12 / 49
11
しおりを挟む
「坊ちゃん!!」
その時、教室に先生を連れて炎谷さんが駆け込んできた。
「え……どうして炎谷さんが?」
「僕を助けてくれたの、鶴戯なんだ。牧神先輩が騙してたって証拠を先輩たちに見せて説得してくれて。美酉ちゃんの場所もGPSで教えてくれたよ」
証拠? GPS? いつの間に……GPSの方はスマホなんだろうけど、夜羽はともかくお隣さんの私の分まで登録してあるって事? お母さんから頼まれでもしたのかしら……
そんな炎谷さんは、私の物言いたげな視線に二コリと笑って返した。
「先生を呼んでおきましたよ。お二人は今日はもう帰宅していいそうです」
「大丈夫か、輿水?」
「はい先生。でも、私は別に……あれっ?」
平気です、と立ち上がろうとして、ガクンと足の力が抜ける。どうしたんだろう、震えが止まらない。
「無理をするな。炎谷さんから事情は聞いている。こいつらの事も先生たちが何とかするから、もう帰りなさい。角笛、送っていってやれ」
「グスッ、はい……」
「美酉、そうしなよ。みんなには私らが説明しとくからさ」
「うん……」
萌に立たせてもらうと、私は戸惑いながらもヒックヒック言ってる夜羽に掴まりながら、炎谷さんの車まで連れて行ってもらった。発車する直前、琴亀君から鞄を持ってきてもらう。
「ありがと……あとよろしくね」
「ああ。詳しい事はまた今度聞かせろよ。特にこいつ」
車内で蹲っている夜羽を指差した琴亀君は、私に囁く。
「お前が思ってるような弱虫じゃなさそうだぞ」
「うん、まあ……どうなんだろうね、そこんとこ?」
何とも言えずに苦笑いで返すと、二人に手を振り、夜羽の家に向かった。何故うちじゃないかと言えば、聞きたい事があったからだ。
△▼△▼△▼△▼
「なに、ここ……」
リビングでお茶を一杯飲んでから連れて来られたのは、絶対に入るなと言われていた地下室だった。入るも何も鍵がかかっていたし、夜羽は「こわいところ」としか言ってくれなくて近寄ろうともしなかったから、お化けでも出るのかと思ってたけど。
そこは、一言で言えばスポーツジムだった。ルームランナーにフィットネスバイクなんて足を鍛えるものから、様々な筋トレマシンの他、何故かゲーセンに置いてあるようなパンチングマシンまで。
先ほど夜羽が見せた大立ち回りを思い出す。いくら性格が変わったからって、いきなりあそこまでの力が出せる訳ない。
「もしかして……ここでずっと鍛えてたの? 全然知らなかったんだけど」
「き、鍛えてたなんてそんな! 鶴戯からは、健康のためだって言われて軽くやってただけだよ! パンチングマシンも、前日よりちょっとだけ超えればそれでいいって……」
「いつから?」
「うーん……中学入ってすぐかな」
ちょっとずつでも、四年間毎日やってれば知らない間に力ついててもおかしくないのか……
「それだけではありませんよ。坊ちゃんはこれも毎日お使いになられています」
そう言って渡されたのは、夜羽の寝室に置いてある玩具だった。クマちゃんのぬいぐるみにお姫様のお人形。気弱なだけじゃなくて、乙女チックなのよね……ん?
「な、何これ!?」
クマちゃんの手を何気なく握ったところ、妙に固い。それにこのお人形、お姫様の髪から足首を繋げるようにリボンが結ばれてるんだけど、思いっきり引っ張っても取れない……と言うか、リボンじゃない。
「ぬいぐるみの手には、ハンドグリップが入れてあります。毎日握手してあげれば、握力もつきますよ。あと人形は改造したブルワーカーです」
「し、知らなかった……そういう玩具なのかと」
青ざめた顔で夜羽が呟く。他にも炎谷さんは夜羽の靴や鞄に重りを仕込んだり、ラジオ体操と偽って自衛隊体操をやらせたりと、本人の知らぬ間に鍛えさせていたようだ。いや、気付けよ夜羽も……
「ぬ、炎谷さん……一体夜羽をどうしたいの?」
「もちろん、ご自分に自信のない坊ちゃんに、真の実力に気付いていただくためです。坊ちゃんのお父上……『赤眼のミシェル』の二代目として」
また出たよ『赤眼のミシェル』……え、夜羽のお父さん!?
そんな中二臭いネーミングの痛々しい人だったの??
