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1:悪女帰還の噂
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「オーロラ=スペルビエよ。はるばる辺境からよくぞ戻ってきてくれた」
「いいえ、陛下。わたくしは伯爵家を勘当された身ですので、どうぞただの『オーロラ』と」
「すまぬ……娘が、要らぬ苦労を背負わせたな」
王女に嫌がらせをしたとして辺境の修道院へ追放されてから一年後、私オーロラは王都へと呼び戻されていた。
発端はアエス王女殿下による私の婚約者ビスケット=ルクセリン侯爵子息への横恋慕。頭が痛いのは権力につられたビスケット様が王女の企みに便乗し、私との婚約を破棄してしまった事だ。まあ相手は国家最高権力者の愛娘、逆らえるはずもなかったのだが、ご丁寧にも二人は周りにある事ない事吹聴して私を真実の愛を引き裂こうとする悪女に仕立て上げ、実家に圧力をかけて王都から追い出した。
まあ婚約自体は家同士の政略によるものだし、私自身国教の敬虔な信者なので別にいいのだが。
「神殿にはもう行ったのか?」
「まだですが、お話は伺っております。召喚が妨害され、失敗に終わったと……陛下、これはもしや」
「うむ、災厄は既に動き出していると見てよいだろう。保険としてかねてより準備しておいた、あの計画を実行に移す時がきたのだ……オーロラよ、引き受けてくれるな?」
「ご命令とあらば」
遠い昔、この地は魔王の脅威に晒されていた。それを封印したのは、異世界から召喚された勇者だったという。幼い頃から聞かせられてきた伝説だったが、私が王都を離れてから封印が解け始めたらしく、各地で少しずつ魔物の報告が上がっているそうだ。
王家は早急に宮廷魔術師たちに命じ、新たな勇者を召喚させようとしたのだが……
(何者かの妨害。公にはなっていないけど、明らかに魔王の手の者によるものよね)
異世界から召喚された勇者には、この世界の者が持ちえないギフトを賦与される。それで再び封印される事を恐れた魔王陣営が召喚時に妨害魔法を使ったと考えられる。
ただし、異世界人をこちらへ引き入れる方法は召喚だけではない。それが今回私が呼び戻された理由で――
「あら? 辺境でお務め中のはずのオーロラ嬢じゃありませんの。ひょっとしてわたくしを逆恨みして、王宮まで乗り込んできたのかしら。怖いわぁ」
思考が遮られるキンキン声に、面倒な相手に見つかったと舌打ちしたくなる。廊下の向こう側から仲睦まじげに腕を組んで歩いてくるのは、アエス王女と元婚約者のビスケット様だった。
「アエス様、ご安心ください。たとえオーロラが醜い復讐心で襲い掛かってきたとしても、わたくしの真実の愛が貴女をお護りいたします」
「うふふ、頼もしいわビスケット」
廊下の端に寄って頭を下げてやり過ごそうとしているのに、わざわざ覗き込んできて挑発する二人。暇なのかしら?
「久しぶりだな、オーロラ。こっちは順調に愛を育んでいるが、修道院ではしっかり反省しているか? まさかよっぽどの問題を起こして呼び出されたのではないだろうな」
「……いいえ、私は」
「なんてな、知ってるよ」
反省云々は貴方たちがでっち上げた冤罪の設定なんだけども、王女相手に無視するわけにもいかず、仕方なく口を開こうとすると、ビスケット様はニヤリと殴りたくなる表情を見せた。
「かつての婚約者の末路が、『勇者を産む機械』とはなぁ。ここまで哀れだと、追い込んだ側としてはさすがに心が痛むよ」
「いいえ、陛下。わたくしは伯爵家を勘当された身ですので、どうぞただの『オーロラ』と」
「すまぬ……娘が、要らぬ苦労を背負わせたな」
王女に嫌がらせをしたとして辺境の修道院へ追放されてから一年後、私オーロラは王都へと呼び戻されていた。
発端はアエス王女殿下による私の婚約者ビスケット=ルクセリン侯爵子息への横恋慕。頭が痛いのは権力につられたビスケット様が王女の企みに便乗し、私との婚約を破棄してしまった事だ。まあ相手は国家最高権力者の愛娘、逆らえるはずもなかったのだが、ご丁寧にも二人は周りにある事ない事吹聴して私を真実の愛を引き裂こうとする悪女に仕立て上げ、実家に圧力をかけて王都から追い出した。
まあ婚約自体は家同士の政略によるものだし、私自身国教の敬虔な信者なので別にいいのだが。
「神殿にはもう行ったのか?」
「まだですが、お話は伺っております。召喚が妨害され、失敗に終わったと……陛下、これはもしや」
「うむ、災厄は既に動き出していると見てよいだろう。保険としてかねてより準備しておいた、あの計画を実行に移す時がきたのだ……オーロラよ、引き受けてくれるな?」
「ご命令とあらば」
遠い昔、この地は魔王の脅威に晒されていた。それを封印したのは、異世界から召喚された勇者だったという。幼い頃から聞かせられてきた伝説だったが、私が王都を離れてから封印が解け始めたらしく、各地で少しずつ魔物の報告が上がっているそうだ。
王家は早急に宮廷魔術師たちに命じ、新たな勇者を召喚させようとしたのだが……
(何者かの妨害。公にはなっていないけど、明らかに魔王の手の者によるものよね)
異世界から召喚された勇者には、この世界の者が持ちえないギフトを賦与される。それで再び封印される事を恐れた魔王陣営が召喚時に妨害魔法を使ったと考えられる。
ただし、異世界人をこちらへ引き入れる方法は召喚だけではない。それが今回私が呼び戻された理由で――
「あら? 辺境でお務め中のはずのオーロラ嬢じゃありませんの。ひょっとしてわたくしを逆恨みして、王宮まで乗り込んできたのかしら。怖いわぁ」
思考が遮られるキンキン声に、面倒な相手に見つかったと舌打ちしたくなる。廊下の向こう側から仲睦まじげに腕を組んで歩いてくるのは、アエス王女と元婚約者のビスケット様だった。
「アエス様、ご安心ください。たとえオーロラが醜い復讐心で襲い掛かってきたとしても、わたくしの真実の愛が貴女をお護りいたします」
「うふふ、頼もしいわビスケット」
廊下の端に寄って頭を下げてやり過ごそうとしているのに、わざわざ覗き込んできて挑発する二人。暇なのかしら?
「久しぶりだな、オーロラ。こっちは順調に愛を育んでいるが、修道院ではしっかり反省しているか? まさかよっぽどの問題を起こして呼び出されたのではないだろうな」
「……いいえ、私は」
「なんてな、知ってるよ」
反省云々は貴方たちがでっち上げた冤罪の設定なんだけども、王女相手に無視するわけにもいかず、仕方なく口を開こうとすると、ビスケット様はニヤリと殴りたくなる表情を見せた。
「かつての婚約者の末路が、『勇者を産む機械』とはなぁ。ここまで哀れだと、追い込んだ側としてはさすがに心が痛むよ」
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