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呪われた伯爵編
信用できる相手
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「君が……」
アステル様はあたしを上から下まで眺めた後、目をぱちぱちさせた。不思議と、その視線は不快さを感じない。
「そうです、王妃様から聞いていませんか?」
「陛下から通達は来ている。だがボーデン男爵家の養女になった事は聞いていない」
実は公爵家に引き取られる際、それまでの経歴はお父様によって抹消されている。だから『エリザベス』はメアリーお義母様が産んだ、亡くなったはずの娘という事になっているし、その後は勘当されて平民になっているのだ。
ちなみに『リジー=ボーデン』の方は、男爵家の養女としてきちんと役所に登録されている。
「そういう訳で公にはできませんが、あたしは『エリザベス』でもあるのです」
「事情は分かったが……去年見かけたデミコ ロナル公爵令嬢と随分と見た目が違う。証明はできるか?」
証明?
今のあたしの容姿はエリザベスだとバレないためのものだけど、逆にエリザベスだと納得はさせられるのかしら。デミコ ロナル公爵令嬢と言えば、プラチナブロンドの髪に緑の瞳――地毛は少し伸びたので染色部分はカットしてしまったし、目の色が同じなだけだと本人と言い張るには弱い。
何か他になかったかと思い悩むあたしの頭に浮かんだのは、例の絵本だった。
「そうだ、薔薇の刻印! あの絵本が出回っているのなら、痣が今どうなっているのかもご存じですよね? ……これで証明になりませんか?」
制服のボタンを外し痕を見せると、アステル様は「わっ!」と叫んで顔を背けた。やっぱり男の人が見ても気持ち悪いわよね、こんな悪魔の印みたいな……
「分かった、もういい! 早く仕舞ってくれ」
「はい、大変お見苦しいものを……」
「いやそんな事は……じゃない! 嫁入り前の令嬢が、男の前で肌を晒すなと言ってるんだ!」
え? とボタンを留めている手を止めてアステル様を見ると、覆った両手の隙間から見える顔が真っ赤になっている。肌を晒す……殿下の婚約者だった頃は、痣のアピールのために敢えて胸元が開いたドレスが多かったんだけど(余談だが神託で着ていたウェディングドレスもそのタイプだと思われる)、だからって制服の前を開いて見せるのは……ないわね。
「申し訳ございませんでした……わたくしの正体を知られる訳にはいきませんので、信用できる人たち以外には見せない事にしております」
「僕は信用できるというのか?」
「ええ、まあ。婚約者ですので」
それを判断するのはこれからなのだけど、早くもあたしはアステル様とならやっていけそうな気になっていた。一見恐ろしげな風貌をしていても、その仕種は年相応の男子と変わらない。いや、かつての婚約者である殿下よりも、ずっとずっと人間らしいと……そう思ったのだ。
アステル様はあたしを上から下まで眺めた後、目をぱちぱちさせた。不思議と、その視線は不快さを感じない。
「そうです、王妃様から聞いていませんか?」
「陛下から通達は来ている。だがボーデン男爵家の養女になった事は聞いていない」
実は公爵家に引き取られる際、それまでの経歴はお父様によって抹消されている。だから『エリザベス』はメアリーお義母様が産んだ、亡くなったはずの娘という事になっているし、その後は勘当されて平民になっているのだ。
ちなみに『リジー=ボーデン』の方は、男爵家の養女としてきちんと役所に登録されている。
「そういう訳で公にはできませんが、あたしは『エリザベス』でもあるのです」
「事情は分かったが……去年見かけたデミコ ロナル公爵令嬢と随分と見た目が違う。証明はできるか?」
証明?
今のあたしの容姿はエリザベスだとバレないためのものだけど、逆にエリザベスだと納得はさせられるのかしら。デミコ ロナル公爵令嬢と言えば、プラチナブロンドの髪に緑の瞳――地毛は少し伸びたので染色部分はカットしてしまったし、目の色が同じなだけだと本人と言い張るには弱い。
何か他になかったかと思い悩むあたしの頭に浮かんだのは、例の絵本だった。
「そうだ、薔薇の刻印! あの絵本が出回っているのなら、痣が今どうなっているのかもご存じですよね? ……これで証明になりませんか?」
制服のボタンを外し痕を見せると、アステル様は「わっ!」と叫んで顔を背けた。やっぱり男の人が見ても気持ち悪いわよね、こんな悪魔の印みたいな……
「分かった、もういい! 早く仕舞ってくれ」
「はい、大変お見苦しいものを……」
「いやそんな事は……じゃない! 嫁入り前の令嬢が、男の前で肌を晒すなと言ってるんだ!」
え? とボタンを留めている手を止めてアステル様を見ると、覆った両手の隙間から見える顔が真っ赤になっている。肌を晒す……殿下の婚約者だった頃は、痣のアピールのために敢えて胸元が開いたドレスが多かったんだけど(余談だが神託で着ていたウェディングドレスもそのタイプだと思われる)、だからって制服の前を開いて見せるのは……ないわね。
「申し訳ございませんでした……わたくしの正体を知られる訳にはいきませんので、信用できる人たち以外には見せない事にしております」
「僕は信用できるというのか?」
「ええ、まあ。婚約者ですので」
それを判断するのはこれからなのだけど、早くもあたしはアステル様とならやっていけそうな気になっていた。一見恐ろしげな風貌をしていても、その仕種は年相応の男子と変わらない。いや、かつての婚約者である殿下よりも、ずっとずっと人間らしいと……そう思ったのだ。
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