72 / 189
神界派閥抗争編
72 シスター椎名美鈴
しおりを挟む
椎名美鈴の話は長くなるということで、談話室にお茶を用意して待った。
女神様と研究所の使徒たちは、すぐにやって来た。そしてお茶を配り終わって静かになったところで美鈴は話を始めた。
「順を追って話します。まず私が、この世界に召喚されたのは高校生のときでした。高校二年、こっちの年齢だと十五歳くらいかな? そんな私を召喚するなんて、どうかしてるって思いました」
美鈴は、こう切り出した。確かに。どんな検索条件を設定したんだよって話だな。
「衰退の原因調査だから、『全般的な知識と柔軟な頭脳』って事を条件に検索したみたいだけど、高校生じゃすぐに壁にぶち当ってしまいました」
そうだよな。
「医学の知識があれば全然違ったのにって何度も思いました。あ、高校生って私の世界の教育機関で一般的な教育をするところ。専門分野の教育はまだ始まっていない段階ですね。あくまでも私の世界の基準で、ですけど」
美鈴は俺達の世界の補足を加えながら説明した。
「そういえば、あなた言ってたわね。『理科年表』を『異世界召喚用緊急持ち出し袋』に入れてる奴いないかな~って」アリスが思い出して言った。
「うん、絶対いると思ったの。異世界召喚って流行ってたしね。あと、召喚に条件を付けてる偉そうな奴。ほいほい召喚される遊ぶ気満々な奴じゃだめだもんね!」
偉そうなってなんだよ。まぁ、気持ちはわかるけど。
でも、あれは遠回しにお断りしてたんだけど?
それにしても……。
「あ~っ、細かいとこ突っ込んで悪いんだが」
「何かしら?」と美鈴。
「『異世界召喚用の緊急持ち出し袋』はともかく、なんで『理科年表』なんだ?」
「え? そりゃ、科学の歴史が詳しく分かれば医学的な情報も得られるでしょ?」
「あ~っ。そう来たか」
「なにか?」
「残念だけど、そんな情報ないぞ」
「ええっ?」
「お前、『理科年表』なんて何処で知ったか知らないけど科学の歴史なんか書いてないからな。あれ」
「どういうこと?」
「ああ、そう勘違いする人はいる。でも、あれは『歴史の年表』じゃないんだよ」
「じゃあ、なんなのよ」
「はぁ。あれ、どこが出してるか知らないだろ? 国立天文台が出してるんだよ」
「天文台……」
「うん。国立天文台が毎年発表する、暦とか月齢とか潮の満ち干の時刻なんかが書かれてるんだよ。それで『年表』なんだよ。まぁ、おまけで物理、化学とか生物の解説もあるんだけど、薬学や医学は抜けてるな」
「うそ~っ。医学の情報無いの?」
「だから生物学までなんだよ。まぁでも最近のものは免疫の解説とかもあるから無駄じゃないと思うけど、あれを持ってる時点で医学とか薬学と関係ない人だと思う」
「えええええ~っ。だって、だって、君、特効薬とか作ってたじゃない」
「そう、だからもう大変だったんだよ。俺、医学の知識全然ないし。一般常識だけだし」
「……そうだったんだ」
「まぁ、もう終わったことだからいいけどな。ほとんど神様のお陰だよ」
「ううっ」
「いや、お前が責任感じるようなことじゃないよ。そもそもお前を召喚してる時点でおかしい」
「そうよね。って、なんかちょっとムカつくんだけど」
「いやいや、そうじゃなくて。俺を召喚したのもおかしい。世界が衰退する原因調査なんて人間にさせるなよってこと」
「そ、そうよね! そうなのよ。ほんとよ」
「うんうん、そんなん、知ったこっちゃねぇよ。ってか、誰もそんな調査できないよ。それこそ神様しか分かんないよ。神様に分かんないこと人間にさせんなよってことだ」
「耳がいたい……」アリス、珍しく真摯な態度で聞いてる。
「そうよね。ほんと、そこのとこが今の神界の限界なのよ」とイリス様。
「成長の遅い神の限界なのだ。だが、リュウジの言うことはもっともなのだ」
おお、ウリス様の賛同も頂きました。これは心強い。
「うん、リュウジ怖い」そうですね。平常運転でなにより。
「まぁ、いい。とにかく椎名さんの話を聞かせてもらおう」
「いいわ。覚悟してね」
「わかった」
* * *
「ある日私は、あなたと同じようにこの世界に召喚された。正直、日常に飽きていた私は、ちょっと興奮してたわね」椎名美鈴は思い出すように話した。
「この世界の問題を解決した後、元の世界に帰れるという話にも好感持てたし。どうせ帰るなら、ちょっと普通じゃない経験をしてからでも良いかなって思ったのよ」
うん、俺がこだわらなかったのも大体同じだ。ある日突然、違う魅力的な未来を選択可能だと言われれば、トライしようと思う人は多い筈だ。
うん? 俺、元の世界に戻れるって聞いたっけ?