その時、教室に先生を連れて炎谷さんが駆け込んできた。
「え……どうして炎谷さんが?」
「僕を助けてくれたの、鶴戯なんだ。牧神先輩が騙してたって証拠を先輩たちに見せて説得してくれて。美酉ちゃんの場所もGPSで教えてくれたよ」
証拠? GPS? いつの間に……GPSの方はスマホなんだろうけど、夜羽はともかくお隣さんの私の分まで登録してあるって事? お母さんから頼まれでもしたのかしら……
そんな炎谷さんは、私の物言いたげな視線に二コリと笑って返した。
「先生を呼んでおきましたよ。お二人は今日はもう帰宅していいそうです」
「大丈夫か、輿水?」
「はい先生。でも、私は別に……あれっ?」
平気です、と立ち上がろうとして、ガクンと足の力が抜ける。どうしたんだろう、震えが止まらない。
「無理をするな。炎谷さんから事情は聞いている。こいつらの事も先生たちが何とかするから、もう帰りなさい。角笛、送っていってやれ」
「グスッ、はい……」
「美酉、そうしなよ。みんなには私らが説明しとくからさ」
「うん……」
萌に立たせてもらうと、私は戸惑いながらもヒックヒック言ってる夜羽に掴まりながら、炎谷さんの車まで連れて行ってもらった。発車する直前、琴亀君から鞄を持ってきてもらう。
「ありがと……あとよろしくね」
「ああ。詳しい事はまた今度聞かせろよ。特にこいつ」
車内で蹲っている夜羽を指差した琴亀君は、私に囁く。
「お前が思ってるような弱虫じゃなさそうだぞ」
「うん、まあ……どうなんだろうね、そこんとこ?」
何とも言えずに苦笑いで返すと、二人に手を振り、夜羽の家に向かった。何故うちじゃないかと言えば、聞きたい事があったからだ。
△▼△▼△▼△▼
「なに、ここ……」
リビングでお茶を一杯飲んでから連れて来られたのは、絶対に入るなと言われていた地下室だった。入るも何も鍵がかかっていたし、夜羽は「こわいところ」としか言ってくれなくて近寄ろうともしなかったから、お化けでも出るのかと思ってたけど。
そこは、一言で言えばスポーツジムだった。ルームランナーにフィットネスバイクなんて足を鍛えるものから、様々な筋トレマシンの他、何故かゲーセンに置いてあるようなパンチングマシンまで。
先ほど夜羽が見せた大立ち回りを思い出す。いくら性格が変わったからって、いきなりあそこまでの力が出せる訳ない。
「もしかして……ここでずっと鍛えてたの? 全然知らなかったんだけど」
「き、鍛えてたなんてそんな! 鶴戯からは、健康のためだって言われて軽くやってただけだよ! パンチングマシンも、前日よりちょっとだけ超えればそれでいいって……」
「いつから?」
「うーん……中学入ってすぐかな」
ちょっとずつでも、四年間毎日やってれば知らない間に力ついててもおかしくないのか……
「それだけではありませんよ。坊ちゃんはこれも毎日お使いになられています」
そう言って渡されたのは、夜羽の寝室に置いてある玩具だった。クマちゃんのぬいぐるみにお姫様のお人形。気弱なだけじゃなくて、乙女チックなのよね……ん?
「な、何これ!?」
クマちゃんの手を何気なく握ったところ、妙に固い。それにこのお人形、お姫様の髪から足首を繋げるようにリボンが結ばれてるんだけど、思いっきり引っ張っても取れない……と言うか、リボンじゃない。
「ぬいぐるみの手には、ハンドグリップが入れてあります。毎日握手してあげれば、握力もつきますよ。あと人形は改造したブルワーカーです」
「し、知らなかった……そういう玩具なのかと」
青ざめた顔で夜羽が呟く。他にも炎谷さんは夜羽の靴や鞄に重りを仕込んだり、ラジオ体操と偽って自衛隊体操をやらせたりと、本人の知らぬ間に鍛えさせていたようだ。いや、気付けよ夜羽も……
「ぬ、炎谷さん……一体夜羽をどうしたいの?」
「もちろん、ご自分に自信のない坊ちゃんに、真の実力に気付いていただくためです。坊ちゃんのお父上……『赤眼のミシェル』の二代目として」
また出たよ『赤眼のミシェル』……え、夜羽のお父さん!?
そんな中二臭いネーミングの痛々しい人だったの??
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!
電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。
しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。
「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」
朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。
そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる!
――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。
そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。
二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
アラフォーだから君とはムリ
天野アンジェラ
恋愛
38歳、既に恋愛に対して冷静になってしまっている優子。
18の出会いから優子を諦めきれないままの26歳、亮弥。
熱量の差を埋められない二人がたどり着く結末とは…?
***
優子と亮弥の交互視点で話が進みます。視点の切り替わりは読めばわかるようになっています。
1~3巻を1本にまとめて掲載、全部で34万字くらいあります。
2018年の小説なので、序盤の「8年前」は2010年くらいの時代感でお読みいただければ幸いです。
3巻の表紙に変えました。
2月22日完結しました。最後までおつき合いありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる