異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

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タイムリープ編(完結編)

188 仲良し四人組

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「竜神!竜神! 早く!早く!」

 王女アリスは、湖に向かって元気よく走りだした。

「湖に入っちゃダメですよ、王女様! 湖は冷たいから危ないんです!」
「アリスだってば~っ!」
「アリスさま~っ!」

 走りながらも、ちょっと横を向いて訂正してくる王女様。

「きゃ~、冷たくて気持ちいいっ!」

 あ~っ、もう入ってるし!

 夏も暑くなって来たので、森の湖にアリスを招待したのだ。
 今日も、いつものようにアリスの部屋で遊んでいたのだが、あまり暑くてアリスがぐずりだした。それで、この森の湖に涼みに来ようと提案してみたのだ。

 この湖は流れがあり水が冷たくて気持ちいい。
 ちょっとした砂浜もあって遊ぶのにちょうどいいのだ。冷たい水なので気を付ける必要があるが、砂浜だけなら大丈夫だろうということで許可を貰って連れて来た。

 湖畔のピクニックだ。

「リュウ、ちゃんと王女様を見てろよ」エリス様から声が掛かる。
「そうなのだ、我らは食事の用意があるのだ」ウリス様が食事の用意?

 エリス様とウリス様が食事の用意をすると言う。
 ホントに食事の用意なんて出来るのかな? 一応たまごサンドの作り方は教えたが、ちょっと心配。まぁ、近くにエリス様のアトリエがあるのでダメでも何かあるだろう。

「何か言ったか少年?」勘のいいウリス様が突っ込んできた。
「大丈夫です。あ、アリス様そっち危ないって」

 アリスが深みに向かいそうだったので声を掛けた。

「平気、へいき~っ。すご~い、本当に真っ白い砂ね!」

 確かに真っ白だった。これ、神輝石が出来そうだな。

「冷たいから、足首までですよ。あ、危ないからサンダル脱いじゃだめです」
「わかってるってば~」

 いや、それを分かってないって言うんです。
 魚も泳いでいるので、気を許すと子供は取ろうとするから危ない。

「ちょっと、アリス様、魚を取ろうとしちゃだめです! 絶対、取れないから」
「じゃぁ、競争する?」

 あ、これダメなパターンだ。

「ダメです。アリス様に何かあったら、俺、泣いちゃいます」

 これは、アリスに言うこと聞かせるときの俺の殺し文句だ。

「泣いちゃうの?」アリスは思わず振り向いて言った。
「うん。泣いちゃう」

「竜神は、私の事が大好きなのね?」
「そうですよ。アリス様がとっても大切なんです」

「そうなんだ。へぇ~」

 アリスは、面白そうにして俺の顔を覗き込んで言った。

「じゃ、私が竜神のお嫁さんになってあげる!」

 あ、これマズいパターンだ。

「えっ、いや、そんなにしてくれなくても」
「なってあげるったら、なってあげるの!」

 そういや、もう長く居れないんだった。居れないと言うか、なんというか……。

「どうしたの? 私じゃ嫌?」アリスは不安そうに言う。
「そんなことありません。とっても幸せです」
「そう! そうよね! 良かった! 私も幸せ~!」

 アリスの笑顔が妙に神々しいのは、木漏れ日のせいだけじゃないと思う。

「おおい、竜神! ごはんだよ!」えっ? エリス様まで竜神って言うんですか?

 それから、湖畔の楽しいお食事会が始まった。

  *  *  *

 実は、その日の明け方に、未来からメッセージ誘導が届いた。

ー カリスです。すみません、恐らく人間の体になって機能拡張が使えなくなったのだと思います。このため、過去で過ごした記憶は消すことができませんが、それでも大丈夫です。未来の記憶も放っておけば忘れますので問題ありません。それで、元通りです。
ー なお、人間の体でも動く機能拡張を送りましたが、これは使わないほうがいいと思います。未来のあなたは既に目覚めていますので安心してください。これ以降未来へメッセージ誘導を送る必要はありません。以上です。

