2 / 17
2:産む機械の噂
しおりを挟む
ビスケット様の言う『産む機械』の概念を持ち込んだのは、以前召喚された勇者と言われている。
我々の世界は勇者様の故郷よりも数段劣った文化であったらしく、特に女性の地位に関してはそれが顕著であった。
『女性は産む機械、なんて言った政治家がいたが、こっちじゃシャレになってないんだな』
この発言については、小難しい歴史書ほど詳細が記されている。勇者様の故郷の国では女性は男性と同等の権利を有しており、失言した政治家は女性蔑視の責任で辞任したとされる。しかし一方で『地域によって子供を産む生産性の高い低いがある』と発言した別の政治家は国のトップになったとか。
思うに一連の発言は人口減少対策の中に挟まれたほんの軽口であり、もちろん女性を蔑視する意図もなかった。辞任に追い込まれたのは、単に情報媒体を牛耳った政敵に潰されたからだろう。
(何故そんな事が分かるかって? ……私も全く同じ手口でやられたからだよ!)
このワガママ王女様は、新聞を使って私の発言を逐一悪意たっぷりに切り取り捻じ曲げた。自分たちの『真実の愛w』を彩るため、記事に書かれた私は笑ってしまうほどに物語上の悪役そのものだった。残念ながら大衆にとっての真実とは、より信じたい方であるため、私は身の安全もあって表向きは勘当という体裁で王都から避難したのだ。
それはさておき、『産む機械』発言は奇しくも異世界と同じく独り歩きしていった。即ち、女性への蔑称として使われ出したのである。『こっちじゃシャレになってない』と言った勇者様は正しかった。異世界に帰らなかったのはこちらの問題が魔王だけではないと気付いたからだろう。
彼は生涯、虐げられる弱者を救う事に尽力した。ただ魔王を倒したから英雄ではないのだ。
「召喚できない勇者のスペアを産まなきゃいけないなんて、屈辱的だよなぁ。まあいざとなれば、勇者の子孫であるこの私が担ぎ出されるだろうから、勇者製造機に出番はないだろうがな」
「きゃーっ、ビスケット素敵よ! 子孫だなんてすごいすごい!」
申し訳程度の肩書きに陶酔するビスケット様と、その周りをぴょんぴょん跳ねながら煽りまくる王女。勇者の血筋自体は今となっては国中に散らばっているため、実はそれほどすごくもなかったりする。
(それでも一応は血を引いているんだから、発言を曲解しちゃダメでしょうに……御先祖様が泣いてるわよ)
ツッコみたくなるも時間の無駄かと溜息を吐き、私は二人に再度頭を下げる。
「ご存じでしょうけれど、『計画』のため神殿に向かわねばなりませんので、これで失礼させていただきます」
「ふふん。まあ頑張れ。私ほどではないが、立派な勇者候補になるといいな」
「お相手とも仲良くね。わたくしたちほどではなくても」
うっざ!!
廊下の角を曲がり、二人の姿が見えなくなったところで私は盛大に鼻を鳴らして足を早めた。
我々の世界は勇者様の故郷よりも数段劣った文化であったらしく、特に女性の地位に関してはそれが顕著であった。
『女性は産む機械、なんて言った政治家がいたが、こっちじゃシャレになってないんだな』
この発言については、小難しい歴史書ほど詳細が記されている。勇者様の故郷の国では女性は男性と同等の権利を有しており、失言した政治家は女性蔑視の責任で辞任したとされる。しかし一方で『地域によって子供を産む生産性の高い低いがある』と発言した別の政治家は国のトップになったとか。
思うに一連の発言は人口減少対策の中に挟まれたほんの軽口であり、もちろん女性を蔑視する意図もなかった。辞任に追い込まれたのは、単に情報媒体を牛耳った政敵に潰されたからだろう。
(何故そんな事が分かるかって? ……私も全く同じ手口でやられたからだよ!)
このワガママ王女様は、新聞を使って私の発言を逐一悪意たっぷりに切り取り捻じ曲げた。自分たちの『真実の愛w』を彩るため、記事に書かれた私は笑ってしまうほどに物語上の悪役そのものだった。残念ながら大衆にとっての真実とは、より信じたい方であるため、私は身の安全もあって表向きは勘当という体裁で王都から避難したのだ。
それはさておき、『産む機械』発言は奇しくも異世界と同じく独り歩きしていった。即ち、女性への蔑称として使われ出したのである。『こっちじゃシャレになってない』と言った勇者様は正しかった。異世界に帰らなかったのはこちらの問題が魔王だけではないと気付いたからだろう。
彼は生涯、虐げられる弱者を救う事に尽力した。ただ魔王を倒したから英雄ではないのだ。
「召喚できない勇者のスペアを産まなきゃいけないなんて、屈辱的だよなぁ。まあいざとなれば、勇者の子孫であるこの私が担ぎ出されるだろうから、勇者製造機に出番はないだろうがな」
「きゃーっ、ビスケット素敵よ! 子孫だなんてすごいすごい!」
申し訳程度の肩書きに陶酔するビスケット様と、その周りをぴょんぴょん跳ねながら煽りまくる王女。勇者の血筋自体は今となっては国中に散らばっているため、実はそれほどすごくもなかったりする。
(それでも一応は血を引いているんだから、発言を曲解しちゃダメでしょうに……御先祖様が泣いてるわよ)
ツッコみたくなるも時間の無駄かと溜息を吐き、私は二人に再度頭を下げる。
「ご存じでしょうけれど、『計画』のため神殿に向かわねばなりませんので、これで失礼させていただきます」
「ふふん。まあ頑張れ。私ほどではないが、立派な勇者候補になるといいな」
「お相手とも仲良くね。わたくしたちほどではなくても」
うっざ!!
廊下の角を曲がり、二人の姿が見えなくなったところで私は盛大に鼻を鳴らして足を早めた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
腹黒宰相との白い結婚
黎
恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる