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ジャック一行

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「改めて自己紹介しとくな。俺はアーマン=ジャック。五年前から冒険者として世界各国を旅してきた。得物はこいつだ」

 出会った時から持っていた剣を掲げてみせるジャックさん。
 ……ん? 『ジャック』ってファーストネームではなかったのか。

「普段は姓の方を名乗っていたのですか?」
「ああ、俺は東方出身だから姓の方が先に来るんだ。あんまり馴染みはないかもな……このダンジョンへは、上級悪魔を追うために来た」

 ダンジョンの上級悪魔?
 ピンとこなかったが、強いて挙げるとすれば修道院にいた頃に耳にした魔王の復活だろうか。それだって修行を終えた頃には聞かなくなったし、旦那様が張った結界によって何とかなったのだと思っていたけれど。

「その上級悪魔とは、魔王の事ですか?」
「魔王? そういや領主代行ってじいさんがそんな事言ってた気がするが、ショコラによれば違うらしいぜ。なぁ?」

 コーヒーなる飲み物を追加で持ってきたショコラさんは、カップをテーブルに並べると頷いた。ちなみに私には苦過ぎるので砂糖とミルクも添えてくれている。

「いるのよねぇ、各地で魔王を自称する小物が。ま、他の地域と交流がなかった太古の昔なら、現れた強力な魔物を『魔王』と呼んでも不思議じゃないけどね!」
「それが、神話の真実……だ、だけど結局は伝説の魔王本人と言っていいのでは!?」
「そうだな、放置していい事はない。だから俺はやつを追っているんだ」

 結界を張った後もダンジョンの調査を続けているらしい旦那様。きっとジャックさんと同じく、復活した魔王を完全に封印するため……だとすれば、私と結婚なんてしている場合ではない。

(そうよ、お務めを果たしたとは言え、修道院を出てすぐの私を受け入れろなんて、侯爵家にとっては罰ゲーム以外の何物でもないわ。王太子殿下は一体どういうつもりだったのかしら……まさか本当に、私への嫌がらせだけで決めているとは思いたくないけど)

 冒険者ギルドの地図から判明した、ダンジョンの位置。私が汚い噴水だと思い込んでいたあのモニュメントは、恐らく魔王が封印された場所だった。宮廷魔術師だったメイズ侯爵家は代々その封印を守ってきたのだろう。
 何らかの原因で解かれた封印とダンジョン化、没落寸前にまで陥った侯爵家、そして私との婚姻……どうやら事態は、私が予想していたのよりも遥かに深刻らしかった。

「それはそうと、どうしてショコラさんは魔王が本物ではないと断言できるのですか?」
「だってアタシ、魔王様の配下だったんですもの。御主人様が生まれるずぅ~~っと昔だけどね♪」
「……はぁっ!?」

 ショコラさんの爆弾発言に、思わず絶句する。入浴中に元々魔物だった事と、ジャックさんに敗れて忠誠を誓った事は聞いていたが。彼女たちみんな、そうなんだろうか。

「どうも本物の魔王はとっくの昔に死んでるんだが、元・配下だか子孫だかは各地で悪さしてるみたいでな。冒険者ギルドは世界中にネットワークができてる組織だから、俺はそこの情報を頼りにそいつら〆て回ってるんだ」
「ボクも瘴気の濃い地域で魔狼として暴れてたから、御主人にボコボコにされちゃったよ~。πパイは古いお城で実験を繰り返してた変態魔術師の研究室で仲間にしたんだったよね?」

 あっけらかんと武勇伝が語られているけど、ひょっとしてジャックさん、魔王より強いのでは? 何せ地下七十階まで到達しているんだし。旦那様が今どこにいるのか分からないけど、もし合流できたら自称魔王なんてあっという間に倒せるかもしれない。

(いや、剣士が魔術師より強いなんて事あるのかしら? いくら強くても魔法は反則的な力があるのに……でもこの亜空間の部屋みたいに魔道具込みなら何とかいけるかも)

 そうやって私は、旦那様とジャックさんのどちらが強いかなどと、失礼な事をつい考えてしまうのだった。

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