 つまり、未来の記憶が無くなれば、俺は普通の人間になるということらしい。

ー イリス様見てますか?
ー ええ、女神カリスもここに居て、今のメッセージを伝えたところです。
ー どうやら、未来の記憶が消えた時点で普通の人間に戻れるということらしいです。
ー よくわからないけど。そのままなの?
ー はい、未来から来たという記憶は残るでしょうが、未来の記憶自体は忘れます。
ー なるほど。わかりました。
ー もう、あまり役に立たないので、使徒は解除して貰ってもいいですよ?
ー いえ、そのままでいいと思います。普通に召喚した状態よりいいように思いますし。
ー そうですか。わかりました。
ー アリス達には何か言っておく?
ー えっ? 未来のことは言っても仕方ないし、混乱するだけでしょう?
ー そうかも知れないわね。

 実際、少しずつ未来の記憶は薄れていっていた。たぶん、説明も出来なくなる。

  *  *  *

「竜神の考えた、このサンドイッチ美味しい! さすがに竜神ね!」

 そう言って、アリスは口いっぱいに頬張って食べている。
 どの辺が竜神なんだろう? 竜神ってコックなのか?

「竜神サンドと呼んでください」

 ただの卵サンドだけど。マヨネーズを作るのが普通は難しいかも。神力で簡単だったけど。

「ホントに美味しいよ。王城のコックになれるよ竜神!」とアリス。いや、なりたくないです。

「うむ。我もこれは初めてなのである。もっとよこすと運気が上昇するのである」ウリス様も、アリス以上に気に入った模様。

「はいはい。沢山食べてくださいね、ウリス様」
「おお、中々分かっておるな。少年」
「少年じゃなくて、竜神!」アリスが突っ込む。いや、それも違うんだが。

「お~い、竜神! こっちのサンドイッチも運んでくれ」

 簡易キッチンからエリス様が呼んだ。

「なぁ、リュウ。お前は色んな事を知ってるが本当に竜神じゃないよな?」

 俺が出来上がったサンドイッチを籠に移していると、料理の片付けをしながらエリス様が言った。

「えっ? どうしてですか?」なんで、そんなことを言うんだろう?

「実はな、突然現れるのを見てしまったのだ」エリス様はちょっと真剣な顔で言った。

 どうやら、ウリス様に会って転移で戻った時の事のようだ。ずっと言えずにいたようだ。

「そうですか。竜神ではありません。実は俺、未来から来ました。けど、もうすぐ帰る予定です」
「なに? 未来から?」

 エリス様は、ちょっと絶句して俺を見つめていた。

「そうなのか。いなくなるのか」
「ああ、いえ、このままです。未来の記憶が消えるだけです」
「うん? 記憶が消える?」

 しばらくエリス様は考えるポーズで固まった。

「そうなると、今の人間になると言うことか?」
「そうですね。ああ、ちょっと普通と違う人間ですけど」
「そうだな」

 転移できるからな。使徒だし。

「悪いもので無ければいい」
「はい。全く悪くない筈です」

 女神様の使徒なので。

ー そこまで教えたなら使徒だと教えてもいいわよ?

 そこで、イリス様から神力リンクで声が届いた。

ー いいんですか? 分かりました。

「実は俺、女神イリス様の使徒なんです」
「……」

 さすがに、今度は思いっきり疑いの眼差しで俺を見るエリス様。

「いま、女神イリス様から教えてもいいと許可を貰いました」
「ほう。何故、私に教えてもいいのだろう?」
「そういう人だからです」
「そうなのか」

ー 他の二人にも教えていいわよ。
ー えっ? 分かりました。

 その後、新しいサンドイッチと一緒に、俺の話をみんなに披露した。

「へぇ~、さすがは竜神ね!」

 話を聞いて素直に信じるアリス。

「さすがに、我も驚いたのである! しかし、あのような技を見せられては信じるしかないのである」とウリス様。

 そう。何か証拠を見せろというので、ちょっと神力を使って浮いて見せたのだ。

「ホントに! リュウって怖い!」とエリス様。

 あれ? それって、最初の……まぁ、いいか。

「じゃ、私たち仲良し四人組は最強ってことね!」

 あれ? 『仲良し四人組』って、俺が入ってたのかよ!

 『女神イリス様と仲良し四人組』でした。
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