「元の世界に戻れるの?」
「戻れるわね」とアリス。
ほう。それは良心的。って俺、今更戻らないけどな。
「まぁ、何年も経ってから戻ってもしょうがないんだけど」と美鈴は言う。
「確かに」
「あと、チート能力付きってのも多分に影響したわね。多分、ゲーム感覚になってたんだと思う。でも、ここはゲームの世界じゃない。ゲームは設定どおりにしか動かないけど、ここは想定外のことばかり。いいえ、私が想定していなかっただけなのかも知れないけどね。とにかく、思い通りにはならなかった」
美鈴は、そう言ってから少し茶を飲んで続けた。
「アリス様に会って、理科年表の話をしたのもその頃ね。相手がゲームのような魔王や魔物なら力技で解決できたんでしょうけど、ここは違った。この世界で、私は解決策を見出すことは出来なかった」美鈴は悲しそうに言った。
それは、俺も同じように感じたことだから、よく分かる。
「必要なのはチート能力じゃなくて本来の人間の力のほうだった。神力を沢山貰っても、この世界の問題は解決できない。少なくとも私にはね。それはそうよね。だから人間の私を呼んだんだもの」
何かをぶち壊せばいいというような簡単な話じゃないからな。
「でも私には人間の力が足りなかった。私は人間の力を獲得する努力をしてこなかったんだって思い知ったわ。折角、機会も能力もあったのに」
「いや、高校生じゃ仕方ないだろ。必要なのは専門的な知識だからな」
「そうね。でもやろうと思えば出来たし、一般的な常識も足りてなかったと思ったのよ」
そう言って美鈴はちょっと間を置いた。
「結局、私は手詰まりになった。私を支援してくれていたのは神父モートンくらい。彼は親身になって私の活動を支援してくれたわ。でも、そんな状況では神界評議会が神界リセットを選択するのを止めることは出来なかった」
「なるほど」
美鈴は、ちょっと自傷ぎみに笑った。
「それでも、私はこの世界を見捨てたくなかった。確かにディストピアと言える状況だったけど、神界リセットで終わらせたくなかった。それで、私は回避方法を探したの」
部屋は静まり返っていた。
* * *
「神界リセットそのものを止める方法は簡単に見つかったわ」
「担当神が神界リセットを実行中に私が神力を大量に使えば、神力が足りなくなってキャンセルされる。これは神界では公開された情報でした。注意事項をわざわざやるハズないわよね、普通」
「ただ、邪魔しただけじゃ問題は解決しない。私は解決策を探した。それで、見つけ出した方法が『メッセージ誘導』」
「なんですって!」
アリスはびっくりして思わず大きな声を出していた。
「なんだ、そんなに驚くような事なのか?」
「あ、ごめんなさい。でも『メッセージ誘導』は使徒の能力の中では禁忌とされているものなのよ」
「使徒の能力……あ、これか。グレーアウトしてるけど」
「ええ、普通は実行出来ないのよ」
「出来たとして、それは何なんだ?」
「ええと、私とあんたは直接頭の中で会話できるでしょ? でも、他の人とは出来ない。他の人にはメッセージを送れないの。でも、この『メッセージ誘導』だと送れるのよ」
「ほう」
「ただし、問題があるの。メッセージの内容にもよるけど受け取った相手は自分が考えたと思ってしまうの。他者からのメッセージだと気付かない可能性が高い。つまり、送られたメッセージを『自分が思い付いた』と感じてしまうのね。それは、他者の思考を操作する事になるとして禁忌とされているの」
