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初めてのクエスト①
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冒険者になって一日目の朝、ダイナが部屋に起こしに来てくれた。……その前に新婚初夜だった訳なんだけども、旦那様不在なものでこう言うしかない。ちなみに入浴から給仕まですべての世話をダイナに頼んでしまっている。
私の事を笑っていた侍女たちは伯爵令嬢のローズ、子爵令嬢のデイジー、男爵令嬢のアイリスというらしいが、
『初夜なのに旦那様に放っておかれてかわいそう。クスクス』
『笑っちゃ奥様に悪いわよ、クククッ』
『まあ仕方ないわよね。殿下のお気に入りを害した罪人なんだもの。ホホホッ』
などと案の定な態度だったので、私とは関わりのない仕事に就かせるようドジスンさんに頼んでおいたのだ。
そして私は、修道院から持参していた服に袖を通すと、ダイナを伴い冒険者ギルドへ向かった。
「あの、奥様……その御姿は」
「昨日の鑑定で『神官』って言われたじゃない? だから神職の衣装にしたのよ」
馬車の中で訊ねてくるダイナの声からは困惑している様子が窺えたけれど、私は気付かないふりをした。冒険者ギルドのボードには、様々なクエストが書かれた紙が貼られてあり、特に最近は魔の森関連の要望が多い。
(とは言え、神官レベル5の私に引き受けられるのなんて、たいした事はないんだけどね)
まずは薬草摘みからスタートね。クエストの紙をボードからはがすと受付に提出し、呼び出されるまでしばらく待つ。その間に情報収集する事にした。
「貴方、強そうね。レベルはどれくらい?」
「お、奥……っ」
屈強な戦士に声をかけた私を咎めようとするダイナだが、「奥様」と言いそうになるのを目で黙らせる。ここでは『アリス』だと馬車の中で何度も念を押しておいたのに。
戦士の男は私を見て一瞬きょとんとした後、失礼にもブッと噴き出した。
「何だ何だ、ここを教会と間違えてんじゃねえのか、花嫁さんよ」
そう、今の私の格好は昨日のウェディングドレスと大差なかった。
大体、この国の結婚は神前で行うので花嫁衣裳も神職の聖衣に貴金属や造花などのアクセサリーを加えたものになる。ドレスは現在洗濯中だけど、私は修道院で支給された式典用の聖衣に婚礼で使ったアクセサリーを身に着けていたのだ。
「いいえ、合っているわ。でも今、私の事はどうでもいいの。ダンジョンを攻略するには、どれくらいのレベルの人たちが何人いれば可能なのか知りたくてね」
「さあなぁ……俺も最近パーティーを組んだばかりだが、先に攻略を始めた連中の話じゃダンジョンの深さは地下五十階以上なんじゃないかって話だぜ」
なるほど……旦那様が一番乗りしているかは分からないけれど、三ヶ月も経っているのならそれぐらい深く潜っていてもおかしくないわね。これは、当分会えないと考えてもいいかしら。
「そんな事より、花嫁じゃねぇんだったら俺の女にしてやってもいいんだぜ姉ちゃん」
「あ、花嫁なのは本当です。受付嬢が呼んでますので、これで」
「はあっ!?」
汚い手を肩に回そうとしてくるのを払い除けると、私は受付のカウンターにそそくさと戻っていった。そこでは集めてくる薬草の種類や群生地についての説明を受け、地図と籠を受け取る。
「さあ、初クエストのクリアを目指すわよ!」
私の事を笑っていた侍女たちは伯爵令嬢のローズ、子爵令嬢のデイジー、男爵令嬢のアイリスというらしいが、
『初夜なのに旦那様に放っておかれてかわいそう。クスクス』
『笑っちゃ奥様に悪いわよ、クククッ』
『まあ仕方ないわよね。殿下のお気に入りを害した罪人なんだもの。ホホホッ』
などと案の定な態度だったので、私とは関わりのない仕事に就かせるようドジスンさんに頼んでおいたのだ。
そして私は、修道院から持参していた服に袖を通すと、ダイナを伴い冒険者ギルドへ向かった。
「あの、奥様……その御姿は」
「昨日の鑑定で『神官』って言われたじゃない? だから神職の衣装にしたのよ」
馬車の中で訊ねてくるダイナの声からは困惑している様子が窺えたけれど、私は気付かないふりをした。冒険者ギルドのボードには、様々なクエストが書かれた紙が貼られてあり、特に最近は魔の森関連の要望が多い。
(とは言え、神官レベル5の私に引き受けられるのなんて、たいした事はないんだけどね)
まずは薬草摘みからスタートね。クエストの紙をボードからはがすと受付に提出し、呼び出されるまでしばらく待つ。その間に情報収集する事にした。
「貴方、強そうね。レベルはどれくらい?」
「お、奥……っ」
屈強な戦士に声をかけた私を咎めようとするダイナだが、「奥様」と言いそうになるのを目で黙らせる。ここでは『アリス』だと馬車の中で何度も念を押しておいたのに。
戦士の男は私を見て一瞬きょとんとした後、失礼にもブッと噴き出した。
「何だ何だ、ここを教会と間違えてんじゃねえのか、花嫁さんよ」
そう、今の私の格好は昨日のウェディングドレスと大差なかった。
大体、この国の結婚は神前で行うので花嫁衣裳も神職の聖衣に貴金属や造花などのアクセサリーを加えたものになる。ドレスは現在洗濯中だけど、私は修道院で支給された式典用の聖衣に婚礼で使ったアクセサリーを身に着けていたのだ。
「いいえ、合っているわ。でも今、私の事はどうでもいいの。ダンジョンを攻略するには、どれくらいのレベルの人たちが何人いれば可能なのか知りたくてね」
「さあなぁ……俺も最近パーティーを組んだばかりだが、先に攻略を始めた連中の話じゃダンジョンの深さは地下五十階以上なんじゃないかって話だぜ」
なるほど……旦那様が一番乗りしているかは分からないけれど、三ヶ月も経っているのならそれぐらい深く潜っていてもおかしくないわね。これは、当分会えないと考えてもいいかしら。
「そんな事より、花嫁じゃねぇんだったら俺の女にしてやってもいいんだぜ姉ちゃん」
「あ、花嫁なのは本当です。受付嬢が呼んでますので、これで」
「はあっ!?」
汚い手を肩に回そうとしてくるのを払い除けると、私は受付のカウンターにそそくさと戻っていった。そこでは集めてくる薬草の種類や群生地についての説明を受け、地図と籠を受け取る。
「さあ、初クエストのクリアを目指すわよ!」
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