上 下
97 / 189
南北大陸編

97 南北大陸へ-出発-

しおりを挟む
 三月も後半になり、いよいよ南北大陸へ向けて出発する日がやって来た。

 王城の上空には、ライブ配信の映像が映し出されている。
 さすがに舞踏会のようなパノラマスクリーンではなく普通の平面スクリーンだが、この映像はこの中央大陸の各国へも配信されている。各国首都上空には同じ映像が映し出されているという訳だ。国際的なイベントだからな。

「本日は、ついに南北大陸へ向けて我らが大陸評議会使節団が出発します。神聖アリス教国報道局は、この様子を中央大陸全土に向けてライブ配信いたします。なお、本日のライブ配信の最後にはクイズ大会を予定しておりますので、どうぞ最後までお楽しみください」

 報道局が出来たようだ。
 アナウンサーまで登場している。で、よく見るとセシルだった。何やってんの? 軽いな俺の王妃。もしかすると、スポンサーまで付いてるかもしれない。
 まぁ、これも神聖アリス教国の事業の一つなのでいいだろう。っていうか、飛行船の訪問先でもビデオ配信を使うつもりだし、セシルが担当してくれるなら最高だ。
 聞いたら、飛行船が発進したらアナウンサーは交代するらしい。なるほど後進も育ててるんだ。さすがだ。
 ってか、この世界の最初のアナウンサーは王妃かよ。ま、いっか。

 今回の南北大陸への派遣は建国祭への招待ではないので、各国要人を沢山引き連れる予定はない。
 このため使節団とは言っても比較的小規模になる筈だった。だが、急遽女神様一行が正式なメンバーとして追加されることになり、結局大所帯となってしまった。
 女神様一行は、いちおう文化交流代表団という名目だ。
 要するに旅行したいらしい。もう公私混同もいいところだと思ったが、そもそも神様って公私分けてるの? 分けてないっぽいな。じゃ、いいのか。
 ついでに、この世界全体を神界向けのリゾートにしちゃったほうがいいのかも知れない。冗談だけど。

 あと、今回は俺の嫁全員が乗っている。
 信じられないかも知れないが、赤ん坊や乳母を含めてだ。
 今までの飛行船なら考えられないんだが、加速キャンセラーがそれを可能にした。気圧調整もあるしな。
 これで、ニーナが寂しがることも無い。あ、俺も公私混同してたわ。てか、女神様含めて殆ど俺の関係者だった。やりたい放題だな俺。
 また、新型船ということもあり技術スタッフとしてランティスとスペルズも搭乗することになった。

 別大陸の国を訪問するので訪問先へのお土産を含め運び込む物資は多い。
 このため出発に時間がかかっている。代表団の主要メンバーは王族なので、当然従者もいるし荷物も一般人とは違うから尚更大変だ。

 船内に入ると、展望室にもライブ配信のスクリーンが表示されている。
 自分たちが乗っている飛行船の映像だが、外から見た映像を見るってのも面白いものだ。
 当然のように、窓から手を振ってカメラに映った自分をスクリーンで見ようとする奴が出る。でも、窓辺で手を振ってすぐに戻って見ても見えないからなクレオ。

  *  *  *

 荷物の積み込みも完了し予定通り飛行船はゆっくりと上昇した。いつも通りの発進である。ここまでは。

「それじゃ。新型船特有のエンジンの力を発揮してもらおう。画面に注目」

 俺は展望室にいる全員に注意を喚起してから、おもむろに操縦室に超加速開始の指示を出した。
 すると、ゆっくり上昇していた飛行船は、雲をかき消すようにフッと画面から消えた。

「な、なんじゃ、今のは?」リリー驚愕。
「す、すっご~い。って、あら? この飛行船ですよね? あら?」アルテミスは怪訝な顔。
「新しい加速って外から見るとこんな感じなんだ~。転移みた~い!」

 ミルルの言葉に、周りの人達もやっぱりこの飛行船なんだと分かったらしい。確かに、窓の外の景色は飛ぶように流れているからだ。

「こういう飛び方してたんだ。中にいると何も感じないのに」

 ニーナの気持ちが良く分かる。

「どうだ、凄いだろう? これが本当の超加速だよ」俺は自慢してみた。

「なんか、見てたら怖いかも~」これはミルルだ。確かに。
「おお、なるほど。あのような飛び方をするために、この方式を編み出したのじゃな?」

 ヒュペリオン王が感心している。

「はい、そういう事です。普通じゃ耐えられませんからね」

「これは素晴らしいわ。でもアレ、気の弱い人には見せないほうがいいと思います」

 なるほど、セシルのいう通りだ。ミルルも怖いって言ったしね。要注意かも。

「これで、幼児や体の弱い人が乗っても問題ありません。やっと、誰でも乗れる乗り物になったと言えるでしょう」

「「「「「「おおおおお~っ」」」」」」

~ 巡航速度に達しました。現在、ほぼ音速で飛行しています。

 船内アナウンスで巡航速に達したことを知らせた。
 実際は加速が終わり一定の速度になったのだが、加速キャンセラーのおかげでアナウンスしないとその違いが分からないからだ。

 さすがに、クイズ大会の映像は消すことにした。

  *  *  *

 発進の興奮が収まった後は、皆思い思いに景色を楽しんだりお茶を飲んだりして寛いでいる。今までとはちょっと違う和んだ飛行船の風景だ。

 そんな中、ふとピステル・カセーム王が怪訝な顔でやって来た。

「なんだか、人数が多いようなのだが。貴殿の奥方はともかく、あの高貴な方たちはどなたでしょう? 舞踏会の時から気になってはいたんだが」

 そりゃ、気になるよね。てか、建国祭からずっと俺の国に居るのに、なんで聞かなかったの?