なるほど。確かに頭の中で何か考えてる時、自分の声のつもりでいるが実際の音を聞いている訳では無い。
頭の中で他人の声を思い浮かべる時だって、想像してるだけで実際の音ではない。
『メッセージ誘導』の場合、自分の声のように感じるのか。
「そんなこと出来るのか。洗脳とは違うんだな?」
「そこまでは強くないわね。ただ、思い付いたことを実行してしまうのもまた事実」
なるほど。それなら禁忌とされるのも分かる。
そもそも、人間の頭の中なんて色んな考えが飛び交っているものなのだ。
自分の中にたくさんの人がいて常に協議して行動を決めているようなものだ。そこに、はっきりした強いメッセージが届いたら、引っ張られるのも当然だろう。
「リュウジさん。『アリス』という名を思い付いたと思ってるでしょ?」と、美鈴がちょっと悪戯っぽい目で言った。
「ちょっと待て。あれ、お前がそのメッセージ誘導で俺に送ったのか? 『アリス』って?」
「そうよ。千里眼で見ながら送ったの」
「まじか」
「それと、『異世界召喚用緊急持ち出し袋』と『理科年表』で検索するって事もね」
「えっ? 私にも送ったの? あれって、以前美鈴さんが言ってたのを思い出しただけだと思ってたんだけど?」
どうやらアリスにも送ったらしい。
「ごめんなさい。でも、そんなに詳細に思い出さないでしょう? 一回聞いただけの事を」
「そういえば、そうね」
「ああ、それで召喚のとき『まさか異世界召喚用緊急持ち出し袋を用意してる人がいるとは……』とか言ってたのか」
俺も思い出した。そういや、アリスが最初にそんなことを言っていたな。
「そうよ。まさか検索にひっかかるとは思わなかったのに、いたからびっくりよ」
「まじかよ。じゃ、理科年表を勘違いしてなけりゃ大成功だったんだな。惜しいな」
「そうかな、結果を見ると成功してると思うけど?」と美鈴。
「ああ~。まぁ、結果だけ見るとな」
「そうね。結果だけ見るとね」とアリス。
「結果が全てよ」と美鈴。
「で、どうするつもりだったんだ?」
「あぁそうね。その前に、ちょっと一息いれましょう」
椎名美鈴は、お茶を所望した。
女神様と研究所の使徒たちは、すぐにやって来た。そしてお茶を配り終わって静かになったところで美鈴は話を始めた。
「順を追って話します。まず私が、この世界に召喚されたのは高校生のときでした。高校二年、こっちの年齢だと十五歳くらいかな? そんな私を召喚するなんて、どうかしてるって思いました」
美鈴は、こう切り出した。確かに。どんな検索条件を設定したんだよって話だな。
「衰退の原因調査だから、『全般的な知識と柔軟な頭脳』って事を条件に検索したみたいだけど、高校生じゃすぐに壁にぶち当ってしまいました」
そうだよな。
「医学の知識があれば全然違ったのにって何度も思いました。あ、高校生って私の世界の教育機関で一般的な教育をするところ。専門分野の教育はまだ始まっていない段階ですね。あくまでも私の世界の基準で、ですけど」
美鈴は俺達の世界の補足を加えながら説明した。
「そういえば、あなた言ってたわね。『理科年表』を『異世界召喚用緊急持ち出し袋』に入れてる奴いないかな~って」アリスが思い出して言った。
「うん、絶対いると思ったの。異世界召喚って流行ってたしね。あと、召喚に条件を付けてる偉そうな奴。ほいほい召喚される遊ぶ気満々な奴じゃだめだもんね!」
偉そうなってなんだよ。まぁ、気持ちはわかるけど。
でも、あれは遠回しにお断りしてたんだけど?
