名乗るほどの者ではございませんが、チャーシューは大盛りです

白羽鳥(扇つくも)

文字の大きさ
上 下
17 / 47

ダンジョンは常連客③

しおりを挟む
 コールの様子を見に来た一同は、甲殻騎士の有り様を見て言葉を失った。関節部分に細長い金属の棒がぶっ刺され、そこからできた亀裂にコールがハサミを入れているのだ。銀色の鎧が、たかがハサミで切られている……あまりにも不条理な光景だった。

「な、何やってんだお前……」
「え? 何って、を切ってるんですけど?」
「そうじゃない! その鎧は、剣も魔法も通さないんだぞ! それをあっさり……一体どういう仕掛けなんだ!?」

 当たり前のように見たままを答えるコールに、薄ら寒いものを感じながら剣士は指を差す。コールはきょとんとして、の切り方を知りたいのだと思い、教える事にする。

「はい、そのままだと切れません。だからまず、この『蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具』でヒビを入れます」
「カニコウカク……なんだって?」
「あ、長ければ『蟹の身をほじくるやつ』でもいいです。で、隙間ができたらそこからこのカミバサミを差し込んで、ジョキジョキと……」

 コールの説明を聞いて、頭が痛くなってくる。蟹甲殻類……ほじくるやつはまだ関節という柔らかい部分に突き立てられるのは分かる。問題は、剣を防ぐほどの固さを誇る鎧をハサミで切れてしまっている点だ。

「ならそのハサミは、剣よりも強いと言うのか!?」
「そんなわけないじゃないですか。剣とハサミが戦ったら剣が勝つに決まってます。
でも適材適所って言うでしょ? カニバサミはカニなど甲殻類の殻を切るためにあるんです。そしてこいつも甲殻類……だったら切れないはずがない」

 そんなバカな!
 頭を抱えてしまった剣士の隣に、荷物持ちをしていた商人の男が顔を出す。興味深そうに器具や鎧のヒビを確かめていたが、感心したようにニヤッと笑みを浮かべる。

「なかなか凄いアイテムだな。だが、鎧を切ってどうするんだ?」
「魔法が効かないのは鎧だけでしょう? だからヒビを入れて隙間を作っとこうかと」
「後は俺たちがやるから、ちょっと器具を見せてもらってもいいか? あ、さっきのハンマーも」

 魔法使いに【火炎】を指示すると、商人は手を差し出した。特に断る理由もないので、コールも快く道具一式を渡しておく。

「それじゃ、血抜きの作業に戻ろうかな」
「血抜き?」
「さっきのグレートボア。あれだけ大型だと、冒険者ギルドでも高額で引き取ってくれそうでしょ? だったらなるべく早めに血抜きをした方が、臭みが残らないんじゃないかと思って」
「……何から何まで助かるよ」

 グレートボアの死体に駆け寄るコールを見送りながら、商人はコールから預かった道具一式を握りしめた。剣士が不安そうな顔で窺ってくる。

「どうだ? お前の【鑑定】は」
「驚いたな、どれも魔界の名工による逸品だ」
「魔界の名工!? そんな奴が、たかだか飲食店の調理器具を!? ……いや、実際あれで戦えてるんだから、そう見せかけた武器なのか」

 一体どんな経緯があって魔界人と知り合ったのかは謎だが、たまにこうした繋がりを持つ者はいたりする。直接魔界に行かずとも、気まぐれで人間の世界に住み着いた者との接触によって。

「いや鑑定によれば、調理器具や食器である事には違いない。このハンマーだって『肉叩き』と表示されてるしな……耐久値は高いが、普通のそれと違った効果が付与されているわけでもないんだ」
「どういう事なんだ……だったらその辺のハサミでも、甲殻騎士の鎧が切れるってのか……?」

 冒険者たちの目には、コールが得体の知れない者のように見えてきたのだった。

「さて、ここらで撤退するか」

 甲殻騎士を【火炎】で蒸し焼きにし、グレートボアも亜空間にアイテムを収納できる『マジックバッグ』に収納した後、商人が全員に声をかける。

「えーっ、まだ地下五階だぜ? これからだってのに」
「想定外の敵に手こずってるようじゃ、まだこの先は危険だ。結局は出前の坊主に助けてもらったしな」
「そうよ、リーダーの決定に従いなさいよ」

 リーダー?
 剣士を窘める魔法使いの台詞に、コールは首を傾げる。剣士がこのパーティーのリーダーじゃなかったのか。疑問が顔に出ていたらしく、剣士は苦笑いする。

「このパーティーは、おっさんがまとめ役なんだよ。年長者だし、活動費も管理できるからな」
「雑用係と言えば聞こえは悪いけど、そうした細かい配慮があるからこそ、私たちも遠慮なく戦いに集中できるの」
「リーダーはその界隈じゃ、ちょっとした実力者だしね」

 冒険者たちにそう教えられ、コールは大いに納得した。来店客の中にはたまに、雑用係を役立たずだとして追放を言い渡す連中がいる。店内で修羅場は迷惑なのでやめてほしいのだが。

「確かに『マジックバッグ』なんてレアアイテムは、簡単には手に入りませんよね。あったら配達も便利になるんですけど」
「魔界の名工と知り合いなら、作ってもらったらどうだ?」
「いや、名工と言ったって金物とか鍛冶屋の類だろ……魔道具とはまた違う」

 そうしてしばらく談笑していたが、帰りが遅くなると母に叱られる。空になった食器をおかもちに戻し、コールは冒険者一行と別れる事にした。

「では、またのご利用をお待ちしております」
「ああ、今度はぜひ店に寄らせてもらうよ」
「ご馳走様でした」
「カト……オーガスティンさんも、お元気で」
「じゃあねー♪」

 お辞儀をする二人に次々と声がかかり、最後にリーダーがコールに耳打ちしてきた。

「今回の礼に、グレートボアの肉を一部坊主に譲りたいんだが。冒険者ギルドに言って取っておいてもらうから、街に行く事があれば受け取ってきてくれ」
「いいんですか?」
「ラーメンの具材には使えそうにないがな」

 豪快に笑うと、バシン! と背中を叩き「しっかりな」と手を振った。背中を擦りながらも、コールはカトリシアを伴い魔法陣のある場所へ戻る。カトリシアは興奮したように話しかけてきた。

「コールってあんなに強かったのね! 女将さんが心配いらないって言っていたのも納得だわ。ねぇ、コールも冒険者に向いてるんじゃないかしら」
「俺が? まさか、剣も魔法も使えないのに無理無理」
「それはリーダーさんだって同じでしょう?」
「あのおっさ……お客様は【鑑定】が使える。それに『マジックバッグ』が持てるのは財力や冒険者としての経験がある証拠だ。俺にそんなスキルはない」

 その声色から諦めを感じ取ったカトリシアは、ムッとして頬を膨らませる。

「だけど実際、グレートボアも甲殻騎士もコールが倒してたじゃない。充分戦えてるわよ」
「倒してない、足止め! それに持ってきた道具だってお袋が用意したものだし、魔界の職人が作ったやつだぜ? あれがなきゃ俺だって大した事できねぇよ」

 あくまで自分には何の力もないと主張するコールは、手を引いているカトリシアが悲しそうな表情を向けている事に気付かなかった。

しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...