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裏世界編
妖精のドレス
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「ごきげんよう、エリザベス様」
リューネだった。傍らにはロラン様を伴っている。一曲目は婚約者のドロン様と踊ったはずなので、二曲目は彼を選んだのだろう。
取り繕う必要があるとは言え、初めましてというのも変なので、あたしも同じく「ごきげんよう」と返す。
「素敵なドレスですね。まるで妖精みたい」
リューネは目を細めてあたしのドレスを褒めた。
アステル様が仕立ててくれたドレスは、胸元の真っ赤な薔薇のコサージュを夕日に見立てた夕焼け空をイメージしたものだった。上半身は下に行くにつれ、オレンジから徐々に紫に変わっていき、下半身は漆黒の夜空にきらきらと星が瞬いているように見える。殿下の婚約者時代には明るい色を基調としていたので、それに比べたら悪役令嬢っぽいと言えなくもないのだが……
(獣人に寄り添う妖精の妻……アステル様とお似合いに見えるのなら、悪くないわ)
「リンクス侯爵令嬢のドレスも、愛らしくて素敵ですよ」
一方、彼女は大きめのアクセサリーと足首の見えるドレスで、やや活発な印象を受けた。彼女の血筋にある獣人国家は礼服でも露出度が高い。敢えてそちらのイメージに沿った装いに、ドロン様を始めとする殿下の取り巻きたちはいい顔をしていなかったけれど。
「よく似合っていると思います。ねぇ、オンブル伯爵子息?」
「はっ!? うぇ、はい……とても」
いきなりこちらに振られるとは思っていなかったロラン様は、飛び上がって頷き、頬を赤らめながらチラチラとリューネの方を窺う。どうやらついさっきまで気の利いた一言が言えなかったようで、リューネはむくれていた。
「ごきげんよう、お義姉様……いえ、もう違いましたわね。エリザベス嬢」
そこへ、真っ赤なワインの入ったグラスを手にしたオペラ様がバカにしたような声で登場する。ジュリアンの婚約者となってからも、彼女は殿下に近付く女は婚約者のあたしであれ異世界人のラク様であれ、関係なしに突っかかってきていた。
「ごきげんよう。ジュリアンとはもう踊らなくてよろしいのですか?」
「口を慎みなさい。罪を犯し平民へと堕ちたあなたには、義弟と言えどジュリアン様を気安く呼ぶ事も許されないのだから」
「左様ですか」
実は罪人でも平民でもないのだが。それはともかく、婚約が破棄された以上、彼女に妬まれる要素など何もない。何をそんなに不機嫌にしているのだろうか?
「王太子殿下は今や、異世界人の娘に夢中。それもこれも、あなたが不甲斐ないからよ。神託にまで選ばれておきながら、殿下の御心一つ繋ぎ留められないなんて……」
「失礼、初めましてグラス侯爵令嬢。エリザベスの婚約者、アステル=ディアンジュールです」
ネチネチと嫌味を言うオペラ様とあたしの間に、アステル様がぬっと横入りする。途端、
「キャーッ!!」
オペラ様が悲鳴を上げてワイングラスを振り上げた。その拍子に、バシャッと中身の赤ワインを頭から被った……ような気がしたのだが。
「あ、あらっ??」
「お気を付けを、レディ」
「ふ……ふんっ!!」
飛沫一つかかっていない。気付けばワイングラスはアステル様の手の中にあり、それを差し出そうとしていたが、一瞬ポカンとしたオペラ様は悔しそうに顔を歪めると、はしたなく足を踏み鳴らして行ってしまった。
「アステル様……今のって」
「やれやれ、絶対誰かやらかすと思ったから、対処しておいて正解だった。せっかくの『妖精のドレス』を台無しにされちゃたまらないからね」
リューネも言っていた『妖精のような』という表現……正式名称だったの? それは妖精のように見えるからなのか、妖精が作ったからなのか。まさか、妖精は存在するの?
