異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

文字の大きさ
上 下
67 / 189
神界派閥抗争編

67 惑星リセット先行実施の請願出される2

しおりを挟む
 惑星リセット先行実施の請願だが、理解できない不明点があった。

「とりあえず魔王化って何? っていうか、魔王の定義はどうなってんの?」

 神界評議会に出された請願の内容は、現在の神界の見解としては間違っていないので、とりあえず不明な点は確認しようと思った。

「『魔王』は、神界の意思に抵抗する者で、神界と同等の力を持つ者のことね。そうなる可能性があるってこと」

 イリス様が教えてくれた。

「ううん。『神界と同等の力』とは思わないけどなぁ。あと、仲間として取り込むっていう選択肢はないのかな?」

 必ずしも敵対している訳ではないが神界とは異なる考え方ってのもあるよな?

「ああ、それやると、神界が多少なりとも譲歩する必要が出てくるからダメなんじゃないかな。神界の決定は絶対であり、神界は何があっても譲歩しない。譲歩してはいけないって主張ね」とアリス。

 驚いた。神界で、そんな思考停止みたいなことやっていいのか?

「神界の意思に抵抗してってのは? 抵抗しているつもりはないけど」

「使徒なのに、神界評議会の決定に意見具申してるからでしょうね」とイリス様。
「使徒って、意見具申しないんですか?」
「しないわね」即答かよ。
「そうなのか。意見はあると思うけど言わないのかな」

「あぁ、普通は上位神が使徒の考えを聞いてるから、特に行動に出ることはないってこと」
「あ、なるほど。そっか~、俺って思いっきり生意気な使徒なんだ」
「それは確かね。思いっきり失礼よね」とアリス。そうですね。
「ごめんなさい」

「上位神の責任もあるんじゃ?」

 フォローしてくれるエリス様。優しい。

「あるわね」とイリス様。
「うっ」アリスへこむ。

「でも、そこがアリスとリュウジらしくていいんだけど」とイリス様。
「いいのかな?」
「いいんじゃない?」とアリス。
「いいのだ」とウリス様。
「ちょっとね」ちょっとなんだ。

「でもこれ、どうしようかしらね」とイリス様。
「そうですねぇ」とアリス。
「魔法共生菌を抑え込んだだけじゃ、ダメなんでしょうか?」
「たぶん、最低でも元凶の魔法共生菌は殲滅出来ないと納得しないでしょうね」とイリス様。

「魔法共生菌さえ消えれば魔石は有限になり何時かは枯渇する。それなら神界優位に戻ります。しかも、あるだけの魔石を集めてしまえば神界が超優位になります」

「それが彼らの狙いでしょうね」

 イリス様は確信したように言った。

「魔法共生菌の危険性というのは名目で、パワーバランスを崩してることのほうが問題視されてる?」とアリス。

「恐らく、そういう事でしょう。政治的に危険なのね。だから、暢気に十年待てないんでしょう」とイリス様。

「なんで、そこまでするんだろ?」
「プライドの問題かしら?」とアリス。
「あるいは、都合が悪い勢力があるのかな?」
「恐らくね」

 イリス様は何か知ってそうだが、それ以上は言わないようだ。

「なんか、やばい気がするなぁ」
「我も、そう思うのだ」とウリス様。
「そうね。あいつ等の思い通りは嫌すぎる」とエリス様。あいつ等って。

「それって派閥みたいなもの?」
「そうね。特定の思想を持った一派かしら」とイリス様。
「その一派は、魔法共生菌を残すと下界が神界に反抗すると思ってるようね。少なくとも反抗できる力を持つことを許さないってことでしょう」

「俺、もしかして狙われてる? すっごく都合の悪い使徒だよね」
「まぁ、いろいろ発見とかして神界に貢献してるから、断罪しにくいとは思うけど」とアリス。
「だ、断罪」

 やばいやばいやばい。
 なんで俺、神様に睨まれてるんだよ! ちゃんと使徒してるのに! 嫁沢山いるけどな。あ、それで睨まれた? 神界の事なんか全然考えてないよ。ん? それがいけなかった? 知らんがな!

 とりあえず状況は分かった。なんとか回避策を考えないと。

  *  *  *

 皆が静かになったころ、俺は最近考えていたことを話してみることにした。

「そういや、神界特別措置法だけど。あれって、魔法共生菌が神力を吸い出してリセットを無効化したから叩かれてるんだよね?」

「ええ、そうね」とアリス。
「今回の請願では魔法共生菌の危険性は名目的な扱いだけど、その名目が無くなったら請願も出来なくなるんじゃないか?」

「それはそうだけど?」とアリスは不思議そうな顔で俺を見た。
「実は、その可能性があるんだ。そもそも、惑星リセットする理由そのものが無くなりそう。つまり、前提が崩れそうなんだ」

「「「「どういうこと?」」」」女神様達がいきなり迫って来た。

 近い近い近い。嬉しいけど、近い。神罰下りそうなほど近い。
 って、誰が神罰下すんだか知らないけど。

「いや、だから、神魔モジュールを開発してて分かったんだけど……」

「「「「うんうん」」」」

「魔法共生菌がリセットの神力を吸い出したわけじゃないと思う」

「「「「え~~~?」」」」いや、声大きいです。

「ちょっと、それどういうことよ。詳しく教えなさいよ」とアリス。

 いや、ちょっと落ち着こうよ。って、肩、掴まないで!

