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異世界人編

推薦理由

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「実はラクが入学してからもうすぐ一年になるのだが……彼女には未だ、友人と呼べる者がいない。これだけエリザベスとの接触を遮断しているのにも関わらず、だ」

 殿下はそうおっしゃるけど、どう考えてもそれは『エリザベス』は関係ないわよね。テセウス殿下がべったり寄り添っているところを押し退けてまでなろうとする令嬢がいないからでは……
 そんな事を考えながら聞いていたのを見咎めたように睨み付けられ、萎縮しながらも先を促す。

「それで、何故君を推薦するのかだが……まず今まで一度も彼女とかち合わなかったのが君だったというのもある」

 理由を聞いて思わず表情に出さなかった自分を褒めたい。

(えー……『エリザベス』はあたしなんだから、かち合わないに決まってるでしょ。しまったな、適当に遠目からでも見たとか言っておけばよかったのかしら。でも、他の委員との証言に矛盾があっても困るし)

「私もいつもラクに付きっきりというわけにはいかないからな。そばを離れている間に信頼できる者に守らせておかなければならない……が、あまり物々しい警護になってしまっても、ラクの負担になるだろう」
「はあ……あの、先ほども言いましたが、後輩のあたしにそれが務まるのでしょうか?」

 同じ殿下の命令でつけられる者であれば、しっかり教育された部下の方が安心できる気がする。近寄りがたい雰囲気を避けるのであれば、あたしのようにメイドを生徒として潜り込ませるのも手だろう。……もっとも、殿下から見てメイドがラク様のご友人に相応しいと認められるのかは分からない。

「危機が迫った時に護衛できる能力を求めているのではない。ラクに必要なのは、この国において心を許せる友なのだ。あのジュリアン――デミコ ロナル公爵家はエリザベスを勘当した後、ラクを養子入りさせる計画を立てているようだが、エリザベスの血縁者なのだ。信用はできんな。
そういう意味でも君は、こちらに引き込んでおくべきだと判断した。今朝、学期末試験の結果を見たが、見事ジュリアンの鼻を明かしていただろう? 能力も立ち位置も、ラクの友人として実に理想的だ」

 一学年の総合一位も藪蛇だったかー……殿下の中であたしたちの関係ってカオスと言うか、随分現実と乖離している気がするわ。血縁どころか本人だもの。
 それはさておき、何だか引っかかる物言いがあったわね。ラク様には今も殿下以外に心を許せる友人はいない事、殿下はそれを由々しき事態だと捉えている事――単に婚約者候補にするのであれば、友人の有無など重要ではないだろう。殿下の命令でやらせたところで、本当に友人と呼べるのか、というのは置いといて、敢えてラク様の孤独を慮っている理由は何なのかしら……?

(少なくとも、愛情からではなさそうだけど……どうしたものかしら)

 殿下に関わって正体がバレてしまうのは絶対避けておきたいが、殺人未遂の冤罪を被るきっかけにもなっているだけあって、少し興味が出てきた。ラク様本人と言うよりは、冤罪の真実にだ。

「……急なお話で戸惑っております。少し時間をいただけますでしょうか」

 ここで断ったら「ラクの何が不満だ?」と絡まれそうではあるけど、アステル様に今の心情を交えて相談しておきたいため、あたしは時間稼ぎをする事にした。

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