「ええと、追加になった文化交流代表団ですね。あぁもう、バラしちゃいましょう。あの方たちは、全員女神様です」

「……」

 さすがに、一瞬疑いの眼差しを向けられたが、思い返したのか改めて女神様御一行を見て次第に驚愕の表情に。

「ちなみに、あそこで仕切っているのが女神アリス様です」

 人差し指で指そうとしたが、思いとどまったような恰好で口を開けたまま俺を見るピステル。

「驚くのも無理はない。一人でも大騒ぎなのに、八人も居たらびっくりするよね」
「リュウジ、数の問題じゃなかろう」

 リリーが横から突っ込みを入れる。

「そうよ、なんでもっと早く言っとかないのよ」とニーナ。
「ニーナ、こんなこと予め言ったら、信用されないだろ? 頭おかしいって思われるだけなんだよ。こういうのは、目の前で言わないとだめなんだ」

「なるほどのぉ。勉強になるのぉ」とリリー。

 お前は、人を驚かすタイミングを計算してるだけだよな。

「兄様、はいですの」

 兄を心配したクレオがお茶を持って来て差し出した。

「う、うむ。ありがとう」

 ピステルは茶を受け取って一口飲んだ。

「おお、クレオは優しいな」

「ふう。リュウジ殿、いきなりは勘弁してくれよ」
「いや、そんなこと言ってもな。あ、そうそう。クレオだけど、女神様の使徒になったから」
「なに? 本当かクレオ?」
「はい、なの」

「リュ、リュウジ殿、だから先に言ってくれと」
「いや、急に決まってな。俺も同じようなもんなんだ。だから、今言ったんだよ。あ~、それとな」
「ま、まだあるのか?」

 ピステル、さすがに焦っている。

「うん。実は俺、神になっちゃってな~っ、あははは」

 それを聞いて、ピステルはさらに目を大きく見開く。っていうか、顔を引きつらせる。

「な、なんだって~っ? なっちゃってな~って、どういうこと? 」
「まぁ、普通驚くよなぁ、これは。あんまりないもんなぁ」
「いや、絶対ないだろ。なんで、なっちゃえるんだよ?」

 と思いっきり突っ込むピステル。

「それが良く分からんから説明できないんだよ。たぶん、女神様がこんなにいるし、もともと俺は使徒だったから、昇進しただけなんじゃないか?」

「し、使徒だったのか? いや、それも聞いてなかったが。指輪の事といい、ただの魔法使いではないとは思っていたんだ。そうか使徒だったのか。で、使徒って昇進するのか?」

「知らないけど、しちゃったんだよ」
「しちゃったのか。たまには、遠慮しといてくれよ。こっちの身が持たない」
「うん、次はそうしよう」
「次があるのか?」

「そうか、さすがにもうないな。第二神とか言ってたし」
「それって、行けるとこまで行ってるよな。俺、リュウジ殿と話してていいのか?」
「いや、今まで通りで頼む」
「ほんとうに?」
「うん、いい」

 ピステルには悪いが、これはもう俺達と付き合って行くには避けて通れない道なんだよ。

 何はともあれ、こうして無事南北大陸へ向けて発進した。

  *  *  *

 飛行船は、聖アリステリアス領をピラールまで南下し海上で進路を東へ取った。
 巡航速で飛んでいるので昼時にはキリ山脈を眺めるあたりまで到達していた。眼下にはキリリス諸島が見える。
 俺達は優雅に景色を眺めながら、レストランで食事を取っていた。

「この加速を全く感じない空の旅というのは快適だな。しかも、全く揺れない」

 一緒に食事しているピステルが手を止めて言った。

「ああ、そうだね。外周を真空膜が覆ってるから音もしないしね。でも、多少は揺れたり音も伝わるんだよ」

「真空なのに音が伝わるのか?」
「ああ、真空膜の厚みを一定にしようとするんで外が揺れると合わせて中も揺れるんだ」

「ほ~。なるほど。そういうこともあるのか」
「まぁ、調整可能なんだけどね。全く聞こえないと、不便なこともあるじゃないか。操縦席の人間は外の音を聞いてるよ」
「ほ~。そうなのか」

 ピステルには、外の音が聞こえなくて困ることがあるとは思えないようだった。少なくとも、この飛行船は問題ないだろうと。

「む? 婿殿。ということは、七人の侍女隊の天馬一号の場合は外の音を聞いておるのか?」

 一緒にいるヒュペリオン王が突っ込んできた。さすが乗り物の事となると洞察力が違いますね。というか、それ以外食いつきませんね。

「そうです。ああいう操縦者しか居ないような乗り物は、外の音が聞こえないのは逆に致命的だったりするので基本、音は聞こえるようにしてます」
「おおっ。なるほどのぉ」

 これ、絶対乗らせろっていうよね? あれ、でも飛行艇が怖いとか言ってたからな~どうだろ? 見てたら、言おうか言うまいか迷っている様子。

「ただ、天馬一号は風防が小さいので、何かあった時のことを考えると自力で防御フィールドを張れる人でないと難しいですね」

「はぁ、そうじゃったか。そうじゃろうのう」

 俺の説明で、逆に諦めが付いたようだ。

「父上、飛行艇に慣れて待っておればいいのじゃ。リュウジがそのうち飛行艇にも真空膜フィールドを付けてくれるに違いないのじゃ」とリリーがフォローする。
「おお、そうじゃな。そうじゃとも。うん。待っておる」と王様。

 はい、そんな期待する目で見なくても作る予定です。俺が、頷いて見せたら、安心したようだ。
 でも、神魔動車には付けませんよ?

 そういえば、最近リリーがカスタムモデルのおねだりをしなくなったが、もしかして狙いを変えたのか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

処理中です...