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学園サバイバル編

新たなるスタート

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 新学期、わたくしの二度目の学園生活がスタートした。

 それまでにもう一度入学試験を受け、合格後には『リジー=ボーデン』の名で入学が決まった。リジーは愛称なのだが、エリザベス=デミコ ロナルとは別人と思わせるためだ。
 容姿も大きく変える事になった。プラチナブロンドの髪は元々、お義母様と同じ色に染めたものだったので、染色をやめればそのうち元の髪色になる。染髪剤は劇薬だったのか、根元を染める度に頭皮がしばらくピリピリしていたので、もうしなくていいのは助かる。エミィは髪に隠された部分がブツブツになっていたと嘆いていた。
 長い髪をベリーショートにし、伸びるまでは地毛と同じ焦げ茶のカツラを被る。さらに緑の目を隠すために瓶底眼鏡をかければ、新入生『リジー=ボーデン男爵令嬢』の完成。
 そう、お義母様によく似た美しい公爵令嬢『エリザベス=デミコ ロナル』は作られた存在。今の地味令嬢こそが本当のわたくし……じゃなかった、あたしなのだ。(変装はしているが)

「可愛いよ、リジー。若い頃のアリナを思い出すな」
「あら、それじゃデミコ ロナル公爵にお会いするのも避けなきゃね。あの御方はおかあさんの顔を知っているもの」

 おとうさんと軽口を叩き合えるほど、あたしの心の傷も癒えてきていた。今でも学園で殿下やジュリアンと会ったらどうしようという怯えはあるが、無事卒業できるまで恙なくやり過ごすための、これは戦いなのだと自身を鼓舞する。

「ごめんね、リジー。本当は制服も筆記用具も、新品を用意してあげたかったけれど」

 カツラの髪を梳かしながら、おかあさんが申し訳なさそうに言う。公爵は卒業までの学費を入学時に納めていたけれど、それはあくまで『エリザベス』としてのもの。一学年下のリジーの入学金や諸々の雑費は男爵家が用意しなければならない。よって余計な出費を抑えるため、制服などはおかあさんの実家から取り寄せた古着になった。
 また、公爵家から支払われていた多額の支援金は、あたしを取り戻した後で難癖つけてくる事を想定して、ほとんど手付かずで残してあるらしい。つまり男爵領は相変わらず裕福ではなかった。あたしの学園生活のやり直しは、そんな男爵家を助けるための知恵を身に付ける目的もあるのだ。

「平気よ、おかあさん。あたし、いっぱい勉強して親孝行できるように頑張るから」
「私たちの事よりも、リジーがたくさんのお友達と楽しく過ごしてくれる事が一番よ」

 ああ、ここは暖かいな……懐かしさに涙が出てしまいそう。すぐに王都に戻らなければならないのは寂しいけれど、親孝行になるのなら、うんと幸せな事を書いた手紙をいっぱい送らなきゃね。
 そうして旅行鞄をいくつか詰め込んだ馬車に、エミィと乗り込む。学生寮では使用人は付けられないが、彼女には王妃様から直々に使命が与えられていた。

「では、行って参ります」
「行ってらっしゃい。体に気を付けるのよ」
「長期休暇には、必ず帰ってこいよ」

 両親に手を振り、あたしたちは悪意の待つ王都へと戻った。

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