それにしても……。
「あ~っ、細かいとこ突っ込んで悪いんだが」
「何かしら?」と美鈴。
「『異世界召喚用の緊急持ち出し袋』はともかく、なんで『理科年表』なんだ?」
「え? そりゃ、科学の歴史が詳しく分かれば医学的な情報も得られるでしょ?」
「あ~っ。そう来たか」
「なにか?」
「残念だけど、そんな情報ないぞ」
「ええっ?」
「お前、『理科年表』なんて何処で知ったか知らないけど科学の歴史なんか書いてないからな。あれ」
「どういうこと?」
「ああ、そう勘違いする人はいる。でも、あれは『歴史の年表』じゃないんだよ」
「じゃあ、なんなのよ」
「はぁ。あれ、どこが出してるか知らないだろ? 国立天文台が出してるんだよ」
「天文台……」
「うん。国立天文台が毎年発表する、暦とか月齢とか潮の満ち干の時刻なんかが書かれてるんだよ。それで『年表』なんだよ。まぁ、おまけで物理、化学とか生物の解説もあるんだけど、薬学や医学は抜けてるな」
「うそ~っ。医学の情報無いの?」
「だから生物学までなんだよ。まぁでも最近のものは免疫の解説とかもあるから無駄じゃないと思うけど、あれを持ってる時点で医学とか薬学と関係ない人だと思う」
「えええええ~っ。だって、だって、君、特効薬とか作ってたじゃない」
「そう、だからもう大変だったんだよ。俺、医学の知識全然ないし。一般常識だけだし」
「……そうだったんだ」
「まぁ、もう終わったことだからいいけどな。ほとんど神様のお陰だよ」
「ううっ」
「いや、お前が責任感じるようなことじゃないよ。そもそもお前を召喚してる時点でおかしい」
「そうよね。って、なんかちょっとムカつくんだけど」
「いやいや、そうじゃなくて。俺を召喚したのもおかしい。世界が衰退する原因調査なんて人間にさせるなよってこと」
「そ、そうよね! そうなのよ。ほんとよ」
「うんうん、そんなん、知ったこっちゃねぇよ。ってか、誰もそんな調査できないよ。それこそ神様しか分かんないよ。神様に分かんないこと人間にさせんなよってことだ」
「耳がいたい……」アリス、珍しく真摯な態度で聞いてる。
「そうよね。ほんと、そこのとこが今の神界の限界なのよ」とイリス様。
「成長の遅い神の限界なのだ。だが、リュウジの言うことはもっともなのだ」
おお、ウリス様の賛同も頂きました。これは心強い。
「うん、リュウジ怖い」そうですね。平常運転でなにより。
「まぁ、いい。とにかく椎名さんの話を聞かせてもらおう」
「いいわ。覚悟してね」
「わかった」
* * *
「ある日私は、あなたと同じようにこの世界に召喚された。正直、日常に飽きていた私は、ちょっと興奮してたわね」椎名美鈴は思い出すように話した。
「この世界の問題を解決した後、元の世界に帰れるという話にも好感持てたし。どうせ帰るなら、ちょっと普通じゃない経験をしてからでも良いかなって思ったのよ」
うん、俺がこだわらなかったのも大体同じだ。ある日突然、違う魅力的な未来を選択可能だと言われれば、トライしようと思う人は多い筈だ。
うん? 俺、元の世界に戻れるって聞いたっけ?
「元の世界に戻れるの?」
「戻れるわね」とアリス。
ほう。それは良心的。って俺、今更戻らないけどな。
「まぁ、何年も経ってから戻ってもしょうがないんだけど」と美鈴は言う。
「確かに」
「あと、チート能力付きってのも多分に影響したわね。多分、ゲーム感覚になってたんだと思う。でも、ここはゲームの世界じゃない。ゲームは設定どおりにしか動かないけど、ここは想定外のことばかり。いいえ、私が想定していなかっただけなのかも知れないけどね。とにかく、思い通りにはならなかった」
美鈴は、そう言ってから少し茶を飲んで続けた。
「アリス様に会って、理科年表の話をしたのもその頃ね。相手がゲームのような魔王や魔物なら力技で解決できたんでしょうけど、ここは違った。この世界で、私は解決策を見出すことは出来なかった」美鈴は悲しそうに言った。
それは、俺も同じように感じたことだから、よく分かる。
「必要なのはチート能力じゃなくて本来の人間の力のほうだった。神力を沢山貰っても、この世界の問題は解決できない。少なくとも私にはね。それはそうよね。だから人間の私を呼んだんだもの」
何かをぶち壊せばいいというような簡単な話じゃないからな。
「でも私には人間の力が足りなかった。私は人間の力を獲得する努力をしてこなかったんだって思い知ったわ。折角、機会も能力もあったのに」
