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16:初夜失敗の噂
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「おはようございます、奥様」
コンコン、と寝室のドアがノックされ、ステラが入ってきた。のそのそ起き上がる私の顔に少しぎょっとしていたけれど、すぐに着替えを用意し身なりを整えてくれる。
「旦那様はどちらに?」
「自分の部屋に戻ったわ」
「それは……」
「失敗した」
ぼそりと呟けば、髪を梳かしてくれた手が一瞬止まるが。
「最初はそんなものですよ。お体の具合は如何でしょうか?」
「指一本も触れられてないわ」
私の答えに、ステラは今度こそ固まってしまった。
「怒らせてしまって……今は私の顔も見たくないでしょうね」
「……もしかして、下着が不評でしたかね?」
昨夜、私が乗り気でないのを押し通した自覚があるのか、申し訳なさそうに言う。不評は不評だが、原因はたぶんそれだけではない。
「決して無理強いしたわけじゃないのよ? 旦那様は最低限の知識はあったものの、やっぱり実践となると、ね……だから、ちゃんと詳細を描いた図解と並べてレクチャーを」
「ちょっと待ってください!?」
初夜の出来事をざっくり説明しようとすると、がばっと顔を上げたステラから制止されてしまった。信じられないものを見るような表情で、私とベッド脇のテーブルと見比べている。
「これから夫婦の営みをする段階で、授業を行ったのですか!? 実物と医学書を比較しながら!?」
「そんなに違いはないと思うのだけれど?」
「はあ……」
彼女が意味ありげな溜息を漏らすのは、私が理解していない事を指摘したくても、メイドという立場から遠慮して口を閉じている時だ。実家にいた頃は気になっても追及はしなかったけれど、元々身分にこだわりのない私としては是非とも聞かせて欲しい。
「ステラ、私は国王陛下から勇者誕生のための『計画』執行を命じられているの。問題解決の糸口になる事なら忌憚のない意見をお願いするわ」
「では、失礼ながら……オーロラお嬢様」
咳払いと共に「奥様」呼びを撤回され、これはかなり厳しめになると覚悟する。教会と役所で夫婦として登録されたとは言え、初夜を失敗した私たちはまだ正式に結ばれていない。ここは敢えて、まだ令嬢に過ぎないという事実を受け入れておく。
「例えばですが……お嬢様なら初夜に自分を抱く事もせず、いきなり医学書で人体の構造について解説されたとしたら、どうします?」
「ん? 人体の不思議について学ぶ事は、別に嫌いではないわ」
私のやった事を指摘され、医学書がまずかったのかと首を傾げると、ビシッと人差し指を突き付けられる。
「それです! 旦那様はお嬢様の、その……秘められた箇所を見ても反応しなかったのでしょう? 学問として示されたからですよ!」
「学問として……旦那様は勉強がお嫌いである、と?」
「いえ、そういう事ではなく。何と言うか、夫婦というものはもっと……親睦を深めた先にあるのではないかと」
親睦と言われても。
現実としては愛がなくても妊娠は可能だし、それこそ顔を合わせて間もない政略結婚で、初夜も行われる。その気になれば、嫌な役割だってすぐに終わっていたはずなのに。
思わず頬を膨らませてしまう。
「だって……私の事、ババアって言ったのよ?」
「私から見れば、お嬢様も旦那……オリオン様も等しく子供です」
頼んでいたとは言え、泣き言にも容赦ない意見にグサッときてしまった。
コンコン、と寝室のドアがノックされ、ステラが入ってきた。のそのそ起き上がる私の顔に少しぎょっとしていたけれど、すぐに着替えを用意し身なりを整えてくれる。
「旦那様はどちらに?」
「自分の部屋に戻ったわ」
「それは……」
「失敗した」
ぼそりと呟けば、髪を梳かしてくれた手が一瞬止まるが。
「最初はそんなものですよ。お体の具合は如何でしょうか?」
「指一本も触れられてないわ」
私の答えに、ステラは今度こそ固まってしまった。
「怒らせてしまって……今は私の顔も見たくないでしょうね」
「……もしかして、下着が不評でしたかね?」
昨夜、私が乗り気でないのを押し通した自覚があるのか、申し訳なさそうに言う。不評は不評だが、原因はたぶんそれだけではない。
「決して無理強いしたわけじゃないのよ? 旦那様は最低限の知識はあったものの、やっぱり実践となると、ね……だから、ちゃんと詳細を描いた図解と並べてレクチャーを」
「ちょっと待ってください!?」
初夜の出来事をざっくり説明しようとすると、がばっと顔を上げたステラから制止されてしまった。信じられないものを見るような表情で、私とベッド脇のテーブルと見比べている。
「これから夫婦の営みをする段階で、授業を行ったのですか!? 実物と医学書を比較しながら!?」
「そんなに違いはないと思うのだけれど?」
「はあ……」
彼女が意味ありげな溜息を漏らすのは、私が理解していない事を指摘したくても、メイドという立場から遠慮して口を閉じている時だ。実家にいた頃は気になっても追及はしなかったけれど、元々身分にこだわりのない私としては是非とも聞かせて欲しい。
「ステラ、私は国王陛下から勇者誕生のための『計画』執行を命じられているの。問題解決の糸口になる事なら忌憚のない意見をお願いするわ」
「では、失礼ながら……オーロラお嬢様」
咳払いと共に「奥様」呼びを撤回され、これはかなり厳しめになると覚悟する。教会と役所で夫婦として登録されたとは言え、初夜を失敗した私たちはまだ正式に結ばれていない。ここは敢えて、まだ令嬢に過ぎないという事実を受け入れておく。
「例えばですが……お嬢様なら初夜に自分を抱く事もせず、いきなり医学書で人体の構造について解説されたとしたら、どうします?」
「ん? 人体の不思議について学ぶ事は、別に嫌いではないわ」
私のやった事を指摘され、医学書がまずかったのかと首を傾げると、ビシッと人差し指を突き付けられる。
「それです! 旦那様はお嬢様の、その……秘められた箇所を見ても反応しなかったのでしょう? 学問として示されたからですよ!」
「学問として……旦那様は勉強がお嫌いである、と?」
「いえ、そういう事ではなく。何と言うか、夫婦というものはもっと……親睦を深めた先にあるのではないかと」
親睦と言われても。
現実としては愛がなくても妊娠は可能だし、それこそ顔を合わせて間もない政略結婚で、初夜も行われる。その気になれば、嫌な役割だってすぐに終わっていたはずなのに。
思わず頬を膨らませてしまう。
「だって……私の事、ババアって言ったのよ?」
「私から見れば、お嬢様も旦那……オリオン様も等しく子供です」
頼んでいたとは言え、泣き言にも容赦ない意見にグサッときてしまった。
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