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10:契約成立の噂
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次の日の朝、宿を後にした私たちは町中の支教会へと向かった。ボブは一足先に屋敷に移り、昼食を用意してくれるそうだ。オリオンなど余程彼の料理が気に入ったのか、これからすべき事など頭から抜けているようだった。
「あのおっさんの飯、すげーうまかったよなぁ。あれが毎日食えるのって最高だな!」
それには同意する。特に私など、修道院での慎ましい食生活から久しぶりの豪勢な食事だったから……まあ、目の前で爆食された衝撃でゆっくり味わえなかったけども。
礼拝堂に通された私たちは、まず新たに作成した誓約書を提出する。手に取った神官が訝しげな顔をしたものの、深くは突っ込まれずに式は行われた。
「汝、オリオン=イーダはオーロラ=スペルビエを妻とし、しょうが……ゴホン、期間内に愛し、勇者をこの地に迎えると誓いますか」
「ハハ、愛とか無理無理! あ、でも約束だから守るよ」
「……」
一言多い。
「汝、オーロラ=スペルビエはオリオン=イーダを夫とし、期間内に愛し、勇者をこの地に迎えると誓いますか」
「はい、誓います」
マジか、という顔をされたが本心はどうあれ形式は必要だ。例えば清らかな体でなくなれば神官は続けられないが、今回のような例外となれば神前で誓いを立てる事で、出産までこの身に加護を宿す事ができる。単なる夫婦の営みではなく、勇者の魂を地上に降ろす儀式なのだと。ちなみにこの国では本来、結婚できる年齢は十六歳からである。
指輪の交換も済ませ、さくさくと式を終わらせると、速攻で役所に提出しに行った。情緒もへったくれもないが、私たちには最初からそんなものは存在しない。
とは言え、これから一緒に暮らしていくにあたり、慣れるべき事はある。御者のトーマスが馬車をゆっくり進ませながら、町の案内をしてくれた。
「この町は勇者育成機関としてだけでなく、奥様が健やかにご出産できるよう、生活用品や恰好品に不自由のない品揃えになっていますから、何十年もここだけで暮らすのが可能です。
ご希望の商品は注文すればすぐ屋敷に届けられますけど、直接店で見る事もできますよ」
「あの工事中になってる建物はなんだ?」
「ああ、勇者様用に人工的に作ったダンジョンです。完成したら、お二方にも自由にご利用いただけます」
町中にダンジョン!? 憧れがあるのかオリオンの目はキラキラしているが、用意されるのは低レベルで子供でも倒せる敵に決まっている。じゃないと危な過ぎて送り出せるわけない。
「魔物は外で捕獲してくるんですか?」
「繁殖させるための番はそうですが、ダンジョンで使うのは生まれた子供です。本物に触れる前に、まず慣れさせなければいけませんから。この作業はペットショップが魔物研究家監修の下で請け負っています」
「はー……そんな純粋培養で強い勇者にできんのかよ? 俺なんて師匠から獣がうじゃうじゃいる密林に数日置き去りにされたんだけど?」
そんな会話をしている内に、宝石店が見えてきたので一旦止めてもらって入店する。アクセサリーは付加効果のあるアイテムとして冒険者が持ち歩いている。売っているのは宝石だけではなく、材料となる魔石もだ。勇者の身の安全のためにも、ぜひ近くにあって欲しい店の一つだった。
「お待たせしました。はい、旦那様の分ですよ」
「だ、旦那様!?」
結婚指輪にチェーンを通してもらったネックレスを渡すと、オリオンが困惑する。契約は成立したので私たちはもう夫婦と言える。
「何とお呼びすればいいか分からなかったので、とりあえずですが」
「だったらあんたは奥様って言えばいいのか?」
いやそれ他人の呼び方……自由にすればいいと告げれば、オリオンは首から下げたチェーンを弄びながら何事か考えていた。
「あのおっさんの飯、すげーうまかったよなぁ。あれが毎日食えるのって最高だな!」
それには同意する。特に私など、修道院での慎ましい食生活から久しぶりの豪勢な食事だったから……まあ、目の前で爆食された衝撃でゆっくり味わえなかったけども。
礼拝堂に通された私たちは、まず新たに作成した誓約書を提出する。手に取った神官が訝しげな顔をしたものの、深くは突っ込まれずに式は行われた。
「汝、オリオン=イーダはオーロラ=スペルビエを妻とし、しょうが……ゴホン、期間内に愛し、勇者をこの地に迎えると誓いますか」
「ハハ、愛とか無理無理! あ、でも約束だから守るよ」
「……」
一言多い。
「汝、オーロラ=スペルビエはオリオン=イーダを夫とし、期間内に愛し、勇者をこの地に迎えると誓いますか」
「はい、誓います」
マジか、という顔をされたが本心はどうあれ形式は必要だ。例えば清らかな体でなくなれば神官は続けられないが、今回のような例外となれば神前で誓いを立てる事で、出産までこの身に加護を宿す事ができる。単なる夫婦の営みではなく、勇者の魂を地上に降ろす儀式なのだと。ちなみにこの国では本来、結婚できる年齢は十六歳からである。
指輪の交換も済ませ、さくさくと式を終わらせると、速攻で役所に提出しに行った。情緒もへったくれもないが、私たちには最初からそんなものは存在しない。
とは言え、これから一緒に暮らしていくにあたり、慣れるべき事はある。御者のトーマスが馬車をゆっくり進ませながら、町の案内をしてくれた。
「この町は勇者育成機関としてだけでなく、奥様が健やかにご出産できるよう、生活用品や恰好品に不自由のない品揃えになっていますから、何十年もここだけで暮らすのが可能です。
ご希望の商品は注文すればすぐ屋敷に届けられますけど、直接店で見る事もできますよ」
「あの工事中になってる建物はなんだ?」
「ああ、勇者様用に人工的に作ったダンジョンです。完成したら、お二方にも自由にご利用いただけます」
町中にダンジョン!? 憧れがあるのかオリオンの目はキラキラしているが、用意されるのは低レベルで子供でも倒せる敵に決まっている。じゃないと危な過ぎて送り出せるわけない。
「魔物は外で捕獲してくるんですか?」
「繁殖させるための番はそうですが、ダンジョンで使うのは生まれた子供です。本物に触れる前に、まず慣れさせなければいけませんから。この作業はペットショップが魔物研究家監修の下で請け負っています」
「はー……そんな純粋培養で強い勇者にできんのかよ? 俺なんて師匠から獣がうじゃうじゃいる密林に数日置き去りにされたんだけど?」
そんな会話をしている内に、宝石店が見えてきたので一旦止めてもらって入店する。アクセサリーは付加効果のあるアイテムとして冒険者が持ち歩いている。売っているのは宝石だけではなく、材料となる魔石もだ。勇者の身の安全のためにも、ぜひ近くにあって欲しい店の一つだった。
「お待たせしました。はい、旦那様の分ですよ」
「だ、旦那様!?」
結婚指輪にチェーンを通してもらったネックレスを渡すと、オリオンが困惑する。契約は成立したので私たちはもう夫婦と言える。
「何とお呼びすればいいか分からなかったので、とりあえずですが」
「だったらあんたは奥様って言えばいいのか?」
いやそれ他人の呼び方……自由にすればいいと告げれば、オリオンは首から下げたチェーンを弄びながら何事か考えていた。
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