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学園祭準備編
アステルの秘密
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「どうして……」
「えっ? どうしたのリジー?」
思わず口から零れ落ちた問いに、まだ覚醒し切っていないアステル様が反応する。自分に何が起こったのか、あたしに何を見られたのかを、まだ把握できていないようだ。
「どうしてアステル様が、テセウス殿下そっくりの姿に……? そりゃあ同じ王族だから似てても不思議ではないですが、似てるというレベルじゃありませんでした! あれではまるで……まるで」
爆発する感情が、震える声を通して溢れ出してくる。違う、責めたい訳じゃない。でもこんな詰るような口調のせいで、アステル様が申し訳なさそうに眉を下げている。
「まるで兄弟のよう、だった?」
「い、いえ……そのような事」
荒い息を吐きながら、気分を落ち着ける。あたしの後を引き継いだアステル様の言葉は、恐らく正解なんだろう。だけどまだ、足りない。
アステル様はそんなあたしに、いつものように優しい声で語りかけた。
「ごめんね、リジー。いくら婚約者とはいえ、ディアンジュール伯爵家の機密はおいそれとは明かせないんだよ。
そう、君の思った通り僕とテセウスは兄弟なんだ……双子のね」
(双子……アステル様もテセウス殿下と同じ、王子様だった?)
言われてみれば思い当たる事がいくつもあった。あたしの中で、パズルのピースがカチリと嵌まる。
妙に親しげだった王妃様との関係。伯爵家に飾られていた、赤ん坊を抱いた王妃様の肖像画……あの赤ん坊はテセウス殿下ではなく、アステル様だったんだ。
ディアンジュール伯爵家に代々王族の者が養子に行く理由は、もう聞いてはいるけれど……あたしは納得できなかった。王子が二人いて、どうして片方だけが。それが、アステル様じゃないといけない理由は何?
「どちらでもよかったんだよ……父上にとって、生贄は僕とテセウスのどちらでも。時々、どうしようもない事を考えてしまうんだ。もしも彼と僕の立場が逆だったらって。
テセウスが僕を嫌うのも分かるよ……僕は、もう一人のあいつだから」
アステル様の声はどこまでも優しくて、それだけに悲しくて……あたしは彼に縋り付いて涙を流した。
「泣かないで、リジー。こんな僕だけど、いい事だってあったんだ。君と出会えて、婚約できた事……いや、それもどうなんだろうな? 最初から王子だったら、何の問題もなく君を婚約者にできていたんだから」
「そんなの、分かりません!」
ボロボロに泣きながらも、キッと睨み付けるように顔を上げる。
「あたしが好きになったのは、今のアステル様ですから。キスしたいと思うのも抱きしめたいのも、今までの積み重ねがあってこそです。だから、もしもなんて言って今を否定しないで……元の姿になんて戻らなくても、あたしはアステル様のお嫁さんになりたいんです」
興奮しているとは言え、我ながらすごい事を言っている自覚はあった。アステル様も真っ赤になってしまっているし。だけど泣いたのは、アステル様がバカな事を言ったせいだ。
「リジー、ごめん。君を好きになってから、ずっとテセウスが羨ましくて妬ましかったんだ。もうくだらない事言わないから」
「本当に悪いと思っているなら、お詫びにキスしてください!」
「え、僕から……? 齧ってしまうけど、いいの?」
ぶつぶつ言いながら躊躇していたけど、するまではずっと拗ねてやるとばかりに瞳を閉じた。たっぷり五分ほど経ってから、額にゴツンと衝撃が来る。後で鏡を見たところ、歯型がついていてアステル様はずっと「ごめん、痛かったよね!」と平謝りだった。
「えっ? どうしたのリジー?」
思わず口から零れ落ちた問いに、まだ覚醒し切っていないアステル様が反応する。自分に何が起こったのか、あたしに何を見られたのかを、まだ把握できていないようだ。
「どうしてアステル様が、テセウス殿下そっくりの姿に……? そりゃあ同じ王族だから似てても不思議ではないですが、似てるというレベルじゃありませんでした! あれではまるで……まるで」
爆発する感情が、震える声を通して溢れ出してくる。違う、責めたい訳じゃない。でもこんな詰るような口調のせいで、アステル様が申し訳なさそうに眉を下げている。
「まるで兄弟のよう、だった?」
「い、いえ……そのような事」
荒い息を吐きながら、気分を落ち着ける。あたしの後を引き継いだアステル様の言葉は、恐らく正解なんだろう。だけどまだ、足りない。
アステル様はそんなあたしに、いつものように優しい声で語りかけた。
「ごめんね、リジー。いくら婚約者とはいえ、ディアンジュール伯爵家の機密はおいそれとは明かせないんだよ。
そう、君の思った通り僕とテセウスは兄弟なんだ……双子のね」
(双子……アステル様もテセウス殿下と同じ、王子様だった?)
言われてみれば思い当たる事がいくつもあった。あたしの中で、パズルのピースがカチリと嵌まる。
妙に親しげだった王妃様との関係。伯爵家に飾られていた、赤ん坊を抱いた王妃様の肖像画……あの赤ん坊はテセウス殿下ではなく、アステル様だったんだ。
ディアンジュール伯爵家に代々王族の者が養子に行く理由は、もう聞いてはいるけれど……あたしは納得できなかった。王子が二人いて、どうして片方だけが。それが、アステル様じゃないといけない理由は何?
「どちらでもよかったんだよ……父上にとって、生贄は僕とテセウスのどちらでも。時々、どうしようもない事を考えてしまうんだ。もしも彼と僕の立場が逆だったらって。
テセウスが僕を嫌うのも分かるよ……僕は、もう一人のあいつだから」
アステル様の声はどこまでも優しくて、それだけに悲しくて……あたしは彼に縋り付いて涙を流した。
「泣かないで、リジー。こんな僕だけど、いい事だってあったんだ。君と出会えて、婚約できた事……いや、それもどうなんだろうな? 最初から王子だったら、何の問題もなく君を婚約者にできていたんだから」
「そんなの、分かりません!」
ボロボロに泣きながらも、キッと睨み付けるように顔を上げる。
「あたしが好きになったのは、今のアステル様ですから。キスしたいと思うのも抱きしめたいのも、今までの積み重ねがあってこそです。だから、もしもなんて言って今を否定しないで……元の姿になんて戻らなくても、あたしはアステル様のお嫁さんになりたいんです」
興奮しているとは言え、我ながらすごい事を言っている自覚はあった。アステル様も真っ赤になってしまっているし。だけど泣いたのは、アステル様がバカな事を言ったせいだ。
「リジー、ごめん。君を好きになってから、ずっとテセウスが羨ましくて妬ましかったんだ。もうくだらない事言わないから」
「本当に悪いと思っているなら、お詫びにキスしてください!」
「え、僕から……? 齧ってしまうけど、いいの?」
ぶつぶつ言いながら躊躇していたけど、するまではずっと拗ねてやるとばかりに瞳を閉じた。たっぷり五分ほど経ってから、額にゴツンと衝撃が来る。後で鏡を見たところ、歯型がついていてアステル様はずっと「ごめん、痛かったよね!」と平謝りだった。
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