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学園サバイバル編
リジー=ボーデン男爵令嬢
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学園に到着したあたしたちは、まず学生寮に荷物を置きに行った。ここに入寮すれば基本的には三年間同じ部屋のままだ。だけど今向かうのはエリザベスの部屋ではなく、新入生に用意された新たな区域。
「【リジー=ボーデン】……ここね!」
少し眼鏡をずらして表札を確認し、管理人から渡された鍵を取り出す。この眼鏡、度は入ってないんだけど、分厚いガラスなもんだから、目元が気になって仕方がない。なるべく早く慣れておかなければ。
「元のお嬢様のお部屋の清掃は済んでおります。窓や壁、ドアの弁償はその階の者たち全員が負担したそうです」
「うわ、逆恨み怖そうね……まあ、真犯人も目撃者も名乗り出ないんだから仕方ないか」
一応、エリザベスが住んでいるという体裁は整えておかなくてはいけないが、いちいち侵入されて物を壊されてはたまらない。公爵家が払ってくれるのは学費だけなのだ。
「いっそ気の済むまでやらせて、そのままにしておくのはどうかしら。最初から全部壊れていれば、それ以上どうにかする気もなくなるでしょ」
「それは経験則ですか、お嬢様?」
「まあね」
公爵家でのジュリアンとの攻防が思い出される。さすがに成長してからは暴力を振るう事はなくなったものの、あたしを悪者に仕立て上げ、使用人にもある事ない事吹き込んだ結果、食事抜きで反省室にまる一日閉じ込められたり、真冬に外に閉め出されるなんてしょっちゅうだった。……まあ、どこまで聞いているかは知らないけど、愛人の子で政略結婚の駒に過ぎないあたしなんて、体のいいサンドバッグだったんでしょうね。
痛ましい目であたしを見ていたエミィは、トランクの衣類をクローゼットに仕舞い終わると、残りの荷物を抱えた。
「では、学園長にご挨拶にうかがいましょうか」
エミィが学園までついてきたのには、理由がある。それは学園内であたしのフォローをするために、用務員として期限付きで雇われる事になったからだ。この学園では王侯貴族と言えど、使用人を連れてくる事はできない。だからあたしがこれから上手く立ち回るために、王妃からの推薦で紛れ込ませてもらったのだ。
学園長室に入ると、エミィは一礼してドアを閉めた。彼女はこれから、用務長からレクチャーを受ける事になっている。あたしが礼を取ると、学園長は目を細めて微笑んだ。
「お元気そうですね、エリザベス……いいえ、リジーさん。あなたにはこれからの三年間を何とか乗り切ってもらうために、お伝えしておかなければなりません。
当学園では、生徒の自主性を重んじるために、生徒会による運営がなされています。教員を始めとする大人はあくまでその補助に過ぎない……というのは建前で、やはりある程度の序列は存在するのです。
その一例として、王家の者の生徒会入りが決定している事ですね。いくら学園外の権力は持ち込めないとは言っても、生徒会長としての権限を使われてしまえば、我々教員と言えど口は出せないのです」
これは既に経験済みなので、同意して頷く。傷害と言えるほどのいじめはさすがに法に委ねられるが、軽いじゃれ合い程度ならば責める訳にはいかない。そしてどこからがいじめかという基準は、生徒会によって決められるのだ。
そして今年度の生徒会長は、テセウス殿下……どんな指令が下ったのかは推して知るべしだろう。
(でも、今度は絶対に負けない……殿下、あなたの悪意にはもう、飲まれません!)
数日後に迫る入学式を前に、あたしは決意と共に拳を握りしめた。
「【リジー=ボーデン】……ここね!」
少し眼鏡をずらして表札を確認し、管理人から渡された鍵を取り出す。この眼鏡、度は入ってないんだけど、分厚いガラスなもんだから、目元が気になって仕方がない。なるべく早く慣れておかなければ。
「元のお嬢様のお部屋の清掃は済んでおります。窓や壁、ドアの弁償はその階の者たち全員が負担したそうです」
「うわ、逆恨み怖そうね……まあ、真犯人も目撃者も名乗り出ないんだから仕方ないか」
一応、エリザベスが住んでいるという体裁は整えておかなくてはいけないが、いちいち侵入されて物を壊されてはたまらない。公爵家が払ってくれるのは学費だけなのだ。
「いっそ気の済むまでやらせて、そのままにしておくのはどうかしら。最初から全部壊れていれば、それ以上どうにかする気もなくなるでしょ」
「それは経験則ですか、お嬢様?」
「まあね」
公爵家でのジュリアンとの攻防が思い出される。さすがに成長してからは暴力を振るう事はなくなったものの、あたしを悪者に仕立て上げ、使用人にもある事ない事吹き込んだ結果、食事抜きで反省室にまる一日閉じ込められたり、真冬に外に閉め出されるなんてしょっちゅうだった。……まあ、どこまで聞いているかは知らないけど、愛人の子で政略結婚の駒に過ぎないあたしなんて、体のいいサンドバッグだったんでしょうね。
痛ましい目であたしを見ていたエミィは、トランクの衣類をクローゼットに仕舞い終わると、残りの荷物を抱えた。
「では、学園長にご挨拶にうかがいましょうか」
エミィが学園までついてきたのには、理由がある。それは学園内であたしのフォローをするために、用務員として期限付きで雇われる事になったからだ。この学園では王侯貴族と言えど、使用人を連れてくる事はできない。だからあたしがこれから上手く立ち回るために、王妃からの推薦で紛れ込ませてもらったのだ。
学園長室に入ると、エミィは一礼してドアを閉めた。彼女はこれから、用務長からレクチャーを受ける事になっている。あたしが礼を取ると、学園長は目を細めて微笑んだ。
「お元気そうですね、エリザベス……いいえ、リジーさん。あなたにはこれからの三年間を何とか乗り切ってもらうために、お伝えしておかなければなりません。
当学園では、生徒の自主性を重んじるために、生徒会による運営がなされています。教員を始めとする大人はあくまでその補助に過ぎない……というのは建前で、やはりある程度の序列は存在するのです。
その一例として、王家の者の生徒会入りが決定している事ですね。いくら学園外の権力は持ち込めないとは言っても、生徒会長としての権限を使われてしまえば、我々教員と言えど口は出せないのです」
これは既に経験済みなので、同意して頷く。傷害と言えるほどのいじめはさすがに法に委ねられるが、軽いじゃれ合い程度ならば責める訳にはいかない。そしてどこからがいじめかという基準は、生徒会によって決められるのだ。
そして今年度の生徒会長は、テセウス殿下……どんな指令が下ったのかは推して知るべしだろう。
(でも、今度は絶対に負けない……殿下、あなたの悪意にはもう、飲まれません!)
数日後に迫る入学式を前に、あたしは決意と共に拳を握りしめた。
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