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異世界人編

休暇明け

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 休暇が明けると、寮生たちが続々と寮に戻ってくる。『リジー』の前にこっそり『エリザベス』の部屋を覗き込んでみると、恐ろしい事に鍵は斧か鉈らしき刃物で壊されていた上に、部屋の中がぐちゃぐちゃにされていて震え上がった。寮の部屋のものを壊せば賠償も連帯責任になると分かっていて、それでも休暇中なら犯人を特定できないだろうという魂胆なのだろうか。

(本当に『エリザベス』がここに居続けていたら、いつか殺されるわね)

 恐々と頭を引っ込め、一年生のスペースに戻ると、そこでリューネに再会した。

「久しぶり、リジー! 休暇は楽しかった?」
「ええ、とても。リューネは?」
「演劇部のみんなで劇場へ行ったのよ」

 そんな事を話しながら教室へ向かおうとすると、廊下に人だかりができている。この時期と言えば、休暇前に行われた試験結果が貼り出されているはずだ。すぐに外されるわけでもないので、まずは荷物を置いてこようと人波をかき分けようとした時、周囲から妙な視線を感じた。

「ね、ねえ……さっきからみんなに見られてない?」
「たぶん、あれよあれ」

 そう言われてリューネが指し示す方向を見れば、試験の総合点順に一学年の生徒名が書かれていて、一番上にあったのは――

【一位 リジー=ボーデン】

「え……あたし?」
「すごいじゃない、リジー! おめでとう!」
「いや、まあ……ねぇ?」

 リューネに飛び付かれて祝福されたけど、一度受けてるんだし、驚くような事でもない。そんな気持ちが顔に出ていたんだろうか。

「この私を差し置いて、一位を取れる事などさも当然とでも言いたげだな?」
「……っデミコ ロナル公爵子息」

 あたしたちを取り囲んでいた人混みがサッと割れたかと思うと、その向こうから悠々とこちらに歩いてくるのは、義弟ジュリアンだった。あたしを睨み付けるその表情からは、『エリザベス』に向けてのものとはまた違った感情が窺い知れる。

「リジー=ボーデン男爵令嬢。君はそれほど優秀な成績ではなかったと聞いているのだが、私の記憶違いか?」
「いえ、そんな……今回はたまたま運が良かっただけで」

 チラッと成績表を見れば、二位のところにはジュリアンの名前があった。入学式では代表に選ばれていたし、やはり彼は相当優秀なのだろう。でもあたしだってクラス委員に選ばれる程度の結果は出してるんですけどね? あまり目立ちたくないから授業ではそこそこの位置に収まってるけど。
 リューネは庇うように抱きしめられるあたしを、ジュリアンの冷たい視線が刺してくる。

「運? 神聖なる試験を、君は運だけで乗り切っていると? 我々をバカにしているのか」

 ああもう、どう答えたらいいのよ……『エリザベス』の時みたいにだんまりでやり過ごそうとすれば『愚かな女は黙っていれば許されると勘違いする』とか何とか返されるのは目に見えている。至近距離まで近付かれれば、正体に気付かれるかもしれず、身を固くして俯いていたその時。

「これは何の騒ぎだ!」

 固唾を飲んで見守っていた周囲が、再び声の主のために道を開ける。あたしの顔を覗き込もうとしていたジュリアンも、さすがにパッと身を正し礼を取った。

「テ、テセウス殿下! いえ、これは……」

 あたふたするジュリアンを素通りし、殿下は成績表をチラリと見遣って状況を把握したようだ。

「今回は残念だったな、デミコ ロナル公爵子息。……だが己の手落ちを他者に擦り付けるために、不正を疑うのは感心しない」
「い、いえ決してそのような!」

 ジュリアンはあたしがカンニングしたと吹聴するつもりだったか。まあ実質二回目なので、ずるいと言えばずるいのかもしれない……それにしても殿下は、何故苦虫を噛み潰したような顔をしながら言っているんだろう?

「そなたは姉のような愚かな真似はしない……そう信じているのだが?」
「……っ!!」

 人前で『エリザベス』の名を出され、悔しげに歯噛みするジュリアン。本人としては悪の代名詞のように使われるのは納得いかないわ……義弟にあまり大きな顔をさせないという点で効果は抜群みたいだけど。
 殿下は項垂れたジュリアンを顧みる事なく、あたしの前に立った。一応助けられたので、地面しか見えないくらい頭を下げておく。

「あのっ、わざわざ殿下のお手を煩わせてしまい、申し訳……」
「ああ、良い。ここに来たのは、そなたに用があったのだ」

 用……? 目立たない地味眼鏡のあたしに? 一体……まさか正体に気付かれたとか!?
 戦慄するあたしの心中も知らず、殿下はこう告げていった。

「放課後、委員会の後で残って欲しい。そなたに頼みたい事があるんだ」

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