「いや、高校生じゃ仕方ないだろ。必要なのは専門的な知識だからな」
「そうね。でもやろうと思えば出来たし、一般的な常識も足りてなかったと思ったのよ」
そう言って美鈴はちょっと間を置いた。
「結局、私は手詰まりになった。私を支援してくれていたのは神父モートンくらい。彼は親身になって私の活動を支援してくれたわ。でも、そんな状況では神界評議会が神界リセットを選択するのを止めることは出来なかった」
「なるほど」
美鈴は、ちょっと自傷ぎみに笑った。
「それでも、私はこの世界を見捨てたくなかった。確かにディストピアと言える状況だったけど、神界リセットで終わらせたくなかった。それで、私は回避方法を探したの」
部屋は静まり返っていた。
* * *
「神界リセットそのものを止める方法は簡単に見つかったわ」
「担当神が神界リセットを実行中に私が神力を大量に使えば、神力が足りなくなってキャンセルされる。これは神界では公開された情報でした。注意事項をわざわざやるハズないわよね、普通」
「ただ、邪魔しただけじゃ問題は解決しない。私は解決策を探した。それで、見つけ出した方法が『メッセージ誘導』」
「なんですって!」
アリスはびっくりして思わず大きな声を出していた。
「なんだ、そんなに驚くような事なのか?」
「あ、ごめんなさい。でも『メッセージ誘導』は使徒の能力の中では禁忌とされているものなのよ」
「使徒の能力……あ、これか。グレーアウトしてるけど」
「ええ、普通は実行出来ないのよ」
「出来たとして、それは何なんだ?」
「ええと、私とあんたは直接頭の中で会話できるでしょ? でも、他の人とは出来ない。他の人にはメッセージを送れないの。でも、この『メッセージ誘導』だと送れるのよ」
「ほう」
「ただし、問題があるの。メッセージの内容にもよるけど受け取った相手は自分が考えたと思ってしまうの。他者からのメッセージだと気付かない可能性が高い。つまり、送られたメッセージを『自分が思い付いた』と感じてしまうのね。それは、他者の思考を操作する事になるとして禁忌とされているの」
なるほど。確かに頭の中で何か考えてる時、自分の声のつもりでいるが実際の音を聞いている訳では無い。
頭の中で他人の声を思い浮かべる時だって、想像してるだけで実際の音ではない。
『メッセージ誘導』の場合、自分の声のように感じるのか。
「そんなこと出来るのか。洗脳とは違うんだな?」
「そこまでは強くないわね。ただ、思い付いたことを実行してしまうのもまた事実」
なるほど。それなら禁忌とされるのも分かる。
そもそも、人間の頭の中なんて色んな考えが飛び交っているものなのだ。
自分の中にたくさんの人がいて常に協議して行動を決めているようなものだ。そこに、はっきりした強いメッセージが届いたら、引っ張られるのも当然だろう。
「リュウジさん。『アリス』という名を思い付いたと思ってるでしょ?」と、美鈴がちょっと悪戯っぽい目で言った。
「ちょっと待て。あれ、お前がそのメッセージ誘導で俺に送ったのか? 『アリス』って?」
「そうよ。千里眼で見ながら送ったの」
「まじか」
「それと、『異世界召喚用緊急持ち出し袋』と『理科年表』で検索するって事もね」
「えっ? 私にも送ったの? あれって、以前美鈴さんが言ってたのを思い出しただけだと思ってたんだけど?」
どうやらアリスにも送ったらしい。
「ごめんなさい。でも、そんなに詳細に思い出さないでしょう? 一回聞いただけの事を」
「そういえば、そうね」
「ああ、それで召喚のとき『まさか異世界召喚用緊急持ち出し袋を用意してる人がいるとは……』とか言ってたのか」
俺も思い出した。そういや、アリスが最初にそんなことを言っていたな。
「そうよ。まさか検索にひっかかるとは思わなかったのに、いたからびっくりよ」
「まじかよ。じゃ、理科年表を勘違いしてなけりゃ大成功だったんだな。惜しいな」
「そうかな、結果を見ると成功してると思うけど?」と美鈴。
「ああ~。まぁ、結果だけ見るとな」
「そうね。結果だけ見るとね」とアリス。
「結果が全てよ」と美鈴。
「で、どうするつもりだったんだ?」
「あぁそうね。その前に、ちょっと一息いれましょう」
椎名美鈴は、お茶を所望した。
48
お気に入りに追加
587
あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる