上 下
20 / 111
学園サバイバル編

社会学習

しおりを挟む
 学園は週に五日間授業が行われ、六日目の『ドワーフの曜日』が社会学習、七日目の『天使の曜日』が休息日だ。社会学習とは王国民として社会に貢献できる事を自主的に学び、月に一度レポートにまとめて提出するものだった。内容は将来目指している役職についてでも、ボランティア活動でもいい。以前のわたくしは週に一度、孤児院を訪ねていた。

「リジーは明日どうする?」
「あたしは……孤児院訪問にします」

 リューネ様に聞かれ、特に思い付かなかったあたしは、結局去年と同じにしてしまった。そう言えば、『エリザベス=デミコ ロナル』の悪評はどの程度知れ渡っているのだろう? 確か投獄されていた時、殿下が絵本を作った事や孤児院の話題も持ち出していたので、きっとある事ない事吹き込まれているんだろうな。あの純粋な子供たちに軽蔑された目で見られると思うと怖くて挫けそうなのだが……現状を把握する上でも行った方がいいのかもしれない。

「そっか……ねぇ、私もついて行ってもいい?」
「……えっ?」
「やっぱりすぐにはどこにすればいいのか、思い付かなくてさ。色んな場所を誰かと一緒に回って、興味が出たらそこに決めようかと思って。……ダメ?」

 う、可愛い……年下の美少女に上目遣いされたら抗えないわ。決してそういう趣味じゃないんだけど。ふと、ロラン様もチラチラとこちらを気にしているのが見える。

「女二人じゃ不安ですから、ボディーガード付きなら」
「それなら、ロランも一緒に行こうよ。いやぁ、リジーってあんまり喋んないじゃない? そろそろ打ち解けたいなぁって」
「あ、あはは」

 喋らないのは、エミィが変装している時にバレないためだ。二年の授業についていけるようになったら、早々にこっちに集中するから許して!

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 次の日、あたしたちはエリザベス時代に馴染みのある孤児院へと赴いた。迎えてくれた院長さんに三人で挨拶する。

。1-Cのリジー=ボーデンと申します。こちらはクラスメートのリューネ=リンクス様と、ロラン=オンブル様。本日はよろしくお願いします」

 自己紹介をするあたしに院長はにっこり微笑みかける。

「学園長から話はうかがっております。どうぞ、子供たちもあなた方を歓迎しています。
……大変でしたね、エリザベス様」

 最後は耳元で囁きかけられて、はっとする。詳しい事情も、通達されていたようだ。

「殿下と王妃の御二方から、違った『真実』がそれぞれ伝えられたのですが……表向きは殿下に従うよう、命令されています。今はお辛いでしょうが……」
「はい、『エリザベス』はそのままでお願いします」

 ひそひそと内緒話をしているのが気になったのか、リューネ様から訊ねられるのを上手く誤魔化しながら院内に入ると、中から言い争う声が聞こえてきた。

「だって王子サマが言ってたんだぞ、エリザベスさまは悪いヤツだって!」
「ちがうもん! とっても優しい人だもん!」
「やめなさい、あなたたち! 学園からお兄さんお姉さんが来てくれたのよ」

 いきなり自分の事で喧嘩が起こっていて、びっくりする。聞いたところ、男の子の方は新しくこの孤児院に移されたらしく、以前のあたしを知らなかった。女の子はいつも懐いてくれていた子だ。周りも彼女に同意してはいるものの、殿下が嘘を言っているとは言いづらいようで、戸惑いの表情を浮かべている。

「こうも徹底されているとはねー……私もエリザベス様と直接お話しした事はないんだけど、何だか作為的なものを感じる」
「と、言うと?」
「テセウス殿下にとって、エリザベス様は『悪』でなければいけない理由があるのかも」

 やはりリューネ様は真実を見抜く目を持っている……それとも鼻が利くのかしら?

しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

道産子令嬢は雪かき中 〜ヒロインに構っている暇がありません〜

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「レイシール・ホーカイド!貴様との婚約を破棄する!」 ……うん。これ、見たことある。 ゲームの世界の悪役令嬢に生まれ変わったことに気づいたレイシール。北国でひっそり暮らしながらヒロインにも元婚約者にも関わらないと決意し、防寒に励んだり雪かきに勤しんだり。ゲーム内ではちょい役ですらなかった設定上の婚約者を凍死から救ったり……ヒロインには関わりたくないのに否応なく巻き込まれる雪国令嬢の愛と極寒の日々。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

処理中です...