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4:勇者の町の噂
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王都には城と神殿と王立学園、それに城下町があるが、そこから馬車で入り組んだ路地を抜けて郊外へ出れば、一般国民には知られていない小さな町に到着する。勇者を守り育てるために造られた、所謂隠れ里である。
(私も来るのは初めてだけど、神託を受けてから開発を始めたんじゃ到底間に合わないわ。こういう事態も想定してたって事よね)
勇者の父もその妻となる神官もまだ来ていない内から、既に住人の生活基盤が整っている。渡された地図で確認したところ、各ブランドの支店や低年齢層の学び舎を兼ねた支教会、役所に冒険者ギルドまで……その気になれば一生ここで暮らせそうな充実っぷりだった。
至れり尽くせりな環境に、国がどれだけ勇者を迎えるのに本気かが窺える。
正直、プレッシャーを感じるけれど。
私以上に重圧なのは、間違いなく【勇者の父】の方だろう。何せ学園に入学してほどなく、世界の命運を背負う片棒を担がされるのだから。世の中の右も左も分からない十五の子供が人の親になるなんて、どれだけ酷な事かは分かっているつもりだ。
(だから私が、大人の私が支えてあげないと。最低限の義務だけで済むように)
確認したところ、学園は休学扱いで今回の任務中は家庭教師とレポート提出で卒業までの単位が取れる模様。妊娠・出産が早ければ早いほど、【勇者の父】の御役目御免もその分すぐ訪れる。学友がいて戻りたい意思があるのなら、協力したいところだった。
しばらくして馬車は町で一番大きな屋敷の前で止まる。
下りた私を出迎えたのは――
「お久しゅうございます、オーロラお嬢様」
「ステラ!? どうしてここに……」
実家で雇われていたメイドのステラ。私より少し年上の彼女は、幼い頃からそばで仕えてくれていた優秀な使用人だ。気が合って仲良くなりたい私に対し、ある程度応えてくれつつも主従の線引きはきっちりする人だった。
「王命により、出張という形でお世話させていただく事になりました。任務の内容から、気の置ける者の方がいいからと」
「ありがたい事だわ。これからよろしくね」
王都を離れる際、下手すれば二度と会えないのを覚悟していただけに、再会の喜びもひとしおだ。年配の執事に荷物を持ってもらい、私たちは屋敷の中へ入った。
「ここがお嬢様の私室です。ご自由にしていただいて構わないと」
「……ベッドはないのね」
実家の部屋よりも若干狭いが問題ない。不満があれば好きに模様替えしていいとは聞いていたが、一年も殺風景な修道院で生活していたせいか、女の子らしく飾り立てする気にもなれなかった。
私の問いに、ステラは少し顔を赤らめて入り口以外のドアにちらりと目をやる。
「ベッドはその、あちらに……旦那様となる御方と共同で」
「ああ、そう……」
明け透けに言うならこの家、いやこの町自体が子作りのための設備だ。自分一人のための寝室はないのだと聞かされた途端、今更ながら緊張してきた。本日から夫婦となる相手とは、これからが初対面になる。
軽く身なりを整えると、既に応接室に通してあるという【勇者の父】のもとへ私は向かった。
(私も来るのは初めてだけど、神託を受けてから開発を始めたんじゃ到底間に合わないわ。こういう事態も想定してたって事よね)
勇者の父もその妻となる神官もまだ来ていない内から、既に住人の生活基盤が整っている。渡された地図で確認したところ、各ブランドの支店や低年齢層の学び舎を兼ねた支教会、役所に冒険者ギルドまで……その気になれば一生ここで暮らせそうな充実っぷりだった。
至れり尽くせりな環境に、国がどれだけ勇者を迎えるのに本気かが窺える。
正直、プレッシャーを感じるけれど。
私以上に重圧なのは、間違いなく【勇者の父】の方だろう。何せ学園に入学してほどなく、世界の命運を背負う片棒を担がされるのだから。世の中の右も左も分からない十五の子供が人の親になるなんて、どれだけ酷な事かは分かっているつもりだ。
(だから私が、大人の私が支えてあげないと。最低限の義務だけで済むように)
確認したところ、学園は休学扱いで今回の任務中は家庭教師とレポート提出で卒業までの単位が取れる模様。妊娠・出産が早ければ早いほど、【勇者の父】の御役目御免もその分すぐ訪れる。学友がいて戻りたい意思があるのなら、協力したいところだった。
しばらくして馬車は町で一番大きな屋敷の前で止まる。
下りた私を出迎えたのは――
「お久しゅうございます、オーロラお嬢様」
「ステラ!? どうしてここに……」
実家で雇われていたメイドのステラ。私より少し年上の彼女は、幼い頃からそばで仕えてくれていた優秀な使用人だ。気が合って仲良くなりたい私に対し、ある程度応えてくれつつも主従の線引きはきっちりする人だった。
「王命により、出張という形でお世話させていただく事になりました。任務の内容から、気の置ける者の方がいいからと」
「ありがたい事だわ。これからよろしくね」
王都を離れる際、下手すれば二度と会えないのを覚悟していただけに、再会の喜びもひとしおだ。年配の執事に荷物を持ってもらい、私たちは屋敷の中へ入った。
「ここがお嬢様の私室です。ご自由にしていただいて構わないと」
「……ベッドはないのね」
実家の部屋よりも若干狭いが問題ない。不満があれば好きに模様替えしていいとは聞いていたが、一年も殺風景な修道院で生活していたせいか、女の子らしく飾り立てする気にもなれなかった。
私の問いに、ステラは少し顔を赤らめて入り口以外のドアにちらりと目をやる。
「ベッドはその、あちらに……旦那様となる御方と共同で」
「ああ、そう……」
明け透けに言うならこの家、いやこの町自体が子作りのための設備だ。自分一人のための寝室はないのだと聞かされた途端、今更ながら緊張してきた。本日から夫婦となる相手とは、これからが初対面になる。
軽く身なりを整えると、既に応接室に通してあるという【勇者の父】のもとへ私は向かった。
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