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異世界人編
新しい友人
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「信じられない話だが、ラクは君にまた話を聞いてもらいたいんだそうだ」
あたしを呼び出した殿下は、不機嫌を拭い去れない表情でそう言い放つ。
「そうですか。昨日、泣かれてしまったので、てっきり何かご無礼をと……ラク様さえよろしければ、ぜひまたご一緒したいですわ」
ラク様が泣いたのも、再び会いたがっているのも、どちらも理由は察しているが、あたしは知らないふりをした。殿下はそんなあたしの社交辞令にまだ不審な目を向けていたけれど、次に驚くべき命令を下してきた。
「それで、女同士で腹を割って話したいそうなので、俺は席を外さなくてはいけない。だからせめてもう一人、信頼のおける令嬢を同席させたいのだが……友人に立候補してくる奴らは、陰でラクに敵意を持つ連中ばかりでな」
殿下がラク様のご友人を自ら選別していたのは、殿下目当てで擦り寄ってくるからだったのか。だとしたらその筆頭は、オペラ様あたりかしらね。彼女はジュリアンの婚約者でもあるし、『エリザベス』の事も終始ライバル視していたから、ラク様に近付けるのは危険だというのは分かる。
「でしたら、ライラプス伯爵子息の婚約者は如何でしょうっ?」
ドロン様は殿下の取り巻きで信頼も厚い。その婚約者なら……と殿下の許可が下りた。一方、提案したあたしは内心で婚約者殿に巻き込んだ事を詫びていたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
後日。
用意されたお茶の席で、ドロン様の婚約者――つまりリューネは不貞腐れた顔でカップを傾けていた。
(恨むわよ、リジー)
(ごめん、事情を知ってて協力してくれる令嬢はリューネしかいなくて)
扇子で向かい側のラク様から顔を隠すようにして謝ると、リューネはフフッと笑顔を見せた。
「ま、いいわ。頼ってくれたのは嬉しいもの」
「ありがとう、リューネ。ラク様、彼女はリューネ=リンクス侯爵令嬢。わたくしのクラスメートで親友です」
ラク様はあたしたちを交互に見ながら戸惑っていたが、リューネにぺこりと頭を下げる。
「は、はじめまして、リューネさ……あ」
言いかけて、貴族のマナーがあったのを思い出したらしく、口を噤む。が、リューネの眉間に皺が寄ったのは一瞬で、扇子を膝に下ろしてにっこり笑う。
「気にしないで、この場は殿下がラク様と友人のために用意したのだもの。せっかくだからプライベートの時は名前で呼び合いましょう。
改めて、リューネ=リンクスよ。どうぞリューネと呼んでちょうだい」
異世界からの客人であるラク様の立ち位置は微妙だけど、最初に落としどころを決めてしまえば軋轢も少ない。ラク様もホッと肩の力を抜いて自己紹介を済ませ、あたしに昨日の事で非を詫びてきた。
「いきなり、泣いて、ごめんなさい。リジーさまは、なにもわるくない」
「いいの、分かっているわ。異世界の食べ物を思い出して、懐かしくなってしまったのよね」
あたしが理解を示すと、頬を紅潮させてコクコク頷かれる。やはりラク様はホームシックになっていたようだ。テセウス殿下とは、そういう話をした事がなかったのかしら? 手厚い待遇を受けておいて、異世界の料理が食べたいなんて言い出しづらいのは分かるけど。
(それとも……殿下から異世界の話を振られた事がないとか)
あの興奮具合からすると、今まで言いたくとも言えなかったのだろう。そこで初めて、あたしは気付いてしまった。殿下にとってラク様は運命の相手なのかもしれないけれど、彼女がどんな世界から来たのかには興味がなく、どうでもいいのかもしれないと。
あたしを呼び出した殿下は、不機嫌を拭い去れない表情でそう言い放つ。
「そうですか。昨日、泣かれてしまったので、てっきり何かご無礼をと……ラク様さえよろしければ、ぜひまたご一緒したいですわ」
ラク様が泣いたのも、再び会いたがっているのも、どちらも理由は察しているが、あたしは知らないふりをした。殿下はそんなあたしの社交辞令にまだ不審な目を向けていたけれど、次に驚くべき命令を下してきた。
「それで、女同士で腹を割って話したいそうなので、俺は席を外さなくてはいけない。だからせめてもう一人、信頼のおける令嬢を同席させたいのだが……友人に立候補してくる奴らは、陰でラクに敵意を持つ連中ばかりでな」
殿下がラク様のご友人を自ら選別していたのは、殿下目当てで擦り寄ってくるからだったのか。だとしたらその筆頭は、オペラ様あたりかしらね。彼女はジュリアンの婚約者でもあるし、『エリザベス』の事も終始ライバル視していたから、ラク様に近付けるのは危険だというのは分かる。
「でしたら、ライラプス伯爵子息の婚約者は如何でしょうっ?」
ドロン様は殿下の取り巻きで信頼も厚い。その婚約者なら……と殿下の許可が下りた。一方、提案したあたしは内心で婚約者殿に巻き込んだ事を詫びていたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
後日。
用意されたお茶の席で、ドロン様の婚約者――つまりリューネは不貞腐れた顔でカップを傾けていた。
(恨むわよ、リジー)
(ごめん、事情を知ってて協力してくれる令嬢はリューネしかいなくて)
扇子で向かい側のラク様から顔を隠すようにして謝ると、リューネはフフッと笑顔を見せた。
「ま、いいわ。頼ってくれたのは嬉しいもの」
「ありがとう、リューネ。ラク様、彼女はリューネ=リンクス侯爵令嬢。わたくしのクラスメートで親友です」
ラク様はあたしたちを交互に見ながら戸惑っていたが、リューネにぺこりと頭を下げる。
「は、はじめまして、リューネさ……あ」
言いかけて、貴族のマナーがあったのを思い出したらしく、口を噤む。が、リューネの眉間に皺が寄ったのは一瞬で、扇子を膝に下ろしてにっこり笑う。
「気にしないで、この場は殿下がラク様と友人のために用意したのだもの。せっかくだからプライベートの時は名前で呼び合いましょう。
改めて、リューネ=リンクスよ。どうぞリューネと呼んでちょうだい」
異世界からの客人であるラク様の立ち位置は微妙だけど、最初に落としどころを決めてしまえば軋轢も少ない。ラク様もホッと肩の力を抜いて自己紹介を済ませ、あたしに昨日の事で非を詫びてきた。
「いきなり、泣いて、ごめんなさい。リジーさまは、なにもわるくない」
「いいの、分かっているわ。異世界の食べ物を思い出して、懐かしくなってしまったのよね」
あたしが理解を示すと、頬を紅潮させてコクコク頷かれる。やはりラク様はホームシックになっていたようだ。テセウス殿下とは、そういう話をした事がなかったのかしら? 手厚い待遇を受けておいて、異世界の料理が食べたいなんて言い出しづらいのは分かるけど。
(それとも……殿下から異世界の話を振られた事がないとか)
あの興奮具合からすると、今まで言いたくとも言えなかったのだろう。そこで初めて、あたしは気付いてしまった。殿下にとってラク様は運命の相手なのかもしれないけれど、彼女がどんな世界から来たのかには興味がなく、どうでもいいのかもしれないと。
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