「言う、言うから、ゼロメートル神力シャワーになってるから」

 さすがに、ちょっと一息入れた。

「つまり、ただの勘違いだったんだよ」

 俺は、みんなちゃんと聞いてるのを確認しながら続けた。

「確かに神力は引かれる。けど、それは食われてたわけじゃないんだ。魔石と神石を接近させたときと同じ。魔力に引かれただけ。逆に魔力も神力に引かれる」

「魔力も?」とアリス。

「そう。互いに引かれる。つまり、自然な相互作用でしかないってこと」

 電気のプラスとマイナスが引き合うような。磁石のN極とS極が引き合うような。

「おお~っ」ちょっと考えた後、ウリス様が納得した声を上げた。
「確かにね」エリス様も納得した?

「そもそも、魔法共生菌が魔力を生み出すからって魔力を使えることにはならないって思うんだ」

 『産み出す』ことと『使う』ことは違うからな。

「いろいろ調べてみたんだけど、魔法共生菌が魔力を使った形跡がどこにもない」

 ここは、大事なところだ。

「つまり、共生したくて利益としての『魔力』を提供してるだけで、自らの意思で『魔力』を使ったりしていない。そもそも、意思なんて無い筈だ」

「そう、そうよね!」とアリス。
「リセットをキャンセルなんて絶対出来ないと思う」

「た、確かに。意思はないでしょうね」

 イリス様も納得してくれたようだ。

「そういう現象ってことはないのか? たまたまリセットをキャンセルしてしまう要素があるとか」とウリス様。

 確かに、その可能性は残る。

「リセットをかけて試したわけじゃないけど、神力の攻撃に抵抗するような現象は全く確認されないんだ。神力で攻撃すると死滅するだけ」

「抵抗しないんだ。防御フィールドとか張らないんだ」とエリス様。
「そう」

「で、もし単なる自然界の性質だったら、それを理由に惑星リセットするのはオカシイでしょ?」

「「「「おおお~っ」」」」

「た、確かに、そうよね。実際、魔法共生菌がどうやってリセットを無効にしたのか、そのプロセスは解明されていない」とアリス。

「うん。大体、ただの雑菌なんだよ。神界に反抗する意思どころか、意識そのものが無いはずだ」
「なら、それを主張すればいいのだ」とウリス様。
「それが、簡単じゃないんだよ」
「なんでよ」とアリス。

「理屈は分かったとしても、これはもうパワーバランスの問題になってしまってるから、イチャモン付ける気ならいくらでもできる」
「どうして?」とエリス様。
「魔法共生菌がリセットをキャンセル出来ないって証明できないから」

「ああ、悪魔の証明なのね」とアリスも気が付いたようだ。
「そう、出来ないことを証明することは出来ない。出来ることを証明するなら、やって見せればいいけど、『出来ません』は『ちゃんと調べろ』とか言われて終わる。可能性は残ったままだ。意思はなくても、現象としての可能性が否定できない」

「じゃ、どうすんのよ。このままいくと、この世界消されちゃうし、あんたもどうなるか分からないわよ」とアリスは焦って言った。

「そう。だから、真犯人を探す」

「真犯人?」
「うん、原因が魔法共生菌じゃないとすれば犯人が別にいることになる。本当の犯人が分かれば魔法共生菌犯人説は否定できるだろ? 『神界リセットをキャンセルする動機と手段を持った者』を探す必要がある。それが犯人の筈だ」

「なるほど。そうね」とアリス。
「リュウジが名探偵とは。やっぱり恐ろしい子」とエリス様。
「いや、まだ解決してないし」
「恐ろしい子候補」
「今回は諦めようよ」

 その夜は、遅くまで女神様たちと話し合った。

 出来ることは三つ。
 第一に神界リセットをキャンセルした本当の犯人の捜索。
 第二にルセ島の女神湯やリゾート女神湯などの施設を拡充して、この世界の価値を認識してもらう。
 第三に魔法共生菌の無害化計画。これは殲滅する必要性を無くすためだ。

 結論が出るころには、もう夜は明けようとしていた。
 季節は春だが俺の寝室に風流な趣きはない。エリス様、寝ぼけて蹴ってくるのは止めて!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...