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8:婚前勝負の噂
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オリオンの師匠でもある大賢者ピエールは正しく、神官の魔法は魔術師のものとは違う。祈りによって神から授けられる他者への癒しと護りの力、それが神聖魔法だ。なので同じパーティー内の防御・回復はできるけれど自分にはかけられない。攻撃もないわけではないが、殺傷力は極めて弱かった。
それもあってか、剣を構えたもののオリオンは完全に私を舐め腐っていた。
「判定はどうする? 先に降参した方か、それとも相手が泣くまでか」
「うーん、我慢して負けを認めなければ終わりませんし、もう少しシンプルにしましょう。紙風船を割るというのはどうです」
用意されてあった子供部屋に、玩具や知育素材がたくさん置いてあると聞いたので、その中から紙風船を持ってきてもらった。
「なんか、締まらねえな……」
「そんな事ありませんよ。頭や胸につけた風船を割れるのは、命を奪えるという事です。怖いですか?」
「まさか!」
改めて向き合う二人の間に立ったジョージが、両者を見比べてから開始の合図を告げた。
すぐさま、オリオンが突っ込んでくる。胸元の紙風船を狙って剣を一閃させるが、彼の目には私の姿が揺らいで消えたように見えただろう。全然違う場所を薙ぎ払っている。
「【幻惑】か!」
「ご名答。次、【保護】!」
間髪入れずに体勢を立て直し、こちらに斬りかかってくる。私は彼に向ってスカーフを投げ、神聖魔法をかけた。柔らかいはずの布が、空中で剣を受け止める。
「こんな使い方が……」
感心しつつもスカーフを払い除け、攻撃をしかけてくるので、スカーフを【複製】で増やし、全体に【保護】をかけた。神官は自身の防御はできないが、逆に言えば自分以外なら人や物に限らず神聖魔法が使える。ならば小道具を使って攻撃を防げばいい。
「だが防いでばかりじゃ俺を倒せないだろ」
「そうですね、そろそろ仕掛けます」
スカーフを裁き切ったオリオンに向かって指差した途端に、彼は引っ繰り返った。何が起きているのか分からない顔をしている。
「何だ、今ビシッと……」
「魔法による攻撃です」
「今のが? 威力は全然……イテッ」
細やかだがビシビシ絶え間なく襲ってくる刺激に、慌てて頭の紙風船を庇う。威嚇以上の効果はないが、【打擲】は敵の動きを止める時間稼ぎにはなる――と、低い体勢から燃えるような眼差しとかち合った。
「舐めるな!」
「っ!」
ズブッと紙風船に剣が突き立てられ……なかった。切っ先が、紙風船との間にできた薄い膜で止まっている。一瞬の動揺を見逃す事なく、ロザリオをぽいと投げるとオリオンの頭の風船を突き破っていった。
「勝負あり!」
「くそぉっ、風船に【強化】なんて卑怯だぞ!」
剣を地面に叩き付け、悔しそうに喚くオリオンに、私は諭すように言った。
「卑怯? 貴方は魔王の軍勢にも同じ事を言うのですか。世界を滅ぼす敵に正々堂々真っ向勝負ばかりを求めるなら、貴方に勇者は向いていません」
「……!」
「ですが今回は初めてなので油断を誘えただけの事。次は私の手など通用しないでしょうね」
地面に手をついていたオリオンが立ち上がって土を払い、剣を鞘に納めた。俯いたまま屋敷に戻ろうとして、振り返る。僅かに目元が赤かった。
「約束だからな、契約は結んでやる」
それもあってか、剣を構えたもののオリオンは完全に私を舐め腐っていた。
「判定はどうする? 先に降参した方か、それとも相手が泣くまでか」
「うーん、我慢して負けを認めなければ終わりませんし、もう少しシンプルにしましょう。紙風船を割るというのはどうです」
用意されてあった子供部屋に、玩具や知育素材がたくさん置いてあると聞いたので、その中から紙風船を持ってきてもらった。
「なんか、締まらねえな……」
「そんな事ありませんよ。頭や胸につけた風船を割れるのは、命を奪えるという事です。怖いですか?」
「まさか!」
改めて向き合う二人の間に立ったジョージが、両者を見比べてから開始の合図を告げた。
すぐさま、オリオンが突っ込んでくる。胸元の紙風船を狙って剣を一閃させるが、彼の目には私の姿が揺らいで消えたように見えただろう。全然違う場所を薙ぎ払っている。
「【幻惑】か!」
「ご名答。次、【保護】!」
間髪入れずに体勢を立て直し、こちらに斬りかかってくる。私は彼に向ってスカーフを投げ、神聖魔法をかけた。柔らかいはずの布が、空中で剣を受け止める。
「こんな使い方が……」
感心しつつもスカーフを払い除け、攻撃をしかけてくるので、スカーフを【複製】で増やし、全体に【保護】をかけた。神官は自身の防御はできないが、逆に言えば自分以外なら人や物に限らず神聖魔法が使える。ならば小道具を使って攻撃を防げばいい。
「だが防いでばかりじゃ俺を倒せないだろ」
「そうですね、そろそろ仕掛けます」
スカーフを裁き切ったオリオンに向かって指差した途端に、彼は引っ繰り返った。何が起きているのか分からない顔をしている。
「何だ、今ビシッと……」
「魔法による攻撃です」
「今のが? 威力は全然……イテッ」
細やかだがビシビシ絶え間なく襲ってくる刺激に、慌てて頭の紙風船を庇う。威嚇以上の効果はないが、【打擲】は敵の動きを止める時間稼ぎにはなる――と、低い体勢から燃えるような眼差しとかち合った。
「舐めるな!」
「っ!」
ズブッと紙風船に剣が突き立てられ……なかった。切っ先が、紙風船との間にできた薄い膜で止まっている。一瞬の動揺を見逃す事なく、ロザリオをぽいと投げるとオリオンの頭の風船を突き破っていった。
「勝負あり!」
「くそぉっ、風船に【強化】なんて卑怯だぞ!」
剣を地面に叩き付け、悔しそうに喚くオリオンに、私は諭すように言った。
「卑怯? 貴方は魔王の軍勢にも同じ事を言うのですか。世界を滅ぼす敵に正々堂々真っ向勝負ばかりを求めるなら、貴方に勇者は向いていません」
「……!」
「ですが今回は初めてなので油断を誘えただけの事。次は私の手など通用しないでしょうね」
地面に手をついていたオリオンが立ち上がって土を払い、剣を鞘に納めた。俯いたまま屋敷に戻ろうとして、振り返る。僅かに目元が赤かった。
「約束だからな、契約は結んでやる」
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