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学園サバイバル編

子供たちへの課題

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「こうして王子様は薔薇の痣の乙女と結ばれ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし……」
「あれ? リジーお姉ちゃん泣いてるの?」
「えっ」

 指摘されて、慌てて目元を拭う。いけない、変に思われては。

「でも、分かるな。あたしもエリザベスさまがかわいそうって思うもん」
「はぁ? どこが……醜い心だって絵本には書いてあっただろ」
「あたし、知ってる。エリザベスさまはとっても優しい人だもん。この絵本は嘘つきだよ!」

 またも喧嘩になりかけたところで、あたしはパンパンと大きく手を打って注目させる。院長に頼み、今度は別の絵本を持ってきてもらい読み始めた。【お菓子の家】――こっちは子供たちに大好評の物語だ。

「みんなは、このお話をよく知っているわよね? 意地悪な継母に捨てられた兄妹がお菓子の家の魔女に食べられそうになり、それぞれが機転を利かせてピンチを切り抜ける――そんなお話なんだけれど、元々は継母ではなく本当のお母さんで、女の子が魔女をやっつける時、母親の顔を思い出しているのよ。

では、母親は本当に悪い魔女だったのかしら? もちろん、本当の悪人もこの世には存在します。だけどこのお話の背景には、大飢饉で苦しめられ、生きるために子を捨てざるを得なかった当時の事情があった。ひどい時には人が人を食い合うほど追いつめられていたそうよ。

この辺りは、ここにいるみんなは身を持って感じているんじゃないかしら。どんな事情があるにせよ、お腹を痛めて産んだ子を捨てるのは『悪』だわ。だけど育てられないほど、食べていけないほど民を苦しませる政策にも問題があるの。それはあたしたち、王侯貴族が解決すべき事……

ここで【血塗られたエリザベス】に話を戻すけれど、生まれた時から『悪』だった人間はいない。ゾーイが言ってくれたように、エリザベス嬢がどんな女性だったかは、みんなも実際見ている訳だしね。
では、何故この絵本では『悪』とされているのか? 殿下がエリザベスを『悪』とした理由は何だったのか? その背景を、考えてみて欲しいの。
殿下のおっしゃる事が嘘かどうかは言えないわ。でもね、【お菓子の家】がそうだったように、絵本だけでは真実の全ては見えない。答えはいつも、みんなの人生の中にあるんだから」

 そう言って締めくくると、呆けている子供たちを見回し、二冊の絵本を院長に返してあたしは立ち上がる。リューネ様からの物言いたげな視線には、気付かないふりをした……あたし、別におかしな事は言ってないわよね?

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