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11:拙者、取り引きをするでござる

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 一応、女からそこそこモテるのだが、俺個人がそうかと聞かれれば微妙なところだ。
 今までもたまにお誘いの声がかかった事があったが、見目麗しい王子のアレン殿下にお近付きになりたいとか、本人を落とせないから手近な俺で妥協しとこうとか、あるいはサムライという職業の珍しさから好奇心でってパターンがほとんどだった。

『あんなもの、ハニートラップに決まっている。分かっていると思うが引っかかるなよ』

 かつての主も怖い顔でそう釘を刺してきたし。
 だから今回も、そういう事だと認識しているが。

「あ、あのっ、本人の同意もなしにそんな、好きでもない人と……っ」
「ん? この男はマヤ殿の下僕だと自分で宣言したではないか。しかもサウーラ殺しという大罪を認めた上でだ。口止め料として一晩相手してもらう程度で済んだ事を感謝してもらいたいくらいだ」

 軽く言っているが、ビーウィにとってのドラゴンもまた神である事に間違いはない。処刑というほどでなくてもバレるわけにはいかず、ここに置いてもらい隠し切るためにはどんな理不尽な要求も飲まなくてはならない理屈は分かる。俺としては最悪、マヤ様さえ無事にジャングルを脱出できればそれでよかった。

「イェモン……アピス様のものにならないよね?」
「主……」

 赤く染まった目を潤ませて懇願してくるマヤ様。ああ、そんな顔されたら何でも聞いてあげたい!
 しかし従者が優先すべきは、たとえ命令に背く事になっても変わらないのだ。

「拙者が忠誠を誓うのは主のみ。他の誰にも、この魂は譲れないでござる」
「じゃあ……!」
「だからこそ、主のためなら屈強な輩に尻を捧げるぐらいの覚悟はしておりまする」

 いや本当、セクシー系美女のアピス酋長には失礼な話なんだが、マヤ様以外の異性には興味ない。実は女性以上にムキムキな同性から義兄弟の契り(※意味深)を迫られる方が多かったのだが、それと同じくらい御免蒙りたいのが正直なところ。
 ただし、今みたいにマヤ様を人質に取られるぐらいなら、己の貞操など喜んで捨ててやる。

 そのつもりで言ったのだが、マヤ様の瞳に溢れた涙がポロリと零れ落ちた。

「バカあぁっ!!」
「いてっ!」

 一瞬火花が飛んだかと思えば、顔がヒリヒリ痛み出す。止める間もなく、マヤ様が飛び出して行ってしまった。

「主っ!!」
「配下の者に追わせているから、心配いたすな。用意した宿に連れて行くよう指示してある。……それにしても、もう少し言い様はなかったのか?」

 引っ掻き回しておいて、張本人は扇を広げて踏ん反り返っている。ムッとしながらも俺は不貞腐れたように答えた。

「実際、敵にハニートラップを仕掛けなければいけない状況だって出てくる……相手に限らずな」
「覚悟決まり過ぎだろう。まったく……だが、貴様の事がだんだん見えてきたぞ。魔物の根城に近いライ村に、王族の血を引く勇者御一行が来たという情報があった。そやつらが貴様の以前の主か」
「追放されたけどな」

 そうかそうか、と満足げに頷くと、アピス酋長はパチンと扇を閉じた。悪巧みをしているような表情になっている。

「ならば、ビーウィ集落からも依頼を出そうじゃないか。それをもって口止め料とするのはどうだ?」

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