リューネだった。傍らにはロラン様を伴っている。一曲目は婚約者のドロン様と踊ったはずなので、二曲目は彼を選んだのだろう。
取り繕う必要があるとは言え、初めましてというのも変なので、あたしも同じく「ごきげんよう」と返す。
「素敵なドレスですね。まるで妖精みたい」
リューネは目を細めてあたしのドレスを褒めた。
アステル様が仕立ててくれたドレスは、胸元の真っ赤な薔薇のコサージュを夕日に見立てた夕焼け空をイメージしたものだった。上半身は下に行くにつれ、オレンジから徐々に紫に変わっていき、下半身は漆黒の夜空にきらきらと星が瞬いているように見える。殿下の婚約者時代には明るい色を基調としていたので、それに比べたら悪役令嬢っぽいと言えなくもないのだが……
(獣人に寄り添う妖精の妻……アステル様とお似合いに見えるのなら、悪くないわ)
「リンクス侯爵令嬢のドレスも、愛らしくて素敵ですよ」
一方、彼女は大きめのアクセサリーと足首の見えるドレスで、やや活発な印象を受けた。彼女の血筋にある獣人国家は礼服でも露出度が高い。敢えてそちらのイメージに沿った装いに、ドロン様を始めとする殿下の取り巻きたちはいい顔をしていなかったけれど。
「よく似合っていると思います。ねぇ、オンブル伯爵子息?」
「はっ!? うぇ、はい……とても」
いきなりこちらに振られるとは思っていなかったロラン様は、飛び上がって頷き、頬を赤らめながらチラチラとリューネの方を窺う。どうやらついさっきまで気の利いた一言が言えなかったようで、リューネはむくれていた。
「ごきげんよう、お義姉様……いえ、もう違いましたわね。エリザベス嬢」
そこへ、真っ赤なワインの入ったグラスを手にしたオペラ様がバカにしたような声で登場する。ジュリアンの婚約者となってからも、彼女は殿下に近付く女は婚約者のあたしであれ異世界人のラク様であれ、関係なしに突っかかってきていた。
「ごきげんよう。ジュリアンとはもう踊らなくてよろしいのですか?」
「口を慎みなさい。罪を犯し平民へと堕ちたあなたには、義弟と言えどジュリアン様を気安く呼ぶ事も許されないのだから」
「左様ですか」
実は罪人でも平民でもないのだが。それはともかく、婚約が破棄された以上、彼女に妬まれる要素など何もない。何をそんなに不機嫌にしているのだろうか?
「王太子殿下は今や、異世界人の娘に夢中。それもこれも、あなたが不甲斐ないからよ。神託にまで選ばれておきながら、殿下の御心一つ繋ぎ留められないなんて……」
「失礼、初めましてグラス侯爵令嬢。エリザベスの婚約者、アステル=ディアンジュールです」
ネチネチと嫌味を言うオペラ様とあたしの間に、アステル様がぬっと横入りする。途端、
「キャーッ!!」
オペラ様が悲鳴を上げてワイングラスを振り上げた。その拍子に、バシャッと中身の赤ワインを頭から被った……ような気がしたのだが。
「あ、あらっ??」
「お気を付けを、レディ」
「ふ……ふんっ!!」
飛沫一つかかっていない。気付けばワイングラスはアステル様の手の中にあり、それを差し出そうとしていたが、一瞬ポカンとしたオペラ様は悔しそうに顔を歪めると、はしたなく足を踏み鳴らして行ってしまった。
「アステル様……今のって」
「やれやれ、絶対誰かやらかすと思ったから、対処しておいて正解だった。せっかくの『妖精のドレス』を台無しにされちゃたまらないからね」
リューネも言っていた『妖精のような』という表現……正式名称だったの? それは妖精のように見えるからなのか、妖精が作ったからなのか。まさか、妖精は存在するの?
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