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呪われた伯爵編
初めての触れ合い
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しばらくアステル様にしがみ付いていたあたしは、徐々に冷静さを取り戻していた。
(お、男の人に抱き着いてしまった……)
今まで遠慮なくこうやって甘えられたのは、ボーデン男爵家にいる間だけだった。お父様と血が繋がっているとは言え、デミコ ロナル公爵家は『王太子の婚約者エリザベス』としてのわたくしでしかいられなかったのだから。
しかも婚約者のテセウス殿下は、あたしを嫌っていた。そんな中で、異性との触れ合いなど全く経験がなかったのだ。
アステル様の体は見た目よりもがっちりと固く、手も大きかった。鍛えてらっしゃるのだろうか……頭の大きさから言って、首が細ければ支えきれないのは当然なのだが。それに、体温も高い……こうして抱き着いている内に、どんどん上がってきているような?
そこまで考えてようやく、やらかした現状を自覚したのだった。
「わ、わわ……ごめんなさい! 出会って間もないのに、不躾な事を!」
「いや、びっくりしたけど……婚約者なんだから、エリザベス嬢が嫌じゃないなら」
飛び退って距離を取ると、アステル様が真っ赤な顔に手で扇いで風を送っているところだった。ああ、驚かせてしまった……あたしも恥ずかしさで胸がドキドキする。いきなり飛び付くつもりはなかった。ただ、申し訳なさでいっぱいになったのだ。自分ばかりが不幸であるような気持ちが、やっぱりどこかにあったから。
「嫌だなんて、とんでもない。あなたは命の恩人です」
「そこまで大袈裟に考えなくていいよ。僕らは王妃によって引き合わされた婚約者。それくらい気楽に構えていてもらえれば」
「それは……アステル様の方こそ、この婚約に迷惑しているという事ですか?」
彼からすれば、あたしはまさに自分を今の境遇に追いやった象徴ではないか。殿下の時のように恨まれていてもおかしくはない。
すると、がしっと両肩を掴まれ、少し怒ったような雰囲気でアステル様に覗き込まれた。
「違うよ、何故そうなるんだ!」
「だってあたし、王太子に捨てられた傷物ですよ? 国中に嫌われている、悪役令嬢エリザベスなんです。あたしと結婚なんてしたら、後ろ指を差される事に……」
「後ろ指なんて今更だ。それに、『悪』だなんてのが真実ではない事は知ってる。実際の君はとても心優しいし、すごくかわい……と、とにかく、君はもうそんな事気にしなくていいんだ。これからは、僕も力になるから」
ああ、つい自虐したせいで、気を遣わせてしまった。力になりたい、なんてあたしの方こそ言いたいのに。かわいそうだと思われていたら、いつまで経っても与えられるばかりだわ。
あたしは眼鏡を外し、アステル様と向き合う。
「それじゃ、改めて……あたし、リジー=ボーデンはアステル=ディアンジュール様と家族になりたいです。頼るだけじゃなくて、支えられるようになりたい。あたしをそばに、置いてくれますか?」
「それは……こちらこそ、こんな僕でいいのなら、全力で君を守るよ。
……な、何だかプロポーズし合ってるみたいだね」
真っ赤になって照れるアステル様に、つられてこっちまで赤くなる。プロポーズって、とっくに婚約してるから別におかしくは……ないわよね? アステル様が変な事言うから、だんだん恥ずかしくなってきた。
ええい、この際だ。
「でしたら折角ですから、あたしの事は『リジー』とお呼びください。『エリザベス=デミコ ロナル』は今や存在しないのですから」
「え……わ、分かった。リジー嬢」
「ただの『リジー』で!」
「リ、リジー……」
言う度に照れまくるものだから、つい何度も呼ばせてしまった。結局お昼休みが終わってしまい、魔法については少ししか聞けなかったけれど……婚約者との距離が縮められたので、よしとしよう。
(お、男の人に抱き着いてしまった……)
今まで遠慮なくこうやって甘えられたのは、ボーデン男爵家にいる間だけだった。お父様と血が繋がっているとは言え、デミコ ロナル公爵家は『王太子の婚約者エリザベス』としてのわたくしでしかいられなかったのだから。
しかも婚約者のテセウス殿下は、あたしを嫌っていた。そんな中で、異性との触れ合いなど全く経験がなかったのだ。
アステル様の体は見た目よりもがっちりと固く、手も大きかった。鍛えてらっしゃるのだろうか……頭の大きさから言って、首が細ければ支えきれないのは当然なのだが。それに、体温も高い……こうして抱き着いている内に、どんどん上がってきているような?
そこまで考えてようやく、やらかした現状を自覚したのだった。
「わ、わわ……ごめんなさい! 出会って間もないのに、不躾な事を!」
「いや、びっくりしたけど……婚約者なんだから、エリザベス嬢が嫌じゃないなら」
飛び退って距離を取ると、アステル様が真っ赤な顔に手で扇いで風を送っているところだった。ああ、驚かせてしまった……あたしも恥ずかしさで胸がドキドキする。いきなり飛び付くつもりはなかった。ただ、申し訳なさでいっぱいになったのだ。自分ばかりが不幸であるような気持ちが、やっぱりどこかにあったから。
「嫌だなんて、とんでもない。あなたは命の恩人です」
「そこまで大袈裟に考えなくていいよ。僕らは王妃によって引き合わされた婚約者。それくらい気楽に構えていてもらえれば」
「それは……アステル様の方こそ、この婚約に迷惑しているという事ですか?」
彼からすれば、あたしはまさに自分を今の境遇に追いやった象徴ではないか。殿下の時のように恨まれていてもおかしくはない。
すると、がしっと両肩を掴まれ、少し怒ったような雰囲気でアステル様に覗き込まれた。
「違うよ、何故そうなるんだ!」
「だってあたし、王太子に捨てられた傷物ですよ? 国中に嫌われている、悪役令嬢エリザベスなんです。あたしと結婚なんてしたら、後ろ指を差される事に……」
「後ろ指なんて今更だ。それに、『悪』だなんてのが真実ではない事は知ってる。実際の君はとても心優しいし、すごくかわい……と、とにかく、君はもうそんな事気にしなくていいんだ。これからは、僕も力になるから」
ああ、つい自虐したせいで、気を遣わせてしまった。力になりたい、なんてあたしの方こそ言いたいのに。かわいそうだと思われていたら、いつまで経っても与えられるばかりだわ。
あたしは眼鏡を外し、アステル様と向き合う。
「それじゃ、改めて……あたし、リジー=ボーデンはアステル=ディアンジュール様と家族になりたいです。頼るだけじゃなくて、支えられるようになりたい。あたしをそばに、置いてくれますか?」
「それは……こちらこそ、こんな僕でいいのなら、全力で君を守るよ。
……な、何だかプロポーズし合ってるみたいだね」
真っ赤になって照れるアステル様に、つられてこっちまで赤くなる。プロポーズって、とっくに婚約してるから別におかしくは……ないわよね? アステル様が変な事言うから、だんだん恥ずかしくなってきた。
ええい、この際だ。
「でしたら折角ですから、あたしの事は『リジー』とお呼びください。『エリザベス=デミコ ロナル』は今や存在しないのですから」
「え……わ、分かった。リジー嬢」
「ただの『リジー』で!」
「リ、リジー……」
言う度に照れまくるものだから、つい何度も呼ばせてしまった。結局お昼休みが終わってしまい、魔法については少ししか聞けなかったけれど……婚約者との距離が縮められたので、よしとしよう。
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