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 ようやく鼻血の止まった夜羽をベッドの上で正座させ、私たちは向き合っていた。ティッシュを鼻に詰めた間抜けな姿で、夜羽は縮こまっている。

「あの、ミトちゃん……?」
「……」
「お、怒ってるよね? ご、ごめんなさ……」
「聞きたくない」

 謝罪を遮ると、じわっと涙ぐんで俯かれる。これだから嫌だって言ったのよ。溜息を吐くと、ビクッと身を震わせていた。

「怒ってるのは、あんたでしょ? さっき自分でそう言ってたじゃない。忘れたの?」
「わ、忘れてない、けど……あれは」
「自分じゃない、って言い訳は聞かないよ。まあ私もそう思いたいけど、少なからずそういう気持ちはあるって事よね? だからあんな嫌がらせを」
「嫌がらせじゃない!」

 夜羽が珍しく声を荒げる。が、直後に「……ごめん」とまた謝るので何とも決まらなかった。話が進まないので私は勝手に整理する事にする。

「謝るのは私の方だよ。でも夜羽、あんたが何に怒ってるのかは、言ってくれなきゃ分かんない。そりゃ私たち幼馴染みだけどさ。結構隠し事だってしてた訳だし。
気に入らない事があるんなら、ちゃんと教えて? 直すから」
「き、気に入らないって言うか……そうじゃなくて」

 促されてしばらくもごもご言っているのを辛抱強く待つ。ここで怒鳴ったら萎縮して喋れなくなる。夜羽があのサングラスに頼りたくなる気持ちが分かってきた……別人になり切らないと、何をするにも勇気が持てないのだろう。

「ミトちゃんが心配してついてきてくれたの、鶴戯に聞いたよ。でも木前田先輩からキ、キスされたの見られて、怒って帰っちゃったって聞いて……悲しかった。
僕だって嫌だったし、誤解されたくなかったから」
「それは……悪かったわよ。何か気分悪くて見たくなかったから」
「それで……ストーカーの人たちと喧嘩になって何とか勝って戻ってきたら、ミトちゃんが僕のベッドに寝てるし」

 ここでカアッと赤面しながら夜羽は目を逸らした。直前までこのベッドに押し倒して、ブラに手入れてきたヤツとは思えないんだけど。

「……え、それだけ? ここで転寝なんて、いつもの事じゃん」
「い、いつもやめてほしいって思ってたんだよ! ミトちゃん中学生になっても一緒にお風呂入ろうとするし、僕の前で平気で着替えるし、部屋に勝手に入るし……
幼馴染みだからって、普通ここまでしないよ。ミトちゃん女の子でしょ!?」
「失礼な……ついさっき見といて男だとでも思ってたの?」
「う……っ僕を男と思ってないのはミトちゃんの方だよ……」

 鼻を押さえて恨めしげな声を出される。まあ、言われてみれば私の行動ってデリカシーなかったな。夜羽とは完全に姉弟の感覚でいたから。男と思ってない……か。夜羽を大好きな事には変わりないんだけど、それでも嫌だったのかな。

「分かった、気を付けるよ。で? 嫌がらせじゃないんなら、あれはあんたがしたくてしたって事?」
「ふぇっ!?」
「男として見てほしいのは分かったよ。それじゃ、反省を促すためにしたの? それともあんた、私の事好きなの?」

 直球で突っ込んでしまう私は、やっぱりデリカシーがないのかもしれない。

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