ちたいか…」
それは的確な表現だと思った。僕が友人たちに距離を置いてしまうのも、結局は比較され、自分の程度の低さが露呈してしまうのが嫌だからなのかもしれない。
「ただな、坊主くらいの年の頃はそう思うくらいがちょうどいいのかも知れないよ。他人と同じは嫌だってのは、俺も通ってきた道だ。そう思うから得意な事を見つけようと勉強したり何かを練習したりしたもんだ。だから個性を求めること自体は悪い事じゃないのさ―――それに、個性がないと落ち込んでるみたいだけど、少なくとも将棋の指し筋は個性的だよ」
「悪手かどうかが分からないだけですよ」
「そうだな、悪手かどうか分からないのが一番厄介だ。場合によっちゃ好手を打たれるより不安になる」
九兵衛さんは僕が何手か前に打った桂馬を指差して言った。
「例えばさっきのこれは、こうなる事を見据えて打った手か?」
「いえ。こっちの銀をけん制しようと思って打ったんですけど、角のこと忘れてて失敗だったかなと。今となっては銀と飛車が止められているんで、結果オーライかと思いますけど」
「つまりさ、これがお前の個性じゃねえのか?」
「どういうことですか?」
「さっきまでは、確かに悪手だなと思ってたんだよ。けど坊主が言った通り、今となってはこいつのせいで少々攻めにくくなってる。もしこれが人生だったらどうだ? あの時失敗したと思ったものが、今振り返って見れば意外な役に立っている」
「でも…それは偶然じゃ」
ペットボトルのお茶を一口飲むと、九兵衛さんはキャップを固く絞った。ぎゅうぎゅうに蓋を閉めるのは久兵衛さんの手癖だ。
「偶然じゃないよ。偶然ってのは将棋指してて一番言っちゃいけない言葉だよ。俺は精一杯考えて打っているし、坊主も考えて打っている。この桂が活きるように打ったってだけだ、偶然も必然もねえよ。そりゃあプロ棋士だったら、有る程度は予め考えて打っていたかもしれないけどな」
「…」
「俺が思うに個性っていうのには初めっから個性だった個性と、後から個性に仕立て上げた個性の二種類あるんだ、きっと」
「個性に仕立て上げた個性、ですか」
「型に嵌りたくない、なんてのは若い奴なら尚更思うことかもしれないけど、それでも型ってのは大事なんだよ。そもそも、日本人ていうのは型に嵌るのが大好きな人種だろう? やれマニュアルだ、常識だ、暗黙のルールだと言って、みんな同じ、出る杭は打たれるってそう言う国じゃないか日本ってのは」
九兵衛さんは腕組みをすると何かを思い出したようで、空を見ながらつぶやき始めた。
「『型の出来ていない奴が芝居をするとカタナシになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになる。そしてその型を作るのは稽古しかないんだ』って言ってた落語家が昔いてな。俺はそいつの事は嫌いだったんだけど、言動は破天荒で好きだったんだ。この言葉も言葉だけなら言い得て妙だと感心してるし。坊主の場合の型破りは、この桂だな」
僕は桂馬を見た。
何となくだけれど、ほっとした。
「ところで、そんなことを考えるのは、やっぱり名前が変わるってのが原因か?」
「そうですね。他にもありますけど、結局はそこです」
「他っていうのは?」
「名前を変えることに対する姿勢が、何ていうか…しっかりしている人が多いんですよね。それに比べて自分は何なんだって思ってはいます。親に言われるがままに名前を変えるのが、何も考えていないようで恥ずかしくて」
「坊主が行っているような学校が出来た経緯ってのは、ニュースとか新聞で聞きかじったくらいの理由なら知っているよ。無茶苦茶な名前で苦労する奴を減らすってのが目的なんだろ?」
「簡単に言うとそうですね」
そこで僕は垣さんとの話を思い出して、少々得意げに言った。
「あ、でも、無茶苦茶な名前でも親はキチンと意味や理由を考えているんですよ」
「そんなのは当たり前だろう。何の意味もなしに人の名前を考えられねえよ」
「そうですよね」
あっさりと返されてしまって、少し恥ずかしくなった。
「けどな、どんなに深い意味を考えて、どんなに良い名前を付けたって、タダで素晴らしい人間にはならねえよ。こんな人間になってほしいんなら、名前じゃなくて育て方に頭悩ませなけりゃどうにもならねえじゃねえか。勝って名前を付けたら、勝負ごとに全部勝てるようになって生きて行くんなら誰も苦労はしねえよ。育て方がモノを言うんだ、名前じゃなくてな」
「親次第なんですかね」
頭に母の顔が過ぎった。その結論が正しいならば僕は既にダメなような気がする。けれども、九兵衛さんは再び首を横に振った。
「ただ、それもまた違う」
「え?」
「立派な人間になるには『育て方』だけじゃなくて、『育ち方』も大事なんだよ」
「育ち方?」
「どんな人間になるか、子どもにだって責任はあるってことだ」
「けど、子どもは何も知らないじゃないですか。それを教える親や先生の方が重要じゃないですか」
「まあ、言うほど簡単な話じゃないしな、ここで答えがはっきりするんなら今頃日本は平和だろうよ。でもな教える側の…例えば親や先生だって人間だ、生意気な奴より教えてくださいって素直な姿勢の奴の方が教えていて気分が言いに決まってる」
「そりゃあ、そうでしょうけど」
「ならそういう人間に育てろって話になるから、やっぱり簡単じゃないな。けどやっぱり、親や先生だけの問題ってのは違う気がするんだよなぁ。人を殺しちゃいけないと教えたって殺す人間はいるし、人を殺さない人間はどんな状況になってもの人を殺さないもんさ。詰みまで指したって、一度も相手の駒を取らねえ駒があるみたいにさ……人間てのは、神様が打ってる将棋の駒なのかも知れねえな」
