異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

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惑星フォトス編

173 惑星フォトス・天地創造1

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 惑星フォトスは、とてつもない規模の問題を抱えていることが明確になった。
 それは妖精族が逃げ出した理由でもある。

 その問題とは、ずばり惑星フォトスにある大量の水だった。
 これを何とかできなければ、快適な住環境を確保することなどできない。もちろん、リゾートどころの話ではない。最悪、島が全てなくなってしまう可能性すらある。

 水をなんとか制御することができれば、リゾートだろうがなんだろうが自由自在だ。もちろん未来の惑星モトスも安泰となる。

 幸い、現状は危機的な状況にあるわけではない。
 環境が安定している今なら危機感なく解決策を講じることも出来るし、リゾートとして利用することも不可能ではない。
 また、利用価値があればあるほど、神界からも地上界からも開発を支持してもらえるだろう。

 こう考えると、惑星フォトスの水対策は『リゾート開発』の一部として発表するのがいいと思った。
 どのみち、放置する選択肢はない。

 惑星モトスに帰還するにあたり、俺はちょっと覚悟した。

 もちろん、惑星モトスの未来に於ける予想は伏せている。これはまだ仮説でしかないからな。

  *  *  *

 惑星モトスに帰ってみて分かったことだが、今回の惑星フォトスの調査は既に世界中で大騒ぎになっていた。

 初めての宇宙旅行、初めての宇宙遊泳、初めての他の惑星。これを全部ライブ配信したからだ。
 それだけでも大騒ぎなのに、自分たちの姉妹星が日中は美しく青く輝き、夜は幻想的に光る『お伽の国の世界』だと分かったのだ。
 騒がないほうが可笑しい。

 熱狂の原因は他にもある。世はまさに旅行ブームなのだ。
 俺たちがやった南北大陸や南方諸国訪問の影響で『旅行』という概念が一般化したのだが、同時に生活に余裕も出てきていた。
 人々は、余暇を旅行という楽しみのために使いたいと思うようになっていた。

 こうして盛り上がった観光旅行ブームだが、さらに惑星探検旅行も将来の夢旅行として追加されたのだ。ヒートアップするのも分かる。
 実際に俺たちが訪問した映像を見たのだから、すぐにでも行けると思うだろう。

「おい、聞いたか? ツルカメ商会が惑星フォトス観光を手がけるらしいぜ」
「なに? ホントか? けど、惑星フォトスに宿屋なんて無いだろ。どうするんだ?」
「そこはお前、豪華宇宙船だよ。ゆったりと個室の窓から光る海を眺めるんだろう」
「お~っ、なるほど。そりゃ凄いな。そうすっと、海底探検も出来るかもなっ! 光る魚だぜっ!」
「いや、ヒカリもんは好きじゃねぇ」

 ちげ~よ。

  *  *  *

 世界の反響と調査隊の結果を受けて、俺は惑星フォトス・開発計画を立てることにした。
 表向きはリゾート開発計画だが、もちろん本命は危機脱出計画だ。
 リゾート開発にあたり、じゃまな海の水を排除するという話にはなっているが。

「で、この星の水をどうするかだな?」

 王城の執務室に関係する女神を呼んで協議していた。
 もちろん、神界向けリゾート開発についてではない。既にルセ島でうまくいっているので、それはどうとでも出来る。

「多すぎる海水は凍らせて極地に積んでおくか?」

 惑星フォトスは陸地が少ないが、ちょうど北極付近に島があった。

「それでは、全く足りません」と女神セリス。
「だよな」

 少なくとも十メートル程度は海水面を下げないと効果がないと思われる。
 ほぼ惑星の表面積で十メートル下げるとなったら、取り除く海水の量は途方もない量になる。
 そんなものを、どこかに積んでおくなど不可能だ。

「やるとしたら、完全に惑星外に排出するしかありません」とセリス。当然だな。

「排出って、衛星軌道上に打ち上げるとか?」
「いえ、それでは、戻ってくる可能性があります。重力圏から離脱させる必要があるでしょう」
「そうか。次に、またどこかの水の天体と遭遇するかも知れないからな」

「そうですね。それについては全く計算できませんが。その勢い以上に排出する性能の装置がほしいところです」

「丸めて凍らせて放り出すか?」もちろん、冗談のつもりだった。
「いいですね」とセリス。あれっ?
「いいんじゃない?」と女神シリス。
「それで行きましょう」と女神カリス。

 みなさん、正気でしょうか?

