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学園祭準備編

変貌

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 休日明け、あたしは部室に向かっていた。相変わらずアステル様とは顔を合わせづらかったのだが、リューネからこっそり託されたものを渡さなければならない。躊躇していると、自分が渡そうかとラク様に言われたので、それを断ってこうして来ているのだけれど。

 結論から言えば、アステル様は来ていなかった。ラク様が、この世界に来たばかりの状況について詳しく話したところ、それについて調べ物をしたいと言っていたらしい。

(となると、行き先は図書館の……秘密のスペースね)

 神殿で得られた情報を一刻も早く報告したい事もある。だけど、こちらから聞きたい事も山ほどあった。アステル様は何を考えているのか……もし計画があるのなら、あたしを仲間外れにしないで。違う、そんな可愛らしい不満なんかじゃない。
 あたしは、アステル様とラク様が深く関わる事にやきもちを焼いている。ラク様が他の生徒たちと同様、怖がったままでいてくれればよかった。必要以上に近付く事もなければ、あたしだけのアステル様でいてくれたのに。

(アステル様が孤独のままでいて欲しいなんて……それでも婚約者なの?)

 子供のような独占欲に恥じ入りつつ、あたしは図書館の本棚の仕掛けを動かして生まれた隙間に体を滑り込ませた。


 途端、心臓が止まりそうになる。

 スペースの中央には本が何冊も積み上げられた机と椅子。そこに腰かけ、顔を突っ伏して眠っているのは、あたしがよく知る人物だったのだ。

(なんで?? どうしてテセウス殿下がこんなところで眠っているの!?)

 危うく叫び声を上げそうだった口を手で押さえつつ、あたしはそろっと殿下の様子を窺う。広げられた本を枕にし、呼吸に合わせて肩をゆっくり上下させる殿下。こうして見ると普段の威圧感はまるでなく、まるで別人のように思えるのが不思議だ。
 だけど眉間に皺は寄っているし、あまりいい眠りではなさそうだった。かと言って起こしてしまえば、あたしがここにいる理由を追求されそうで厄介だ。アステル様も来ていないし、ここは出直そう……

 そろりそろりと後退りし、踵を返したあたしは、うっかり肩が本棚に当たり、その弾みで本が何冊かバサバサと落ちた。

「ん……」

 殿下の金色の睫毛がピクリと動き、サファイアのような瞳が覗く。しまった! と硬直するあたしだったが、次の瞬間……それ以上の衝撃で息すらも忘れた。

 黄金の髪はみるみる色を失くし、サファイアは血のように赤くなり、肌はより白く、耳や鼻など顔のパーツの位置がだんだんずれて――

(え……えっ!? 嘘……)

 テセウス殿下のお顔は、今やアステル様そっくりに変貌してしまった……違う、あたしはずっと勘違いしていた。伯爵家でテセウス殿下だと思い込んできた御方こそ、アステル様だったのだ。

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