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プロローグ

身に覚えのない罪

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(どうして、こんな事になってしまったのかしら……)

 冷たい牢屋の床に這いつくばりながら、わたくしの意識は過去へと飛んでいた。

 あれは、王城で行われた新年を迎えるパーティーでの事。テセウス殿下は年を越す前に憂いを全て取り除くとおっしゃって……わたくしを断罪した。

 殿下とわたくしが王立学園に入学してほどなく、この国に異世界から来たという少女が現れて話題になった。誰がどういった目的で、如何なる手段で呼び出したのかは分からない。そのような方法は、この国には存在しないのだ。
 殿下はその異世界の少女『ラク=ハイド』様の面倒を見るとおっしゃり、どこへ行くにも連れて歩くようになった。わたくしもそれは了承していた――慣れない異世界に一人放り込まれる心細さを思えば、殿下という後ろ盾が必要という理屈は分かる。
 もう一度言うが、わたくしは了承したし、二人に関して一切何も口に出してはいないのだ。

 それがいつの間にか、二人の仲に嫉妬し、ラク様に取り巻きを使っていじめを行い、あろう事か神殿の廊下に飾ってある鎧に成りすまして斧で襲った容疑がかけられていた。意味が分からない……そもそもわたくしには取り巻きどころか、まともに友と呼べるような仲の令嬢すらいない。神殿の鎧を着るとなると、背丈から殿方しか無理そうだけれど、異性の知り合いなどもってのほかだ。
 そう、わたくしは大変引っ込み思案で小心者なのだ……王太子妃などとても務まらないほどに。

「かわいそうに、ラクは四十体もの斧を持った鎧たちに襲われ、とても怖い思いをしたそうだ。その時に廊下の向こう側へ走り去る、プラチナブロンドの髪の女を見たと証言している。そうだな?」

 殿下に肩を抱かれ、ラク様は戸惑ったように頷かれる。彼女も言語に不慣れなためか、あまり話されないのだけれど、殿下の態度はわたくしとは雲泥の差だ。やはりわたくしとの婚約を破棄し、ラク様を新たな王太子妃候補に迎えるという噂は本当なのだろう。

「エリザベス=デミコ ロナル! 異世界からの客人ラクの殺害未遂容疑で身柄を拘束させてもらう! ひっ捕らえよ!!」

 わたくしは何の抵抗もできないまま、兵士に連れて行かれた。何度も覚えがない、と言おうとしたけれど、殿下の威圧的な眼差し、周囲の軽蔑の視線に身が竦んでしまい、言葉が喉につかえて出てこなかったのだ。
 こうしてわたくしは、こそげ落とされた年末の憂いとして、冤罪をかけられてしまったのだった。

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