天使が来たりてラッパ吹く

白羽鳥(扇つくも)

文字の大きさ
上 下
27 / 49

26

しおりを挟む
「私の言いたいのはそういう……ひゃあっ!」

 服の中に手を入れられ、直接肌に触れられて変な声が上がってしまう。首に顔を埋めた夜羽から笑う気配がした。こん畜生!

「あんた、悪ふざけもいい加減にしなさいよ。私は怒ってんのよ?」
「そうか? 俺の部屋の、俺のベッドで女が寝ていたら、誰だって意味に取るのが普通だ。俺とお前、どっちがふざけてんだよ?」
「普通って何よ!? こんなの、今更……」

 カッとなって押し退けようとするが、びくともしないどころか両手を頭上でまとめ上げられてしまう。頭に血が上ったのは、図星を突かれたからだ。おかしいのは……私の方だ。
 だって、夜羽の部屋にしょっちゅう上がり込んで、漫画読んだりゲームしたり……今みたいにベッドで転寝する事もよくあった。もっと小さい頃はお泊りで一緒に眠った事も。
 夜羽は何も言わなかった。だってそうでしょ? 私たちは生まれた時から一緒にいて、姉弟みたいなものだったから。

「なあ、俺だって気が立ってんだよ。あいつら片付けたのはいいけど、花火ってババアに付き纏われるわ、そのストーカーに数人がかりで襲われるわ……しかも鶴戯に聞いたけど、お前あの場にいたらしいじゃねえか。何で帰った?」
「ババアって……一歳違いでしょ? しかも美人だし、キスされて満更でもなさそうだったじゃん」

 あれからまたごたごたしていたらしい。顔に所々青痣があるのは、そういう訳か。心配でもあったけど、それよりちゃんと全部解決して帰ってこれたのかが気になった。見透かされたのか、夜羽はニヤッと笑う。

「バーカ、あんなヤニ臭ぇババアにキスされて嬉しい訳ねえだろ。おまけに角材持った金魚の糞付きだぞ。めんどくせえから全員シメた後おっさんに押し付けてきた。二度と関わってくんなってな。
……妬いてたんだろ?」
「別に……」
「俺は結構傷付いてたんだぜ。好きでもない女にくっつかれるのも、勝手に勘違いされんのも。どうせお前の事だから、口で言っても信じないだろ」

 そんなつもりじゃ、と開きかけた口は、夜羽の唇に飲み込まれた。突然の事に、身を震わせる。

 私は、妬いていた……?

 私は何がしたかったんだろう。単に心配だったから、危険に身を晒す夜羽をほっとけなくて、こっそり様子を見に行ったはず。なのに他の女に纏わり付かれる夜羽を見ているのが嫌で、途中で帰ってきてしまった。
 唇を抉じ開けて、舌が割り込んでくる。お子様のキスじゃない。血の味がして、一瞬気持ち悪さから顔を背けようとしたけれど、サングラスの奥の、縋るような眼差しに迷いが出てしまった。

 このままずるずる行ってしまえば、私たちは幼馴染みじゃいられなくなる。私は良くても……夜羽はどうなのだろう。サングラスを外しても、今から起きる事を受け止め切れるの?
 今にも泣き出しそうな、罪悪感に満ちた表情が思い浮かぶ。そんな顔をしないで……私から離れてしまうくらいなら……

「いやっ!」
「っ!!」

 ゴッと頭突きをかますと、僅かにサングラスがずれた。惜しい、もう少しだったのに。さらに私の動きを封じようと、膝が足の間に入ってくる。未知の領域に踏み込まれる恐怖で身が竦んだ。

「やめて夜羽! あんた絶対後悔して自分を責めるでしょ」
「お前のせいだろ。昔から俺を振り回して、そのくせ俺の事なんて何とも思ってないって面しやがって。俺がどんな気持ちでいたのか、少しは思い知れ」

 夜羽の言葉に、抵抗が止まった。その指摘は、思いもかけなかった。

(私が、夜羽を傷付けてた……?)

 泣き虫でいじめられっ子で、気弱な夜羽。いつも一緒にいて、庇ってあげているつもりになっていた。夜羽には私がいないとダメなんだと。だけど……今の夜羽になってしまったのは、私がいたから?

しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

処理中です...