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呪われた伯爵編

幕間⑧友達と(リューネside)

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 私、リューネ=リンクス。クラウン王国外相リンクス侯爵家の娘。亜人ではないけど、獣人国家の王家の血が混じっているため、耳が猫のように高い位置にあり、ふさふさになってるのがコンプレックス。人には言えないんだけど、実はヒゲも濃いんだよね。とほほ……

 そんな私には二人の幼馴染みがいる。一人は婚約者のドロン=ライラプス。もう一人はロラン=オンブルだ。どちらも伯爵家なんだけど、騎士団長の息子という事で婚約はドロンと結ばれた。
 その時の出来事は本当最悪で、出会って一番、ドロンはスカートを捲ってきたのだ。反射的に顔を引っ掻いてしまう。

「いてぇっ! 何すんだこの野郎!!」
「それはこっちの台詞よ! いきなりレディーになんて事すんの!!」
「尻尾がないか確かめてただけだろ! 婚約者なんだから言う事聞けよ!」

 なんて失礼なの! それに、バカだ。ドロンは婚約者なら何してもいいと勘違いしている。私はこの婚約を泣いて嫌がったが、後日ドロンは花束を持って侯爵家に謝罪に来た事で、両親は懐柔されてしまった。二人きりになった途端に偉そうに踏ん反り返るんだけどな!


 ロランとは、ドロンに連れて行かれた騎士団の訓練所で知り合った。二人ともまだ子供なのに、もう大人に交ざって剣術の訓練を受けているのか。力は圧倒的にドロンの方が上だったけど、打ち合いで何度やられても諦めまいと食い付いていくロランの根性は見上げたものだった。

 それからちょくちょく見学に行っては交流を深めていったが、ドロンは私を見下しているくせに、ロランと仲良くするのが気に入らないようだった。

「お前は俺の婚約者だろう。気安く他の男に話しかけるな」
「あら、私だって男の子の友達が欲しかったもの。それに、ドロンは『亜人の婚約者』なんて恥ずかしくて嫌だったんでしょ?」
「あれは殿下が……あ、いや。とにかく、俺より弱い男に色目使うなんておかしいぞお前!」

 殿下……テセウス殿下ね。誰にでも優しくて婚約者とも仲睦まじいって聞いたけど、こいつと同じく上辺だけか。そう言えば騎士団長の息子だからと、何かと付き合いがあるのかもしれない。

「ロラン、頑張れー!!」
「おい、この猫女!!」

 私の声に、地面に引っ繰り返って荒い息を吐いていたロランは起き上がり、剣を構え直した。そのギラギラした眼差しに……私は泣き叫んで駄々を捏ねてでも婚約を断らなかった事を後悔した。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

 休日、私はリジーを誘って街へ下りた。ドレスを作るために採寸しなきゃいけないのもあったけど、普通の民の暮らしを体験してもらいたかったのもある。

 彼女の正体は、テセウス殿下の元婚約者、エリザベス=デミコ ロナル公爵令嬢。『血塗られたエリザベス』ことラク=ハイドの暗殺未遂事件の容疑者と言われているけれど、実際に付き合ってみて分かった。彼女は嫉妬するほど殿下を恋い慕っている訳でもないし、他人の痛みが分かる優しい娘なのだと。

(つくづく、評判なんてあてにならないわよね)

 立ち寄った喫茶店で目を輝かせながらスイーツを味わう彼女を見遣りながら、私はそう考える。視線に気付いたリジーは、不思議そうに首を傾げた。

「どうかしたの? リューネ」
「あ、うん……リジーと一緒に食べるのって久々だなって」

 私は婚約者以外の異性と二人っきりで食事をするのは許されていない。だからお昼はドロンのグループか、リジーに変装したエミィ(男爵家のメイドらしい)とロランが一緒になるのだけれど。ドロンがいるのって、あの王子の取り巻きなのよね……

「ごめんね、あたしばかりがアステル様と一緒にいるから」
「ううん、伯爵は婚約者なんだから、むしろもっと仲良くしとかなきゃ! こっちこそエミィが来てくれてるおかげで、ドロンと食べなくて済んでるんだから」
「うふふ、そうよね。リューネはロラン様と一緒がいいものね」

 う……私のロランへの気持ち、バレてるのかしら。化け物と評されるディアンジュール伯爵だけど、意外にもリジーは好意的だった。聞けば最初こそ驚いたものの、私のような亜人に近い姿に慣れていたおかげで、すぐに馴染んだのだとか。この見た目も、たまには役に立つのね……
 リジーは家族や婚約者から虐げられていたせいで、整った容姿の異性は苦手だった。伯爵と婚約できて、殿下にはむしろ感謝しているとまで言われた時は、不憫さに抱きしめたくなった。ただ、その殿下に婚約者をバカにされた事で、見返す事を考えられるまでにはなっているけれど。

(それってもう、好きって事じゃないの?)

 これが恋なのかは、よく分からないというリジー。お人好し過ぎて心配になる彼女が、これだけ『怒り』にパワーを注げるのなら……新たな婚約は、きっと上手くいくのだろう。

「幸せにね、リジー」
「何言ってるの、リューネもでしょ?」
「フフ、どうだかねー」

 悪意渦巻く学園を離れ、私たちはしばしの休息を楽しんだのだった。

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