九兵衛さんは頭を掻いた。
少し気落ちした九兵衛さんを見て、この話を振ったことを謝った。
「すみません。なんか変な話題でした」
「いや、いいよ。坊主が悩みを打ち明けてくれたんだ、悪い気はしねえさ。ついでに言っておくけどな、坊主は育ち方のいい奴だと思うぞ」
「僕がですか?」
九兵衛さんは笑いがら頷いた。
「本気で研究してくるからこっちも本気で将棋を指すし、悩みを打ち明けてくれるから俺も考えられる。欲しい答えとは違うかもしれねえが、少なくとも俺は、坊主の力になってやりたいって気が起きるんだ」
それからは二人で将棋に集中した。劣勢はついに覆らず結局は負けてしまったが、自分でも驚くくらい詰みまで粘れたのが嬉しかった。
九兵衛さんが飲み物を奢ってくれると言ってきたので、甘んじてご馳走になることにした。受付にコーヒーと緑茶を注文して、席に戻ると今の対局の感想戦をしてくれた。九兵衛さんが感想戦を申し出てくれるのは初めての事だった。棋譜は残していなかったが、九兵衛さんは直前の局面くらいなら覚えていると言って容易く再現してくれた。普段から凄い人だとは思っていたが、また一つ遠い人になってしまった。
「ありがとうございます」
「今度からは二枚落ちじゃ厳しいかもなあ」
感想戦が終わるとただの世間話になった。僕は学校の事や冬休みの事を話し、九兵衛さんは正月に里帰りしてきた子供夫婦の事や、仕事の事を話してきた。年が明けてから息子夫婦に新しく子供が生まれたそうで、命名に頭を悩ましているそうだ。
「名前と言えば、九兵衛さんは自分の名前の由来って知ってますか?」
「知ってるよ。俺が九番目に生まれた子供だったからだ」
「へえ」
「拍子抜けしたか? けど、昔の名付けなんてそんなものさ。そもそも名前ってのは、それが何なのかの説明だろう。名前に意味を付けるなんて人間だけだし、みんながみんなそうするようになったのは最近だ。けど自分の名前が適当だと思ったことはないし、親の愛情は十分に感じてた。あれだけの大人数を育ててくれたんだ、生きてるうちはこの野郎と思ったことはあるけど、今となっては尊敬の念しか湧いてこねえなぁ」
やっぱり育て方と育ち方だよ、とさっきの言葉を反復して結論付けた。
九兵衛さんは、チラリと腕時計を見ると、
「さてと、〆切もあるから帰るかな」
と言って立ち上がった。
九兵衛さんは現役の小説家をやっている。このサロンで将棋を指すようになってから周りの人達に教えられて知った。知り合いが書いている本ならと思い立って読んでみると、ことのほか面白い内容で今では愛読者の一人になっている。
「まずいんですか?」
「まずくはないが、美味しくもないな」
僕もこの後にまた約束があったので帰り支度を始めた。本当は少し早いのだが、九兵衛さんに合わせることにした。
途中までは帰り道が同じなので、そこでも少し二人で話しをした。
「そう言えば、九兵衛さんが小説書くときのペンネーム、笹川雪でしたっけ?それってどうやってつけたんですか?」
「どうもこうもねえよ、単に自分で付けた」
「謂れはあるんですか?」
「笹川は名字そのまま。雪ってのはむか~しに親から聞かされた名前でな、もしも俺が女だったら雪って名前にしようと思ってたんだと。今と違って、生まれる前に性別なんてわかりはしないからよ、男だったら九番目に生まれるから九兵衛、女だったら雪が積もった日だから雪にしようと決めてたんだってよ、大分いい加減だろ? だから笹川雪って名前は、もしかしたら居たかもしれないもう一人の自分って意味で付けたんだ」
「へえ」
「もし新しい名前で迷っているなら、もう少し簡単に考えてもいいんじゃねえか? よっぽど変な名前でもない限り、名前で人生や人間が決まる何てことは起こらねえよ」
「そうですね。ちょっとは気が楽になりました」
「そんなら良かった」
やがて駅に着くと、そこで九兵衛さんと別れた。
サロンの最寄りの駅は少し登った高いところにあり、改札を通り抜けホームに出ると帰り足の九兵衛さんの後ろ姿が見えた。角を曲がりいよいよ姿が見えなくなるのと、電車が到着するアナウンスがほぼ同時であった。
自宅に向かうのとは逆の電車に乗り込み、街へと向かう。
電車の中では九兵衛さんと垣さんの話を踏まえて、グワングワンに考えを巡らせていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
山田がふりむくその前に。
おんきゅう
青春
花井美里 16歳 読書の好きな陰キャ、ごくありふれた田舎の高校に通う。今日も朝から私の前の席の山田がドカっと勢いよく席に座る。山田がコチラをふりむくその前に、私は覚悟を決める。
8年間未来人石原くん。
七部(ななべ)
青春
しがない中学2年生の石原 謙太郎(いしはら けんたろう)に、一通の手紙が机の上に届く。
「苗村と付き合ってくれ!頼む、今しかないんだ!」
と。8年後の未来の、22歳の自分が、今の、14歳の自分宛に。苗村 鈴(なえむら すず)
これは、石原の8年間の恋愛のキャンバスのごく一部分の物語。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

若草寮の寮生と茶白猫の茶々さん
桜乃華
青春
大学への入学を機に近くの若草寮へと入ることになった汐崎和(しおざき なごみ)は一匹の茶白猫と出会う。この話は和と初めて出来た友人伊澤千帆(いさわ ちほ)そして、茶白猫の茶々さんとの何気ない日常の話。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる