勇者を産む機械と言っては何ですが

7：実力証明の噂

「猶予？　俺とお前が子供を作る？」
「悪い話ではないと思いますよ。たった二年の間我慢するだけで、あとの人生は誰にも干渉されません。
主な負担はわたくしが請け負いますし、妊娠中は勇者育成のための様々な機関に融通が利きます。こんな旨味のある役目、ただ放り出すのはもったいないでしょう？」

　面倒な事は全部私がやる、オリオンはただ妊娠させるだけ……楽なものだと説得したつもりだったが、却ってプライドを傷付けたらしく、真っ赤になって睨み付けられた。

「そ、そんなの勇者がやる事じゃない！　やっぱりお前は悪女だ！」
「あのですね、勇者勇者と言ってますけど貴方に何ができるんですか？　与えられた称号は貴方の中に眠っている可能性の中で一番のもの……つまり腕に覚えがあったとしても、才能自体は【勇者の父】の素質を超えられないという事です」

　勇者になれない、とはっきり言ってやると、オリオンはガーンと激しくショックを受けた。とは言え私自身、彼がどの程度腕が立つのかは知らない。大賢者に拾われたのなら、ある程度は鍛えられていると思われるが。
　こうして実際に会って話した印象では、自分の役目を放り出してワガママを言うお子様だが、アエス殿下と違うのは親を尊敬し、一応素直に従う純粋さがある事。そして自分なりの正義があるんだろうという事。

「……ま、こうして押し問答をしていてもしょうがないでしょう。庭に出なさい、貴方の実力を見てあげます」
「は？」
「命令されるがまま、ババアと結婚なんてしたくないのでしょう？　だったら新たに勇者など産まなくても、貴方自身が勇者であると証明できればいいのです。力づくでね」

　ステラに耳打ちで頼み事をすると、私はソファから立ち上がって執事のジョージに庭まで案内してもらった。その後を、オリオンが慌ててついてくる。

「力比べをするのか！？　女のお前に勝てるわけが……」
「期間は短いですが、わたくしも辺境の厳しい環境で修業していた身。子供に遅れは取りませんよ」

　女だと侮っているので、こちらも子供扱いで返せば、ムッとして黙り込む。
　庭は想像以上に広く、一対一の勝負をしても問題はなさそうだった。私の得物を見て、オリオンが息を飲む。

「それで戦う気か？　俺と同じく剣じゃないのかよ」
「神官は祈りが武器ですから」

　私の手の中にあったのは、銀製のロザリオ。これと戦えと言われて、バカにされたと思ったのか愛用の剣を抜かれた。

「師匠に聞いて知ってるぞ。神官の魔法系統は魔術師とは違うから、攻撃も防御も自分の回復さえもできないって。冒険者パーティーを組むならともかく、試合なら絶対に勝てない！」
「なら、賭けます？　そんな神官が貴方に勝てたら、わたくしを認めて契約を結びなさい。負ければ……そうですね、『計画』を中止する事はできませんが、神官長に話を通して別の神官に変えられないか聞いてみます」

　実力を見るための勝負なのだから、賭け自体に意味はない……が、挑発的に言ったせいか、オリオンのやる気に火を点けてしまった。

「いいだろう、言っとくけど女だからって手加減はしないからな」