「いつものリュウジね」と女神スリスまで。

「いや、それどうすんだよ。真空膜フィールドにでも入れるのか?」
「いいですね」と女神セリス。えっ?
「いいんじゃない?」と女神シリス。
「それで行きましょう」と女神カリス。

 いやいや。

「それ、凍らせて、打ち上げるんだぞ!」
「そうですね」と女神セリス。
「いいじゃない」と女神シリス。
「それがいいでしょう」と女神カリス。

 あれっ? どっかで聞いたことあるような?

「ほとんど、飛行船の外周エンジンですね」と涼しい顔の女神カリス。
「そうですね」
「やっぱりね」と女神スリス。何その合いの手。

 ほとんど、『自動海水打ち上げシステム』と言えるものが出来てしまっていた。

「いや、でも打ち上げができても、途方もない量だぞ」
「問題は、そこよね」と女神セリス。
「大変な量だよね」と女神シリス。
「巨大な凍らせた海水を打ち上げるとして、あとはその装置を何台用意するかという問題ですね」と女神カリス。

 えっ? そうなのか? それで出来るのか?

「分かりました。では、打ち上げ魔道具の製造はお任せください」と女神キリス。
「軌道計算はもちろん私が」と女神セリス。
「環境への影響については私が」と女神シリス。
「じゃ、浮上する大陸の見積もりは私が」と女神スリス。

 おっ? 俺の女神様、最強だな!

「これって、国造りの神話っぽいな」
「そうよね。天地創造よね。私、どこに何を作るか計画しようかな」と女神アリス。
「私も、祝福を与えます」とイリス様。
「我も、確率を調整するのだ!」とウリス様。
「美しい星にする!」とエリス様。

「やっぱり、俺のチーム凄い」

「いえいえ、エネルギー革命したからこそできる力技です」と女神カリス。

 そうだけど、凄い。
 頼もしい限りだ。

 こうして、『天地創造プロジェクト』が開始された。
 設計目標は、ほぼ一年で十メートル海面が低下する予定だそうだ。

  *  *  *

 惑星フォトス・リゾート開発に先だって、まずは『自動海水打ち上げシステム』の建設が始まった。
 『自動海水打ち上げシステム』はマッハ神魔動飛行船に積み洋上で稼働するシステムだ。海面が下がっても洋上にあって、ひたすら氷塊を虚空に打ち上げ続ける船だからだ。

 『天地創造プロジェクト』は、このシステムが正常に稼働するかどうかにかかっている。俺は全力で開発を支援した。

 運用テストの場所はストーン遺跡沖の海上とした。理由は、二重惑星の軌道に打ち上げるのに適しているからだ。
 建設にあたっては、もちろんランティスとスペルズ兄弟に参加して貰った。基本が神魔動外周エンジンなので彼らが適任だ。設計は女神キリスで、女神カリスも支援している。

「こんな、山のような氷の球体を空高く打ち上げるなんて、さすがに意味が分かりませんでした」とランティス。

 まぁ、普通はこんなものは作らないからな。

「私も、こんなものは初めて見ました」と女神セリス。
「でも、面白かった! 真空膜フィールドで海水を包み込んで凍らせるとか普通考えませんよ」とランティス。

 真空膜フィールドは魔法瓶みたいなもんだからな。光を遮れば溶けないし、そのまま加速できる。ものすごいスピードで打ち上げられる。

 『自動海水打ち上げシステム』はあっという間に完成し、今日はいよいよ運用テストを実施することになった。

 既に海面下に何十もの凍った球体を真空膜フィールドがホールドしている。
 これを、軌道上にマシンガンのように打ち上げるのだ。

 単体テストでは、氷の球体の発射も問題なかったらしい。脱出速度に到達するまでフィールドが延長されるところがポイントらしい。

「では、運用実験開始します!」ランティスが宣言した。

「発射開始!」

 ランティスの合図と同時に真空膜フィールドに包まれた氷塊が次々と打ち上げられていく。マッハ神魔動飛行船の周りに作られた氷塊はリボルバーの弾倉のように回転し、周りの空気を震わせて超加速され急上昇していった。
 その様子は、まるで飛行船の周りにドーナツ状の氷の輪ができたように見えた。
 ドーナツの輪から、空高くどこまでも氷の糸が昇っていった。

「あれで、本当に落ちてこないんですか?」とスペルズは信じられない顔で言った。

「ふふふ。大丈夫です」と女神セリス。
「この星の周りを回るんですよね?」
「ええ。回りながら遠ざかっていきます。それと少しずつ溶けます」

「なるほど。そうすると最後は消えるんですね!」

 スペルズは遠い目で、その姿を想像しているようだった。

 この後、『自動海水打ち上げシステム』が安定稼働することが立証され、次々と惑星フォトスに送られ運用が開始された。
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