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9:結婚前夜の噂
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無事役目を果たさせる約束を取り付けて、気付けば日が暮れかけていた。
ぐううぅぅ~…
「腹減ったぁ~~」
オリオンの気の抜けた声に笑いが漏れそうになる。
「ステラ、屋敷にコックは来ているのかしら?」
「いいえ、使用人が揃うのは婚姻が成立してからで、それまでは待機となっております。私共も食事は外食でして……よければ顔合わせも兼ね、コックが身を置いているレストランへ行きましょうか?」
「そうね、お願い」
馬車を出してもらい、オリオンの他ステラとジョージも伴って屋敷の外の町へと向かう。
勇者を育てるために開発されただけあって、屋敷の人間は領収書だけでどこの店も利用できるそうだ。こんな特別待遇を受けて、相手が気に入らないからと応えないわけにはいかないだろう。
屋敷の料理人となるのは、宿屋の一階で経営しているレストランで働くボブという男だった。挨拶を交わし合う中でも運ばれてくる料理に気がそぞろになっていたオリオンは、全員が手を合わせるのも待たずにがっつき出す。
「はぐっはぐっ、うめぇ――っ!!」
瞬く間に積み上がっていく皿。おかわりが来るのも待てないのか、私の分にまで手を伸ばそうとするものだから、ぴしゃりと叩いて止めた。
「お行儀が悪い!」
「何すんだババア!」
何すんだはこちらの台詞だと、バチバチに睨み返す。
「つい先程、父親になると誓ったばかりでしょう。一体貴方のお父様はどんな教育をなさっているの? 王立学園に貴族として通っていたのなら、マナーを覚えていないとは言わせませんよ」
「師匠は確かにうるさかったけどさ、家族だけの時は好きにしろって言ってたぞ」
ああこれ、諦めたやつだな……
一応、家族として認めてはくれたようだが、食い尽くしは子供の教育にも悪いので勘弁してほしい。妊娠後は好きにしろと言った手前、いつまでここに残るのかは不明だけれど。
「とりあえず食べ物は逃げませんから、落ち着いてください。明日の予定を共有しましょう。
まず朝一番に教会へ行って式を挙げ、役所に書類を提出。各店舗の位置を覚えるために町をぐるっと一周したら、改めて屋敷の間取りを確認しておきましょう」
これから生活するのに何がどの場所にあるのか、特に病院などは把握しておかなければいけない。
「肝心の子作りはいつだよ?」
「それは……夜になりますが」
直球で聞いてくるものだから、気まずくて周りを見回す。勇者を産む私たちのための町なので、多少明け透けな話でもみんな心得て聞こえないふりをしてくれるだろうが、無配慮・無神経が過ぎる。
「あ、そ。んじゃあ、それまでは解散で好きな事していいんだよな?」
「え、ちょ……」
「ごちそーさん。腹いっぱいになったし、寝るわ」
満腹で眠くなったのか、大欠伸しながら席を立つと、レストランと同時に予約していた宿への階段を上っていってしまった。
(不安しかない……)
二階のドアの一つが閉まってしばらくすると聞こえてくる豪快な鼾に、私は頭を抱える手でずり落ちかけた眼鏡を直した。
ぐううぅぅ~…
「腹減ったぁ~~」
オリオンの気の抜けた声に笑いが漏れそうになる。
「ステラ、屋敷にコックは来ているのかしら?」
「いいえ、使用人が揃うのは婚姻が成立してからで、それまでは待機となっております。私共も食事は外食でして……よければ顔合わせも兼ね、コックが身を置いているレストランへ行きましょうか?」
「そうね、お願い」
馬車を出してもらい、オリオンの他ステラとジョージも伴って屋敷の外の町へと向かう。
勇者を育てるために開発されただけあって、屋敷の人間は領収書だけでどこの店も利用できるそうだ。こんな特別待遇を受けて、相手が気に入らないからと応えないわけにはいかないだろう。
屋敷の料理人となるのは、宿屋の一階で経営しているレストランで働くボブという男だった。挨拶を交わし合う中でも運ばれてくる料理に気がそぞろになっていたオリオンは、全員が手を合わせるのも待たずにがっつき出す。
「はぐっはぐっ、うめぇ――っ!!」
瞬く間に積み上がっていく皿。おかわりが来るのも待てないのか、私の分にまで手を伸ばそうとするものだから、ぴしゃりと叩いて止めた。
「お行儀が悪い!」
「何すんだババア!」
何すんだはこちらの台詞だと、バチバチに睨み返す。
「つい先程、父親になると誓ったばかりでしょう。一体貴方のお父様はどんな教育をなさっているの? 王立学園に貴族として通っていたのなら、マナーを覚えていないとは言わせませんよ」
「師匠は確かにうるさかったけどさ、家族だけの時は好きにしろって言ってたぞ」
ああこれ、諦めたやつだな……
一応、家族として認めてはくれたようだが、食い尽くしは子供の教育にも悪いので勘弁してほしい。妊娠後は好きにしろと言った手前、いつまでここに残るのかは不明だけれど。
「とりあえず食べ物は逃げませんから、落ち着いてください。明日の予定を共有しましょう。
まず朝一番に教会へ行って式を挙げ、役所に書類を提出。各店舗の位置を覚えるために町をぐるっと一周したら、改めて屋敷の間取りを確認しておきましょう」
これから生活するのに何がどの場所にあるのか、特に病院などは把握しておかなければいけない。
「肝心の子作りはいつだよ?」
「それは……夜になりますが」
直球で聞いてくるものだから、気まずくて周りを見回す。勇者を産む私たちのための町なので、多少明け透けな話でもみんな心得て聞こえないふりをしてくれるだろうが、無配慮・無神経が過ぎる。
「あ、そ。んじゃあ、それまでは解散で好きな事していいんだよな?」
「え、ちょ……」
「ごちそーさん。腹いっぱいになったし、寝るわ」
満腹で眠くなったのか、大欠伸しながら席を立つと、レストランと同時に予約していた宿への階段を上っていってしまった。
(不安しかない……)
二階のドアの一つが閉まってしばらくすると聞こえてくる豪快な鼾に、私は頭を抱える手でずり落ちかけた眼鏡を直した。
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