3 / 11
父親との会話
しおりを挟む綺麗……
陽の光が水の中でキラキラ光って、魚の鱗にも反射してる。まるで、星の中泳いでいるみたい……
「アキ、聞こえる?」
「聞こえるよ、モアさん」
少し遠いけど、モアさんの中性っぽい声がはっきりと聞こえた。
「そのまま潜ると、横に人工的な洞穴が見えてくるはずだよ。精霊石はその洞穴の奥にある」
洞穴の奥?
それって、まさか――
「おい、それって、主の住処じゃないよな!!」
ケイ兄さんの焦った声がする。実は、私もそう思ったの。
「そうだよ、そこは主の住処。でも、この時間帯なら巡回に出ているからいないはずだよ」
耳元でモアさんの声がする。
モアさん、はずは絶対じゃないんだよ。それに、音がしなくても、身体を動かす度に振動が伝わっていたはずだから、テリトリー内に侵入者がいるって考えるよね。だったら、巡回だとしても引き返すよね。
「アキ?」
返事がない私を心配して、モアさんは名前を呼ぶ。
後ろを振り返らなくてもわかる。だって、私を覆い被さるように不自然な影ができているから。
……あれ? 襲って来ない?
一口でパクってされると思ったんだけど、攻撃仕掛けてこないね……もしかして、私を伺ってる?
相変わらず、耳元はケイ兄さんの焦りと怒りが混じった煩い声がしているけど、そんなのどうでもいい。
敵意は感じないけど……
振り返るしか――
パニックになって、背中を見せたまま逃げるのは悪手。野生動物も魔物も追い掛けて来て捕まえてなぶる。
「アキ、もしかして出会ったの?」
モアさんの緊張感がない声がした。
「……そのまさか。今から振り返るところ」
「会っちゃったか~。身体強化掛けてるから大丈夫だね。大丈夫、食べられはしないから、安心して」
すっごい、明るい声がした。同時に、ケイ兄さんのキレる声がしたけど、すぐに聞こえなくなった。
『……クロードだよね?』
「えっ!?」
頭に直接響く声。声変わりする前の少年のよう声だった。私は反射的に振り返る。
そこにいたのは、一頭の竜だった。
その頭部だけで私より大きい。でも、全身の鱗がキラキラ光ってて、怖いと感じるより神々しく感じた。
攻撃しない方がいいって……確かにそうだね、モアさん。自死行為だわ。
『クロードじゃないの?』
また、頭に直接話し掛けてくる。不快ではないけど、不思議な気分。慣れるまで時間掛かりそう。
それはそうと、可愛らしく頭を傾げても、迫力があるだけだよ!! でもここは、興奮させない方がいい。でも、嘘は吐けない。竜は人の心を読むって本に書いてた!! っていうか、この場でパニックにならない私凄くない!?
「……クロードって誰ですか?」
おずおずと訊きなおす。
『知らないの? 君たち人族の中で、超有名人なのに? 君、もぐり? でも、クロードと同じ気配がするんだよね。僕が間違うくらい。君、何者? どうやって、ここに来たの? 何が目的なの?』
矢継早に質問してくる。
いつ攻撃してくるかわからないなら、ここは真摯な態度で接するべきよね。
「私名前はアキ。冒険者をしてます。ここを案内してくれたのは、エルフのスモアフラさん。目的は精霊石を取りに来ました」
端的に、言葉を飾らず。訊かれたことだけ答える。
『スモアフラ? そうなんだ……』
竜はそう呟くと、鼻先を私に近付けた。鼻息かな、水圧が地味に掛かって飛ばされそう。
もしかして、匂い嗅がれてるの!?
『やっぱり、クロードだ!! すっごく、可愛くなったね!! ちゃんと、約束守ってくれた!! 僕、とても嬉しい!!』
興奮しながら叫ばれると、頭が痛くなる。でも、そんなこと気にする余裕がなかったよ。だって、竜の両手で抱き締められたから。
そしてそのまま、もの凄いスピードで私を抱えたまま竜は泳ぎ出す。
モアさんが、身体強化を掛けてるか確認してきた意味わかったよ!! 掛けてなかったら、死んでるわ!!
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
山田がふりむくその前に。
おんきゅう
青春
花井美里 16歳 読書の好きな陰キャ、ごくありふれた田舎の高校に通う。今日も朝から私の前の席の山田がドカっと勢いよく席に座る。山田がコチラをふりむくその前に、私は覚悟を決める。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

若草寮の寮生と茶白猫の茶々さん
桜乃華
青春
大学への入学を機に近くの若草寮へと入ることになった汐崎和(しおざき なごみ)は一匹の茶白猫と出会う。この話は和と初めて出来た友人伊澤千帆(いさわ ちほ)そして、茶白猫の茶々さんとの何気ない日常の話。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる